第246話 今年は大規模ですが何か?

 ランドマーク領の豊穣祭が行われることになった。


 かなり前から準備が行われて来たこの豊穣祭は、例年と比べて規模はかなり大きくなっている。


 というのも、ランドマーク領は最近、馬車で一日の距離にあるスゴエラ侯爵の領都という都会からも、足を運ぶ人が増えている。


 ランドマーク領は他所から注目され、人が集まって来る程、栄えてきているのだ。


 その理由の一つが主産業となっているコヒン豆、カカオン、各種果物の生産や、それらを加工した『コーヒー』や、『チョコ』などや馬車、自転車、リヤカーなどの製造業も盛んで人手は常に求められているから、仕事が欲しくて移住を求める者も未だにあとを絶たない。


 そんな注目の的となっている領地だから、豊穣祭ともなると領外からも注目されて人がやってくる。


 だから、これまでの領民で楽しむ小さい祭りから、ランドマーク領をアピールする大規模な祭りが今年から行われることになったのだった。


 これには長男タウロが陣頭指揮を執り、プロデュースにリューが付いて領内外に大々的に宣伝し、準備された。


 この準備にはリューが行ったマイスタの街での祭りの経験が生かされている。


 祭囃子の笛太鼓に今回は山車までもが準備されていた。


 リュー曰く、「馬車の技術が生きる!」だそうだ。


 さらに、竜星組からは露店部門、興行部門、魔法花火部門、密造酒部門の人員を中心に、他の部門からもそれを補佐する為に事務所総出で派遣されている。


 ミナトミュラー商会からも同じで、酒造部門、山車の制作にあたる各職人部門、お好み焼きもどき(ピザ)で勢いに乗る飲食部門などを中心にこちらも総出である。


 もちろん移動はリューの『次元回廊』であったが、流石に前例のない大移動にリューも疲れ果てた。


 しかし、そのおかげか『次元回廊』のスキルがバージョンアップしたのだがそれはまた別のお話。


 そんなこんなで今年の豊穣祭は総力戦とも言える力の入れようで、ランドマーク家名物の甘味の出店も数か所で行われる事が決まっている。


 今年は、『かき氷』だが、もちろんその情報は当日である今日まで秘匿されている。


 重要な氷もランドマーク城館の地下3階に沢山備蓄されているから、今回の大規模な祭りにも対応できる予定だ。


「山車の準備は大丈夫だよね?」


 この祭りの陣頭指揮を執っている長男タウロがリューに最終確認を行った。


「もちろんだよタウロお兄ちゃん。城館前にひとつひとつ山車をマジック収納から出してスタートさせ、領都を一周練り歩き、城門を潜って出たところで終了だよね」


「うん……!交通整備は出来ているよね、セバスチャン?」


 リューの答えに心強く感じて頷くと、執事のセバスチャンにも確認を取る。


「はい。開始時刻には、道の整理も領兵や、リュー坊ちゃんのところの組員?達と共に行われます」


 執事のセバスチャンがいつもの通り、準備万端の手筈で答え、さらに続ける。


「それよりタウロ様。私としましては、この忙しさで婚約者であるエリス嬢をお一人にしておられる事の方が大問題と愚考致します。今、セシル様やハンナお嬢様がご一緒ですが婚約者が傍にいないと寂しいかと思います」


 セバスチャンがそう意見すると、タウロはハッとする。


「そうだよ。タウロお兄ちゃん。あとはセバスチャンに任せて、お祭りの開始宣言をエリス嬢と一緒にしなよ」


 リューもセバスチャンの意見を支持した。


「わ、わかった!──じゃあ、セバスチャン、あとはリューと一緒にお願い!」


 タウロは二人に感謝するとエリスの待つ城館に走って戻っていくのであった。


「……セバスチャン、タウロお兄ちゃんは来年にはエリス嬢をランドマークに迎えて一緒に生活するみたいだけど大丈夫だよね?」


 リューは、何でもこなして優秀な長男タウロが、女性に関してのみ不器用な事に心配になっていた。


「大丈夫ですよ。リュー坊ちゃん。いえ、ミナトミュラー騎士爵様。エリス嬢はそんなところもタウロ様を好意的に受け止められているご様子。義理の父になられるベイブリッジ伯爵もその事を昨晩の食事の席で茶化しておいでになりました。問題はないでしょう」


 執事のセバスチャンは、リューにちゃんと礼儀を払いながらもランドマーク家の三男として扱って答えてくれた。


 リューはその気持ちを嬉しく思いながら、長男タウロが心配の必要がない事を確認したのであった。


 ランドマーク城館の周囲は人だかりが出来ていた。


 今年から、豊穣祭の開始宣言が城館前で行われる事になったと言うので、それを領民として見届けようと集まって来たのだ。


 城館前にはひと際高い台が用意され、ランドマーク家の人々が一堂に会している。


 リューは、リーン、護衛スード、準備の指揮の為に訪れているランスキー、マルコなど幹部達と共に、関係者席に座っている。


 父ファーザが、領民にこの一年働いてくれた事への感謝をすると簡単に話をまとめる。


 そして、ランドマーク家全員で豊穣祭の開始を宣言した。


 その瞬間、開始の合図である魔法花火が上空に上がる。


 集まった領民達からその音と綺麗な光に歓声が上がった。


 わあああぁぁぁ!


 今年もこうして、ランドマーク家の豊穣祭が始まったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る