第243話 少女の活躍ですが何か?

 シズとランスの準決勝は観客席をはじめ、リューとリーンも予想しない決着であった。


 なんとランスの動き回って中位魔法を詠唱し、高火力の火魔法で仕留めるやり方に、シズが中位水魔法で対抗してきたのだ。


 前の試合までの的確で精密な魔法を駆使した展開から、シズがまさかの力押しでのランスを封じて勝利した事は、見ている者みなの想像の範囲を超えていた。


「……こいつはすげぇーぜ!」


「あんな小さな子が、大きな子に力で圧倒するとは!」


「そこにしびれる憧れる!」


 勝敗が決した瞬間、観客席は一気に盛り上がった。


 この日一番の大歓声が巻き起こった。


「シズらしくない戦い方だけど……。──もしかして……。なるほど、そういう事か……!」


 リューは、シズらしくない戦い方が不自然と感じたが、その理由がわかった気がした。


 決勝戦のエリザベス王女に対抗する為の伏線と読んだのだ。


「え?どういう事?シズは、何か考えての事なの?」


 リーンがわからずにリューに聞き返した。


「見てのお楽しみだよ。決勝戦は面白くなると思う」


 リューは意味ありげに笑うとみなまで語らないのであった。




「やられた!まさかシズが正面から力押ししてくるとは思わなかったよ。前の試合の戦い方だったら俺にも分があると思ってたんだけどな」


 負けたランスは試合後、シズと握手をすると笑顔でそう答えた。


「……ごめんね」


 シズが謝る。


「おいおい、謝るなよ!決勝戦、楽しみにしてるぜ?」


「……うん!」


 シズはランスの檄に珍しく強く頷いて答えるのであった。




 ついに決勝戦のカードが決定した。


 これには誰もが予想していない対戦だった。


 エリザベス・クレストリア王女と、シズ・ラソーエという女性対決である。


 エリザベス王女はシードでもあるし、光魔法という優位性からも優勝候補最有力であったが、シズに関してはリューやリーンなどの隅っこグループでもない限り、大人しそうなシズが上がってくるとは思わなかっただろう。


 対戦カードに恵まれた事もあるが、ランスとの対戦で中位魔法を使って力押しで勝利するという荒業も見せた事からシズの評価はうなぎ上りであった。


 だが、観客の中にはこう分析する者もいた。


「ラソーエ侯爵のご息女は、準決勝で切り札を見せた感があるな。あの中位水魔法での力押しは素晴らしかったが、本当なら決勝まで隠しておきたかったのではないだろうか?」


 と。


「なるほど。相手のボジーン男爵の嫡男の強さに切り札を出さざるを得なかった感じですな?あれを見られてしまったら、王女殿下に対抗策を取られる可能性は高い。決勝戦は王女殿下有利ですな」


 分析にそう納得する観客は多かった。


「好き勝手に言ってるわね」


 リーンが、観客の声を聴いて、そうぼやいた。


「でも、そう思うのが普通だよ。シズが切り札を見せたのはある意味本当だろうけど、それはシズにとって、決勝戦に勝つ為の伏線だと僕は見てるよ」


「さっきもそれらしい事言ってたわよね?どうせ、教えてくれないんでしょ?」


「観てのお楽しみだよ!ははは!」


 リューは改めて含んだ言い方をすると笑って誤魔化すのであった。




 決勝戦──


 エリザベス王女は、油断した雰囲気は一切なく、決勝の舞台会場に上がった。


 対戦相手のシズ・ラソーエさんは強敵だ。


 一回戦から試合を観ていたが、その正確性から準決勝の高火力の魔法まで使い分ける才能ある魔法使いだ。


 だが私には必勝法がある。


 光魔法は詠唱時間こそ、他の魔法と時間は変わらないが、到達時間は他の魔法よりもはるかに短い。


 初動で詠唱してしまえば、あとは相手に詠唱時間を与える事無く畳みかけてしまえばいい。


 きっとあちらは、序盤で勝負をかける為に、下位魔法で自分より早く攻撃を仕掛け、光魔法の詠唱を妨げようとするだろうが、私はそれをかわし、詠唱を続ければいい。


 油断は無い。


 エリザベス王女はそう自分に言い聞かせると対戦相手の少女が舞台に上がってくるのを待つのであった。




 シズは時間ギリギリで決勝の舞台に上がって来た。


「……ごめんなさい。お願いします」


 シズは審判と対戦相手であるエリザベス王女に謝罪すると、構えた。


 二人ともやる気十分だ。


 審判はそれを確認すると、試合開始の宣言をするのであった。



 エリザベス王女は、開始と共に詠唱に入ろうとした。


 相手であるシズの口の動きを確認して、下位魔法を警戒する。


 いつでも相手が発動する下位魔法はかわせるようにだ。


 だが、次の瞬間、エリザベス王女の視界が歪んだ。


 というか息が詰まった。


「え?」


 エリザベス王女は光魔法の詠唱が出来なくなり、動揺した。


 頭上から水が落ちてきたのだ。


 そう、シズは無詠唱で使える生活魔法の”水”をエリザベス王女の頭上に出したのだ。


 エリザベス王女は思わず水を飲み込みむせると、詠唱が止まってしまった。


 シズはそこで初めて水をエリザベス王女の顔付近で留める為の魔法を唱えた。


 どれも攻撃魔法ではない為、審判も一瞬固まったが、使ってはいけないという規則もないので、無言で進行した。


 エリザベス王女は、顔の辺りが球体の水に包み込まれ、息が出来ない状態に陥った。


 急いで水を手でどかそうとするが、相手は水である。


 それは無理であった。


 頭全体を覆う程度の水の塊であったが、シズが魔法で操っている為、エリザベス王女がどんなに抵抗しても水をどける事は出来ない。


 それに息も出来ず苦しい。


 詠唱も不可能である。


 攻撃魔法の様に、攻撃を当てて相手のポイントを減点する事は出来ないが、試合のルールには、相手が試合続行不可能になる場合や、棄権した場合、勝負が決する事も条項にある。


 シズはそれを逆手に取ったのだ。


 ランス戦では中位魔法を使う事で、エリザベス王女に高火力魔法を印象付けたのも、生活魔法を警戒させない為であった。


 シズは、自分の切り札の中位水魔法をも伏線にして、無詠唱で使える生活魔法の”水”に勝負を掛けたのだ。


 エリザベス王女は陸で溺れる状況に抗っていたが、意識が遠のいていくのを感じてその場に倒れ込んだ。


 そこで審判は、試合を止めた。


 エリザベス王女の試合続行不可能と判断したのだ。


 観客席は地味な決着に、静まり返る。


 そんな中、リューとリーン、ナジンにランス、イバルが拍手をするとそれに釣られる様にして拍手が伝染していく。


 最後は会場全体が拍手と歓声に包まれ、この決勝の勝者であるシズの頭脳戦での勝利を祝福するのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る