第245話 地下三階ですが何か?
ランドマーク領では一大行事である豊穣祭の季節を迎えようとしていた。
例年より遅い開催なのは、コヒン豆の収穫がこの時期だからだ。
今や、ランドマーク領の代名詞と言ってよい収穫物である。
その時期に合わせて豊穣祭を今年からずらす事になったのであった。
リューは、今年は主催者側ではない。
今回の責任者は長男タウロである。
ただし、毎年ランドマーク家が領民を労う為に出している出店に関しては、リューが案を出していた。
それが、ランドマーク城館に作られた地下三階の存在である。
この地下三階はリューとリーンが、学園で停学処分を受けている間に作ったものであるが、豊穣祭の出し物の為であった。
その地下三階では、リューとリーンがいなくてもランドマーク家の人々によって維持出来る様に大きな氷室が用意されていた。
氷室、それは氷を管理する部屋の事である。
リューならば、その場で魔法による氷を大量に作ってマジック収納に保存すれば良いが、マジック収納を持たない家族にとってはそういうわけにもいかない。
それに氷魔法は貴重な上に魔力消費も大きいので、家族の中でも氷魔法が使える長男タウロ、妹ハンナ、そして母セシルの3人で領民を満足させる量の氷を一度に用意させる事は難しい。
なので、毎日、適量の氷を魔法で作り、地下三階の巨大な氷室に保存する事で準備して貰っていたのだ。
そう、今年の領民を労う為の甘味は、かき氷である。
かき氷機もリューの提案ですでに職人達が技術を駆使して開発済みである。
「氷は貴重だから、食べるというと王族や上級貴族の夏の贅沢品というイメージがあるのだけど、まさかそれをさらに加工して違う食べ方を考えるとか流石、リューだね!」
長男タウロは、地下三階で毎日、コツコツと作って蓄積させておいた氷の山をリューに見せ、白い息を吐きながら自分の弟の発想に感心するのであった。
「リューお兄ちゃんは天才!──私も毎日、氷作ってたよ!」
妹ハンナが、同じく寒い氷室の中で白い息を吐きながらリューに褒めて貰いたくてアピールした。
「うん、ハンナも偉いね、よしよし。──これだけの量があれば、かき氷だけでなく食べ物を冷やすのにも使えそう。贅沢な使い方だけど安定供給できればこれも商売になりそうだね」
リューがハンナを褒めて頭を撫でながら、いろんな使い道を想像するのであった。
「そうだね。領内の数少ない氷魔法を使える領民も雇って安定化を図ると良いかもしれない」
長男タウロもリューの意見に賛同する。
「それより今は豊穣祭の『かき氷』の試作品を試すんでしょ?シロップだったっけ?早くそれを使って食べてみましょうよ!」
リーンはすでに食べるモードに入っている。
興奮気味なのか吐く白い息もみなより多めな気がする。
「ははは!わかったよ。じゃあ、かき氷機を出すね」
リューは笑うとマジック収納からかき氷機を出し、氷を機械に設置する。
木の皿を下に置くと、取っ手を掴んでリューが回し始めた。
シャッシャッシャッ
かき氷機から氷を削る音が鳴り始めると木の皿に削られた氷が落ちて山になってく。
妹ハンナは、白い息を吐きながら目を輝かせて、その光景を眺めている。
リーンも似たようなもので、リューの作業が終わるのをワクワクしながら待っていた。
「──こんな感じかな?」
リューは削った氷の山を軽く手で固めて形を整えると、職人に頼んで作って貰っていた瓶詰のシロップをマジック収納から出した。
「イイチゴ(苺)のシロップと、練乳、溶けた『チョコ』をちょこっとかけてっと……」
リューは完成したかき氷をみんなの前に置いた。
「「「おお!」」」
長男タウロ、妹ハンナ、そしてリーンはただの氷から出来上がったこの赤い小さな山に歓声を上げた。
「じゃあ、みんなで食べてみて」
リューはスプーンを三人に配る。
三人とも思う様にかき氷の山をスプーンですくって口に運ぶ。
「イイチゴの甘酸っぱさと練乳の甘味、そして、チョコがアクセントになってたまらなく美味しいよ!」
「凄いよリューお兄ちゃん!口の中で一瞬で溶けちゃうけど、とっても美味しい!」
「──!まだ暑さが残るランドマーク領でこの冷たい氷菓子は最高ね!」
長男タウロ、妹ハンナ、そしてリーンが顔を綻ばせ思い思いの感想を口にした。
そして、あっという間にかき氷は無くなるのだが、ここでお約束が発動する。
「あ、頭が!?」
とタウロ。
「キーンってするよお兄ちゃん!」
とハンナ。
「何、この痛みは!?」
とリーン。
「ははは!それはアイスクリーム頭痛だね。かき氷を一度に沢山食べちゃうと頭痛が起きちゃうんだ。痛みを和らげるにはおでこを冷やすのが一番だよ」
リューは笑って前世の知識を披露すると小さい氷の欠片をみんなのおでこに押し付けた。
「アイスクリーム頭痛?あ、ほんとだ和らいだ……」
「痛みが引いて来たよ、リューお兄ちゃん物知り!」
「流石リューね!」
三人はリューの知識に感心するのであった。
そして、また、かき氷をリューにお願いして三人は食べるのだが、
「「「クション!」」」
と、一緒にクシャミをした。
「「「寒い……!」」」
三人はかき氷の味に興奮して忘れていたが、氷室内は山積みされた氷で室温は大きく下がっている上にその中でかき氷を食べて体温まで下げているのだ。
寒くないわけがない。
リューは笑うと三人を急いで氷室から出すのであった。
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