第247話 大豊穣祭ですが何か?

 ランドマークの領都は、領内外の人々が入り混じって文字通りのお祭りになっていた。


 マイスタの街の祭りで評判だった色取り取りの提灯で華やかさを演出し、竜星組の指導の元、出店も例年以上に種類も豊富に出されている。


 竜星組の露店部門ももちろん、出店しゅってんしているが、中心はランドマーク領民による露店だ。


 その辺りは与力であるミナトミュラー家が出しゃばって仕事を奪うわけにはいかないのだ。


 とはいえ、今回は大規模なお祭りだから街の中心に例年通りランドマーク領の関係者がお店を出し、その周辺に竜星組が出店する形で話はまとまっている。


 そんな中、毎年恒例のランドマーク家による『かき氷』の出店は、早速、行列が出来ていた。


 領民にとって、豊穣祭の最大の楽しみの一つである。


 今回はリューではなく嫡男であるタウロが中心となっていたが、その人気は領民の間では絶大で、人たらしである父ファーザに似て、タウロも領民から愛されるタイプだった。


 そのタウロが、目の前でかき氷機を使って氷を削り、お客に出来立てのかき氷を配ると有難られた。


 そして、かき氷は領民の期待を裏切らず、感動を与えていた。


「氷なんてお貴族様の贅沢品を口にできる日が来るとは!」


「これが、かき氷か……!一瞬で口の中で溶けてしまうが、いろんな味がしてたまらないな!」


「溶けて下に溜まったやつも飲んだら美味しいぞ!」


 領民達は毎年の様に、画期的な食べ物を提供してくれる領主一家に感謝しかなかった。


 この数年の間に領内は栄え、人も仕事も増え、生活は豊かになった。


 もちろん、そうなると幸せな事ばかりではなくトラブルも起きるようになるのだが、腕の立つ領兵達が治安を守ってくれるから心配する程ではなかった。


 領民達は1年間、安全、安心にランドマーク領民として1年間過ごせた事を、『かき氷』を口にしながら安堵し、幸せを感じるのであった。


 他所からランドマーク領を訪れた者達は、呆然としていた。


 近隣と言えば、スゴエラ侯爵領の他には、ランドマーク騎士爵時代の同与力である騎士爵、準男爵、男爵領が領境を接していて、そこの領民達が、出稼ぎや、見物がてら足を運んで来ていたのだが、ランドマーク領都の華やかで数多くの露店の規模にスゴエラ侯爵領都とはまた違うスケールに圧倒されていた。


 もちろん、お祭りであるから、人が多いのは想像出来ていた。


 それならスゴエラ侯爵領都のお祭りに出かけていけば、体験する事も出来るからだ。


 だが、ランドマーク領都のお祭りは目に入るものが知らないものばかりであった。


 露店の一つ一つも、王都での最先端のものばかりらしい。


 こんな魔境の森に接している辺境に、王都の最先端の嗜好品や食べ物、お菓子、道具、おもちゃなどが、当然の様に並んでいるのが異常なのだ。


 余所者の領民達にとって文字通りランドマーク領都のお祭りは別世界であった。


 そんな驚きに包まれている中、いつの間にか暗くなってくると、大通りの交通整理が行われだした。


「なんだなんだ?」


「山車が通るんだよ」


「山車?」


「ああ、作っているところを見たが、凄く大きくてな。──まあ、見物してみろ。驚くから」


 見物客達が、交通整理の為、紐を渡された外側に席を陣取って山車が来るのを待った。


 するとランドマーク城館の方から、祭囃子の笛太鼓が微かに聞こえてくる。


「来たようだ!」


 ざわざわと見物客達が騒ぎ始めていると、大きな人を模った人形が馬車の土台に乗せられ、通りを進んで来た。


「なんじゃこりゃ!?」


 見物客達はその内側から光って強調される人形の大きさにびっくりしながら、初めて見る山車に圧倒された。


「──何々……?この大きな人形はこの国の王様の像らしい」


 山車の足元部分に、一つ一つタイトルが付いているのだ。


「へー。王様はこんな巨人なのか!?」


「馬鹿、そこは、違うに決まってるだろう」


「でも、王様をこんな辺境で見るなんて事、下々の俺達にしたら人形でも無い事だぞ」


「そうだな。ありがたやありがたや!」


 見物人達は、驚く者、感動する者、祈る者など色々であったが、一様に初めての体験に心を震わせるのであった。


 山車はいくつも続き、元寄り親であるスゴエラ侯爵の像や、祖父カミーザが剣を持って魔物退治をするシーンを切り取ったもの、父ファーザの勇壮な騎士姿のもの、長男タウロ、次男ジーロの戦う姿を描いもの、リューとリーンの道路整備しているワンシーンを造形したものなど、ランドマーク領に所縁のある山車が続いて、領民達はその一つ一つに歓声を上げて拍手を送る。


 最後はランドマーク家総出の家族写真の様なシーンを模った山車が登場すると大きな歓声が起きた。


「我々ランドマーク領民の誇りだ!」


「子爵様ご一家、ばんざーい!」


「来年も豊作をよろしくお願いします!」


 領民達が口々にそう言うと、最後の山車を拝むのであった。



 祭囃子が永遠の様に鳴り響く中、大盛況でお祭りは進んだ。


 そして、お祭りは佳境を迎える。


 ひゅるるるる……


 ドーン


 ドドーン


 魔法花火が上がり始めた。


 わあああああああ!


 見物客達から歓声が上がる。


 大きな音に腹の底から振動を感じ、その大きさに圧倒され、色鮮やかな光に感動して心を震わせた。


 花火が終わるまでその心の底からの歓声は続き、ランドマーク領初めての大掛かりな大豊穣祭は大成功で終わりを迎えるのであった。



「……みんなお疲れ様!」


 この大豊穣祭の陣頭指揮を執っていたタウロがへとへとになりながらリュー達裏方を労った。


 傍にはエリス嬢がいる。


 こんな時だから、長男のタウロとエリス嬢には、仕事を離れて楽しんで貰いたかったが、ランドマーク主催だから嫡男のタウロが忙しいのは仕方がなかった。


 だが、エリス嬢は今日一日、長男タウロの働く姿を見て、改めて惚れ直したのか仲睦まじそうなのであった。


「じゃあ、お兄ちゃん。後の後片付けは僕達がやるからゆっくりしてて」


 リューはそう言って長男タウロを城館に強引に帰すと、


「よし、みんな!後片付けまでが祭りだよ!僕達が中心になってランドマーク領民と共に街を綺麗にし、ミナトミュラー一家の仕事が最後まで丁寧な事をアピールするよ!」


「「「へい!」」」


 リューの号令の下、ミナトミュラー一家の面々は、ランドマーク領都に散らばって、後片付けを始めるのであった。

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