第232話 試合開始ですが何か?

 王立学園併設の闘技場会場──


 初戦のランス、ナジン、イバルは相手に何もさせる事無く圧勝してみせた。


 この辺りは名家の出だから、剣術は幼い頃より貴族としての嗜みとして叩き込まれている事もあるが、さらにはやはり才能だろう。


 イバルは魔法の方が才能はあるのだろうが、剣術の素養も申し分が無い。


 あんな事が無ければ、公爵家の世継として名君の道を歩んでいただろう。


 ランスとナジンは剣術の才能が秀でている。


 その才能を伸ばす為、魔境の森に連れて行きたいところだと、リューは試合を観戦していて思うのであった。


 そんなリューのかなり危険な思いは知らないながらも、何となく悪寒が走る三人であったが、二回戦の初戦であるリューの試合を出場者出入り口から眺めるのであった。


 対戦相手は、一回戦で激闘の末に勝利を収めた普通クラスの生徒だったが、リュー対策として、先手必勝とばかりに、開始直後、フライング気味にリューに斬りかかるも簡単にかわされ、次の瞬間には気を失って倒れていた。


「え?どうしたんだアイツ、急に倒れたぞ?」


「あっちの試合観てなかったけど何か起きたのか?」


「観てたが、早すぎて何もわからなかったぞ!?」


 観客席からは一瞬で終ったリューの試合にざわざわと騒ぎ出した。


 ちなみに、闘技場の試合会場は六面あり、一年生から三年生まで二面ずつ使用している。


 なので観客席の視線の多くは来年進級後、すぐ就職活動になる三年生の試合に向けられていたのだが、剣を交える事無く相手が倒れるという事態に、リューと対戦相手に視線が集まるのであった。



「……意外にアーサとの練習は役に立ったなぁ……」


 リューは、相手の不意打ちにちょっと面食らったのだが、アーサとの死合のおかげで冷静に対応できたのであった。


 ちなみにリューは、相手の剣をかわすと同時に、刃が潰されている試合用の剣を横にして、面の部分で相手の後頭部を軽く打って気絶させたのであったが、観客は一瞬過ぎて見逃した様だ。


「次の試合からは、変に目立たない様に、ゆっくり剣は振るか……」


 リューは反省すると、やっと審判が勝敗の判定を下したのを確認してから、舞台から降りるのであった。


 もう一つの会場で行われている一年生の試合にはリーンが出ていたが、こちらも一瞬で勝負はついていた。


 いや、数瞬か。


 リーンは、剣先が潰された細剣で、相手選手の胸当ての数か所ある継ぎ目を突いて破壊後、相手の剣を細剣で絡めとる様に上空に巻き上げてから、相手の顔に剣先を突き付けたのだ。


「あなたの負けで良いわよね?」


 リーンが、対戦相手のト・バッチーリ商会の御曹司に聞く。


「は、はい……」


 これには、観客席から歓声が上がった。


「実力差をはっきり見せる戦いだったな!」


「対戦相手のト・バッチーリの奴、リーン様に話しかけられてなんて羨ましい!」


「後で、あいつは呼び出しだな!」


 負けた上に呼び出しを食らう事になり、踏んだり蹴ったりのト・バッチーリであった。




 その後も順当に試合は進み、準々決勝になった。


 リューは、手加減して勝った為、さほど騒がれる事も無かったが、確実に勝利したのでやはり学年一の成績優秀者!と観戦している各騎士団や貴族などからも評価されるのであった。


 その中、リーンはナジンと対戦した。


 この対戦はナジンの善戦が光る試合であった。


 終始リーンが攻めて、ナジンがそれをどうにか凌ぐという展開であったが、シズの応援も届いたのかナジンはリーンの金色の髪の毛を数本斬り落とすくらいには反撃して見せたのであった。


 もちろん、試合はリーンの圧勝で終ったが、


「ナジン、腕を上げたじゃない!」


 とリーンが珍しくリュー以外を褒めるのであった。


 続いて、イバルはある意味因縁の相手と対戦していた。


 それは旧エラインダークラスの取り巻き、マキダール侯爵の嫡男であった。


「イバル!男爵の養子となった今となっては、以前の様に気を遣う事も無いからな。ボコボコにしてやるよ!」


 マキダールはそう試合前に宣言したのであったが、試合はイバルがマキダールをボコボコにする展開で終始進み、審判が止めに入った事でイバルの完全勝利となったのであった。


「……すまない、マキダール君。俺はそう簡単に負けるわけにはいかないんだ」


 イバルは担架で運ばれるマキダールにそう答えると控え室に戻って行くのであった。


 そして、会場の観客が一番注目していた試合がやってきた。


 それは、ランス・ボジーンと、『聖騎士』スキル持ちのスード・バトラーである。


 注目のスード・バトラーに対して、一番の対戦相手と見られていたのが、シードのリューとリーン以外では、このランスだったのだ。


 ランスはボジーン男爵の嫡男としてその剣術における実力は評価が元々高かった。


 その為、観客席の大会前の前評判では、事実上の決勝戦はランスとバトラーが対戦する準々決勝だと目されていた。


 シード選手であるリューとリーンも注目だが、成績優秀と剣術は別物と思われていたのでこれは仕方がないだろう。


 試合前、リューはランスに声を掛けた。


「ランス君、準決勝で待ってるよ」


「おう!待ってなくていいけど、バトラーは俺が倒すぜ!」


 ランスはリューとは本当に対戦したくない様だが、バトラーには負けたくない様で気合いが入っていた。


「うん!」


 リューの返事を聞くとランスは控え室を出て、試合会場に向かうのであった。

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