第248話 話し合いですが何か?

 ランドマーク本領での一大イベントが成功に終わり、一息吐きたいところのリューであったが、学祭が行われる時期という事もあり、それどころではなかった。


「それでは、今年の学祭での出し物をみなさんには決めて貰います」


 担任のビョード・スルンジャー先生が授業を変更してそう告げた。


 そして、続ける。


「それでは挙手で意見をお願いします」


「はい!──このクラスには王女殿下がおられます。ですので王女殿下握手会はどうでしょうか?きっと行列が出来る事間違いなしです!」


 王女の取り巻きの女子が、真っ先に挙手すると、そう提案した。


「おお!いい提案だ!俺もその握手会に並びたいな」


「それなら、サインも足してみたらどうだろう?」


「王女殿下御一人にそんな事をさせる気か!?──ここは人気のあるリーン殿や、平民に評判が良いミナトミュラー騎士爵殿も入れようではないか!」


 おいおい!握手会前提で話を進めないでよ!


 リューは王女殿下の取り巻き連中の提案に内心ツッコミを入れる。


「ちょっと待って下さい。王女殿下にそんな負担の掛かる催しをさせるなんて失礼ではないでしょうか?それに、クラスの出し物をそんな安易なものにして良いのでしょうか?」


 イバルが、挙手すると、そう否定した。


「王女殿下の握手を安易と言うのか!」


「そうだそうだ!」


「失礼はそっちだろ!」


 エリザベス王女の取り巻きが、イバルの反対意見に怒り始めた。


「イバル君は、王女殿下以外の人が楽をし過ぎだと言ってるんですよ。それに王女殿下の負担をまるで考えていないじゃないですか。──そこで僕の意見を言わせて貰います……。──短時間での回収率、高額のお金が動きやすく、状況を操作しやすい事を踏まえて……、賭場はどうでしょうか?」


 リューは真剣にそう提案した。


 そう、リューは完全に学祭の意味をはき違えていたのだ。


 というのもリューは前世でまともに学校行事に参加した事がなかったので、学祭のシステムを全く理解していなかったのだ。


 なので、とにかく収益を出せるものが良いという考えの元、導き出した結果が賭場であった。


「「「「「え?」」」」」


 クラス全員が、想像を超える斜め上の意見に驚きを隠せないのであった。


「リュー、それはまずいだろ!」


 と、ランス。


「学祭で賭場は許可が下りないって!」


 と、イバル。


「今回ばかりは、いくらリューの意見でも賛成できないぞ!?」


 と、ナジン。


「……賭場?なんだか面白そう……」


 と、シズ。


「リューの意見に何の文句があるのよ!」


 と、逆切れするリーン。


 そして、


「え?駄目なの!?」


 と、クラスの反応を見て、普通にショックを受けるリューであった。



 ざわつく教室であったが、リューの評価に関わると思ったイバルが、助け舟を出した。


「ミナトミュラー君の意見である賭場は、そのままだと教育上良くないとは思いますが、その一部を取り入れたものにするのはどうでしょうか?──例えば、執事・メイド喫茶をやって、その中で注文した品の金額をルーレットや、サイコロで決めるといったものはどうでしょうか?これなら、クラス全員に仕事が割り振れますし、王女殿下や、リーンさん、ミナトミュラー君の人気も利用できます。そして娯楽提供も出来て人気が出ると思いますが」


「それ面白そうだな……」


「いいね!」


「貴族である自分達が執事やメイドの格好をするというのも趣があるな!」


 イバルの意見にクラスの生徒達は賛同する雰囲気に変わった。


「ナイス、イバル君!ルーレットやサイコロの仕込みは僕に任せて!」


 リューは、学祭に対して誤解、もしくは、まだ理解していないのか、完全にイカサマを仕込む気満々であった。


「リュー。学祭の目的は、外部や地域の人達へ学校を開放したり、生徒達の意識を高揚させたりするという役割があるんだ。利益を出して資金調達や団結力を強化する目的もあるけど、ガツガツしたものじゃないからね?」


 イバルが完全に利益を出す目的のみに特化しようとするリューを宥めるのであった。


「そうなの!?てっきり、沢山稼いだクラスが勝ちのサバイバル勝負が学祭の趣旨だと思ってたよ……」


 どこでそんな間違った情報を入手したのかわからないが、イバルの説明でやっと学祭の意義を理解するリューであった。




「──それでは、このクラスの出し物は、『執事・メイド喫茶~お値段はあなたの運次第!~』に、決定します。メニューはミナトミュラー君の提案にあったものを中心によろしいですね?」


「「「「はーい!」」」」


 担任のスルンジャー先生が黒板に決定事項が書き出された内容を読み上げると、生徒達は全員が賛同するのであった。



 休憩時間──


「執事か。親父のやってる事とあんまり変わらないけど……、まっ、いいか!」


 国王の側近をしている父親の元で学んでいるランスにとっては、真新しいものではなかったが納得した。


「うちのクラスはみんなほぼ貴族だからな。庶民の格好は普段しないから楽しみな者がいてもおかしくないか」


 と、ナジンが言う。


「そんなものなの?」


 リューが、ナジンの発言に質問した。


「ああ、上級貴族の娯楽の一つとして演劇があるんだが、観る事に飽きた貴族の中には、庶民の役を演じて楽しむ者もいる。そういう意味では普段やらないものを楽しむ傾向にはあるかもしれないな」


「へー。知らなかったよ」


 リューがナジンの知識に感心する。


「……それよりもリズがメイド役を引き受けたのが心配……」


 シズが最近仲良くなったリズ(エリザベス王女の愛称)の心配をした。


「それはきっと友人のシズがメイドを選んだから、王女殿下もそうしたんじゃないかな?嫌なら裏方も選べたわけだし、きっと大丈夫だよ」


 リューはそう答えると、このシズとエリザベス王女の仲の良さを微笑ましく感じるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る