第230話 二学期初日ですが何か?

 『スモウ』興行が大成功に終わり、竜星組の懐がかなり温かくなってリューは、新学期を迎える事になった。


 何しろ、予想外である竜星組のアントニオ優勝により、賭けの胴元としての収入だけでも莫大な利益を生んでいた。


 特に決勝戦は誰もが警備隊の巨体の兵士が優勝だと予想し、残りのお金をこの最有力候補に全額賭けて、より多く回収しようと試みた者が多く、思いもかけない程の大金が動いていた。


 それを中肉中背のアントニオが見事に相手を翻弄して勝って見せた。


 これこそ小さい者が大きい者に勝つ『スモウ』の醍醐味であったが、この大番狂わせで大金が胴元である竜星組の懐に入って来たのであった。


「やっぱりアントニオの優勝が大きかったね」


 リューは夏休み明けの学園の教室でリーンとイバル相手に、そう分析する。


「そうね。アントニオは決勝まで地味な勝ち方して来てたから、派手な勝ち方をして上がって来た相手の方が圧倒的に強そうに見えるもの」


 リューが『スモウ』について、アントニオを一日指導していたのだが、内容が寄り切りや、押し出しと派手さが無い技ばかりだったのだ。


「ちょっと!アントニオの勝ち方は、『スモウ』においては強い勝ち方だからね?確かに一見すると地味な勝ち方だから盛り上がりには欠けるのかもしれないけど……」


 前世では相撲好きであったリューには拘りがあるのだ。


 それに相撲は昔、極道が地方巡業の興行を仕切っていたので関わりは深い。


 他にも昔は、相撲の最前列の観覧席である、通称・砂かぶり席には極道の関係者が座り、刑務所でテレビ観戦している身内にこちらの元気な姿をアピールする場でもあった。

 ※現在、そんな事は一切ありません。


 そんな歴史もあり、リューの相撲への拘りは中々のものであった。


「賭け金の大半を回収できたのは確かに大きいよ。それにあの日出した露店も大盛況で、売り上げもかなり良かったから興行部門は今回かなり仕事したと思う」


 イバルは裏方の立場で冷静に分析する。


「だよね?今後も定期的に『スモウ』興行は行っていこう。そうだ、子供向けの『スモウ大会』もやって良いイメージを付けて行くのどうだろう?」


「そうね。賭博有りの興行だから、あれだけじゃイメージは悪くなる可能性あるからいいんじゃない?」


 リューの提案にリーンも賛同する。


「子供の内から『スモウ』に慣れ親しんで貰うのはいいな。浸透して盛り上がれば、興行自体も広範囲で展開出来そうだよ」


 イバルも賛同した。


 そこへランスが教室に入って来た。


「おはよう、三人とも久し振り!今日からまたよろしくな!」


「ランス、早いね?」


 リューが、まだ教室にはリュー達以外まだまばらな教室を見渡しながら聞いた。


「……実は解けない宿題があったから、リュー達に教えて貰おうと思ってさ。一応、夏休み最終日にランドマークビルに聞きに行ったんだけど、リュー達留守にしてたろ?結局聞けなくて夏休み明けちゃったよ」


 ランスがリュー達の忙しさに呆れながらすぐに解けていない宿題のノートを開いた。


「あ、それ、僕とリーンは違う宿題内容になってるから、イバル君に聞いた方が早いよ」


 リューはランスが開いた宿題ノートを確認するとイバルに話を振る。


「じゃあ、俺が教えるよ」


 イバルはランスの横に座ると自分のノートを開いて教え始めるのであった。



「おはよう!みんな早いな……。シズと自分が先に到着したと思っていたのに、ランスもいるじゃないか」


 そこへ今度はナジンとシズが教室に入って来た。


「……おはようみんな。──ランス君は、宿題写させて貰ってるんだね?」


 シズがイバルの横で机に向かっているのを見て、推理を披露した。


「ははは!正解。今、イバル君に教えて貰っているところだよ」


 リューはシズの予想に笑うと答えるのであった。




「えー、みなさん。宿題は昼までに必ず提出して下さい。あと、二学期は行事が沢山予定されています。特に一週間後には、学内剣術大会が控えています。夏休みの間に準備はしてくれていると思いますが、校外からもお客様が訪れますので、しっかりとルールに基づいて、正々堂々と恥ずかしくない試合をして下さい」


 担任であるスルンジャー先生が二学期の最初の授業で開口一番、そう口にした。


「うちのクラスの代表、リューとリーン、俺とナジン、イバルだよな」


 ランスが、確認をする。


「……隅っこグループ強いね。みんな私の分も頑張って」


 シズが、小さいガッツポーズをしてみせた。


「王女殿下が次点だったからな。それだけに簡単に負けるわけにはいかないよな」


 ナジンが責任重大とばかりにみんなに念を押した。


「リューとリーンがいるからうちのクラスから優勝者が出るのは間違いないだろ?」


 ランスが、楽観論を唱えた。


 もちろん、根拠は剣術のテストでも成績優秀者は王女クラスが占めているからだ。


「そうとも言えないかも……。俺が知っている限りでは、普通クラスの生徒の中にも剣術に関して非凡な生徒はいるから」


 イバルが意味深な情報を告げた。


「そうなの?聞いた事ないけど?」


 リューがイバルの言葉に興味を持った。


「剣術以外の成績は普通だからね。でも、剣術に関しては平民の中ではトップクラスだと思うよ。王国騎士団のスカウトも注目しているくらいだから」


「あー。それってスード・バトラーの事か!──剣術では将来の剣聖との噂もあるよな。確か『聖騎士』のスキル持ちだったかな?」


 ナジンがどこから入手したのか詳しい情報を出してきた。


「『聖騎士』!?そんな凄いスキル持ちなら、確かに油断できないぜリュー」


 普段、リューの評価を最大限しているランスが、慎重な姿勢を取った。


 それだけ『聖騎士』のスキルが凄いという事なのだ。


「大丈夫よ、リュー。どんなに凄いスキルでも、リューの普段の努力の前には遠く及ばないわ」


 『聖騎士』という凄いスキルを前にしても、リューの評価が変わらないリーンである。


「「「流石リーン……!」」」


ランス、ナジン、イバルはそう口を揃えて言うと、リーンのリューへの信頼の厚さにしみじみと感心するのであった。

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