第231話 大会に備えますが何か?

 リューはリーンと共に帰宅後は、ランドマークビルの屋上で剣術の練習に励む一週間を送る事になった。


 傍ではメイドのアーサが参加したそうにうずうずしながら控えている。


 実は、腕が立つアーサにも相手をして貰い、練習しようとしていたのだが、アーサの剣技はあくまでも相手をいかに効率よく殺すかに特化していて、型もへったくれも無く、時には相手の急所を狙う為に剣を投げる事もあるし、そこから組打ちになる事もあったのだ。


 その為、アーサとは試合ではなく、急所狙いの殺し合いになるので練習にならなかった。


 それはもう剣術練習の範疇ではないので、アーサは練習から除外する事になったのであった。


「若様、今度はナイフを投げたり、目突きしないから、もう一回ボクとやろうよ!」


 リューに負けたのがよっぽど悔しかったのかメイドのアーサは駄々をこねた。


「嫌だよもう!剣術の練習試合で金的を蹴り上げようとする人とはやりたくないよ!」


 リューはアーサの殺気無しでの急所攻撃は読みづらく文字通り命懸けだし、何より剣術の練習にならないから、本当に相手をしたくないのであった。


「そうよ、アーサ。剣術の練習試合で始めの合図の前に、お辞儀しているリューの首を落とそうとするのは礼儀がなっていないわ!」


 リーンもアーサの行為を注意した。


 いや、問題は礼儀とかじゃなく、雇い主の命を躊躇なく狙える事が問題だからね!?


 リューはリーンの的外れな注意に内心ツッコミを入れる。


「……ともかくアーサは僕達の剣術の練習には向かないから、もう駄目」


 リューは、アーサの参加を却下するのであった。


 こうして、リーンと剣術の練習に励むのだが、リーンはリーンで細剣を使うので突きが主体の剣技だった。


 その為、これはこれで独特過ぎてリューの練習にはあまりならないのだが、贅沢は言ってられないのであった。


 そんな中、練習相手の候補に幹部のランスキーやマルコ、執事のマーセナル、その助手の元冒険者タンクなど腕自慢の名が上がったが、ランスキーは剣も使うが、得手は拳術である事、そして何より忙しいという事から却下。


 マルコの得手は剣術だが戦い方は幻惑魔法を使ったものなので、これも特殊過ぎ、そしてランスキー同様、忙しいのでこちらも却下。


 執事のマーセナルは、正統派の剣術の使い手だったが、「若様に剣を向けるなど滅相も無い!それに私は膝に矢を受けてからはそちらの方は引退しています」と、首を縦に振らなかった。


 マーセナルは以前に仕えていた主の子息がリューの年齢に近く、守れずに失った事があった為か、リューにその姿を投影して過保護なところがあるので、これ以上はお願いする事が出来なかった。


 となると執事マーセナルの助手として付けている元冒険者のタンクだが、こちらは専門が盾役で、振るっていた武器も戦斧だったから剣術向きではなかった。


「僕が言うのもなんだけど……、うちの部下、みんな癖が強い!」


 雇ったリューに言われるのはみんな心外だろうが、その通りであった。


「やっぱりリューの相手が務まるのは私だけね!」


 リーンは、胸を張るのであった。


 その筆頭がリーンだよ?


 と内心ではツッコミを入れるが、直接は言わないリューであった。




 それから一週間が経った。


 王立学園に併設されている闘技場の観客席は満員御礼であった。


「本当に各騎士団関係者や、貴族、代表出場者の関係者なんかも沢山来るんだね……」


 リューは、出場者控室の出入り口から会場を見渡して感想を漏らす。


「そんな事より、対戦表確認したか?リューとリーンはシードで、俺達、準々決勝に勝ち進むまでは対戦する事はないみたいだぜ?」


 ランスが、直前に確認したのかそう伝えてきた。


「そうだね。順当に勝ち進んで当たるのは、準々決勝でリーンとナジン君、イバル君はその勝者と準決勝。僕はランス君と準決勝だよ」


 リューもチェックしていたので、そう教えた。


「ランス。順当に行けば、準々決勝で例の『聖騎士』スキル持ちのスード・バトラーと当たるから気を付けな」


 ナジンが、ランスに忠告する。


「そうなのか!?リューと当たる前に『聖騎士』と、当たるのか?俺の方、連戦で地獄じゃん……!」


 嫌な顔をするランスであったが、何気にその『聖騎士』に勝って、リューと対戦するのを前提に言っているところが大物だ。


「でも、流石リューとリーンだな。二人はシードだから二回戦からだろ?」


 イバルが、学年の成績優秀者である二人を褒めた。


「別にシードじゃなくてもいいんだけどね。そうか……準決勝まで行ったらランス君とスード・バトラーって子との勝者と当たるのか。僕はどちらともやってみたいなぁ」


 リューは、純粋に残念がった。


「……どこかの戦闘民族みたいな事を言うなって!俺としては『聖騎士』を倒した時点で、リューとはやりたくないんだぜ……!」


 比較的に好戦的なランスがうんざりした様に愚痴をこぼした。


「それはこちらも変わらないさ。準々決勝でリーン、準決勝でイバル、決勝でリューとか、勝ち進む事が出来たとしてもこんなの罰ゲームさ」


 ナジンが、お手上げとばかりに両手を上げて降参のポーズを取った。


「まぁまぁ。今日はみんな、楽しんで良い結果を残せる様に頑張ろう!」


 リューは、まるで他人事の様に、緊張感無くみんなを励ますのであった。

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