第244話 決勝後ですが何か?
シズは決勝の舞台から控室に戻った。
そこで出迎える幼馴染のナジンの顔を見ると緊張の糸が解けたのか、腰砕け気味に脱力する。
それをナジンが抱き留めて椅子に座らせた。
「シズ、頑張ったな」
「……うん。一生分頑張った……」
シズは何とも言えない笑顔でナジンに答える。
そこに、観客席で観戦していたリューとリーン、ランスにイバルが駆け付けた。
「「「「シズ、優勝おめでとう!」」」」
「……みんな、ありがとう……」
シズが嬉しそうにリュー達に答えた。
「まさか攻撃魔法以外で王女殿下を出し抜くとか考えたな!」
ランスがシズの頭脳戦での勝利を褒めた。
「本当ね。ランス戦で大きな切り札を敢えて使う事で、王女殿下に生活魔法という意識すれば簡単に回避出来る魔法を警戒させずに済ませたんだもの凄いわシズ!」
リーンもシズの戦術を絶賛する。
「王女殿下と対戦して負けたからこそわかるよ、あの王女殿下に勝ったのは本当に凄いと思うぞ!」
イバルもシズの偉業を大きく評価した。
「……えへへ。二度は使えない手法だけどね……」
シズが照れ臭そうに答えた。
「ああいうのは、一度肝心なところで決まれば良いんだよ。それを決めてしまうシズは本当に凄いよ。僕もあれをやられたら、ちょっと困ってたと思う」
リューもシズの頭脳戦を最大限評価した。
シズは憧れの存在的な友人に褒められて満面の笑顔を浮かべる。
「リューなら、どう対応したんだ?」
ランスが、具体的な回避を聞いてみた。
「僕なら?……うーん、無詠唱で水を取り除く事も出来るけど……、無詠唱無しなら上着を脱いで一度頭に被せて、その上着ごと水を取り除くかな。王女殿下は直接攻撃でシズに解除させる案が思いついたみたいだけど、ルール上、直接攻撃は禁止だから王女殿下は躊躇し、判断に迷って適切な対応が出来ないまま、溺れて気を失った感じだよね」
「なるほどな!俺も王女殿下と同じ、直接攻撃での解除までしか思いつかなかったな」
ランスがリューの回答に感心した。
「確かに。溺れている段階で冷静な判断は難しいから、俺もルールを無視してシズへの直接攻撃で解除を試みるだろうな。王女殿下はその辺り、まだ、冷静だった分、裏目に出たな」
イバルが、そう指摘したのは、ルール上直接攻撃は禁止だが、一度目は厳重注意なので、一発で反則負けではないのだ。
その辺りは王女殿下も溺れて焦った部分があったのかもしれない。
「ところで、王女殿下は大丈夫なのか?」
ナジンが、エリザベス王女を心配した。
「王女殿下は大丈夫みたいよ?審判が処置して、すぐに意識を取り戻していたから。ナジンたら、シズの勝利に浮かれてその確認はしていなかったのね」
リーンがクスクスと笑うとナジンを茶化した。
「……そうか。確かにシズの勝利に浮かれていたかもしれないな」
ナジンは苦笑いを浮かべて答えるのであった。
表彰式では、王女殿下は元気な姿をみんなの前で見せた。
今回は二位だが、実力的にはシズより上なのは間違いない。
負けた事に悔しがる事無く、堂々と表彰される姿が、流石王女であった。
そして、表彰台でシズと握手をする。
「シズさん、優勝おめでとう。今回は私の完敗です。でも、来年は、負けませんよ?」
王女殿下は堂々とした笑顔でシズの耳元に囁くと、シズの腕を上げて会場の拍手を促した。
恥ずかしがるシズだが、会場の優勝を祝う歓声と拍手に照れながらも、誇らしそうに小さく手を振って答えるのであった。
大会の翌日──
シズは一躍、時の人になっていた。
ラソーエ侯爵の令嬢としてはシズはもちろん有名であったが、その実、大人しい少女というイメージがあり、今回の魔術大会の活躍はそのイメージを払拭するものであった。
エリザベス王女の取り巻きは流石に王女の手前、シズを絶賛する事はしなかったが、朝の挨拶をわざわざシズにするようになった。
エリザベス王女本人もシズに対する認識を改めたのか、教室でシズに話しかけるという光景が生まれていた。
シズは動揺してナジンの袖を掴んで離さなかったのが印象的であったが、会話がなかなか続かない事にエリザベス王女が、シズと共通の話題を絞り出した結果が、ランドマーク製『チョコ』の話だった。
するとシズはそれに対し目を輝かせ、夢中で新作について熱弁するという状況が生まれた。
これには王女クラスの全員が、呆気に取られていたが、エリザベス王女も笑顔でそれに答えて質問したり、お勧めを聞いたりしていると、そこに甘いものにうるさいリーンが加わり、女子トークに花を咲かせるのであった。
そんな中、ただ一人、シズに袖を掴まれてその場から離れられないナジンが女子トークを聞かされて困った顔をしているのをリューやランス、イバルが面白がって笑っているのであった。
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