第233話 告白ですが何か?

 ランス・ボジーンと、スード・バトラーの準々決勝。


 観客席の評判通り熱戦が繰り広げられた。


 将来の剣聖と称され、優勝候補と呼び声が高い『聖騎士』スキル持ちのスード・バトラーに対し、ランスは愚直に正面から打ち合っていた。


 バトラーはランスと同じ十四歳。


 青い長髪を後ろで結び、身長はランスと同じ長身。


 体格も変わらない。


 ランスのスキルは、『魔剣士』。


 こちらも、有望なスキルではあるが、『聖騎士』程ではない。


 それに、今回は剣術の大会なので魔法は使えない。


 剣のみの戦いの中では『聖騎士』に分がありそうであった。


 その為、事実上の決勝戦とはいえ、バトラーの大きなリードで勝敗を決すると思われていたので、この互角の戦いは観客席を沸かせた。


「なんと!やるなボジーン男爵の倅は!」


「バトラーの実力の程を確認しに来たのだが、これは意外な展開だな!」


「将来は、ボジーン男爵の跡を継いで陛下の側近になるのだろうが、それまでは我が騎士団で一翼を担う人材になるかもしれんな……!」


「ボジーン男爵の倅では、当家の護衛役には雇えないな……。実に惜しい」


 騎士団のスカウトから上級貴族までバトラーと互角に渡り合うランスに高い評価が付くのであった。



「くっ!やるな!だが、俺にも意地がある!今回だけでなく来年再来年と三連覇して名を残し、一流騎士団に就職して、爵位を得るんだ邪魔をするな!」


 バトラーは自分の未来設計を語りながら、ランスに鋭い斬撃を浴びせる。


「残念だったな。その夢は叶わないぜ!」


「お前が『魔剣士』スキル持ちなのは知っている。だが、ここは剣術大会だ。純粋な剣の腕なら俺は誰にも負けない!」


「俺じゃないさ!うちの学年にはお前より圧倒的に強い奴が二人いる。その二人がいる限り、バトラー、お前の優勝の可能性は無いんだよ!」


 ランスはバトラーの剣に押されながら、バトラーの優勝を否定した。


「俺より圧倒的に強い!?はん!『聖騎士』スキル持ちである俺にこの学園で剣術で勝てる奴はいないさ!」


 バトラーはそう言うとランスの剣を撥ね上げた。


 勝負を決した。


「それがいるのさ」


 ランスはニヤリと笑ってバトラーに言い返すと、負けを宣言して退場した。


 審判がバトラーの勝利を告げる。


「負け惜しみさえ言わなければ、その実力、認めてやっても良かったのにな!」


 バトラーは退場するランスの背中にそう告げて見送ると、観客席の歓声に応えて手を振り、退場するのであった。




「ごめん、リュー。約束を果たせなかった」


 控え室に戻って来たランスがリューにそう謝罪した。


「相手も強かったから仕方がないよ。でも、ランスなら勝てない相手じゃないよ。次回、リベンジしないとね」


 リューはランスの肩をポンと叩くとそう励ました。


「……そっか。リューがそういうなら次回リベンジだな……。ちょっとトイレに行ってくる」


 ランスはそう告げると控え室から出ていくのであった。


 リューはあとを追わない。


 ランスが一人になりたいのがわかったからだ。


「……スード・バトラーか。今回はランスの代わりに倒しておくよ」


 リューはそうこの場にいないランスに宣言すると、次の試合まで待機するのであった。




 休憩時間──


 リューと同じ控え室のイバルは観客席から試合を眺めていた。


 そこに、多くの側近を連れた貴族が現れた。


 エラインダー公爵だ。


 イバルがいる事に気が付くと近づいて来た。


「──イバルか。まだ、この学園にいたとはな。お前はどこまでもエラインダー家の面汚しだな」


 元親とは思えない辛辣な言葉が投げかけられた。


「……俺はもう、エラインダー家とは関係ありません。今のコートナイン男爵家も継ぐ気はないので、あなたに気を遣うつもりはありません」


 イバルは元父親の言葉に動揺する事無く、言い返した。


「……ほう。少しはマシになったようだ。だが覚えておけ。エラインダー家でなければ、お前には価値がないのだ。この大会で少し勝って目立ったところでお前の才能を買う者はいないと知るがいい」


 エラインダー公爵はそう宣言すると側近を引き連れて貴賓席に戻って行くのであった。


 そこに、イバルを探してリューがやってきた。


「あれは?」


「ああ、あれが俺の元父親エラインダー公爵本人さ」


 イバルが自嘲気味に答えた。


「……酷い事言ってたよね?でも、大丈夫。イバル君の才能は僕達みんなが認めてるから」


 リューは笑顔でイバルに答える。


「ありがとう。……じゃあ、リーンに次の試合、俺に負ける様に言ってくれる?」


 イバルはリューの言葉に感謝すると笑いながら冗談を言い返した。


「それは無理だよ。リーンはそういう手加減は出来ない質だからね」


 リューもイバルの冗談に笑って答えるのであった。




 もう一つの控え室──


 そこにはリーンとバトラーの二人が静かに待っていた。


 バトラーの方は、たまにチラチラッとリーンに視線を向けているが、リーンは全く相手にしていないのか、静かに座って動かない。


「……り、リーン様!」


 バトラーが何か決心したのか勇気を出してリーンに声を掛ける。


「……」


 リーンはピクリと反応したが何も答えず、バトラーの次の言葉を待った。


「リーン様。今日俺が優勝したら、友達になって下さい!」


 どうやら、バトラーはリーンに好意を持っていた様だ。


「……優勝?それは次の準決勝に勝ってから考えなさいよ。リューがあなたに負ける事は絶対無いけどね」


 リーンは確信を持ってそう答えると、バトラーから視線を外した。


「お友達の肩を持つのもわかりますが、俺は、俺の次に優勝候補最有力だったボジーン君に勝ったんですよ。残念ながらミナトミュラー騎士爵殿では俺の相手には──」


「とんだ勘違い君ね。リューに勝てる子なんて、この学園には一人もいないわ。私でも勝てないのに、あなたに勝てるわけないじゃない」


 リーンはバトラーの実力はリューどころか自分よりも劣ると宣言したのだ。


 バトラーはプライド傷つけられて歯軋りした。


「……では、俺がそのミナトミュラー騎士爵殿を完膚なきまでに叩き潰し、実力の差を見せつけます!俺が勝ったらリーン様は俺の彼女になって貰いますよ!」


 バトラーの計画では今回優勝して、友達の約束をし、次の大会優勝で彼女に。


 そして、三回目で婚約を申し出るつもりでいたのだが、リーンの挑発的な言葉にバトラーは計画を一つ飛ばして言い放った。


「そんなの嫌に決まってるじゃない。それにリューに勝てると思ってる時点で哀れに感じて来たわ。そうだ、その約束をする代わり、あなたが負けたらリューの手下になって貰うわよ。あ、それはリューが嫌がるかしら……」


「言いましたね!約束ですよ!この約束はもう覆らない!」


 バトラーは、言質を取ったとばかりに言い切ると、リーンとの将来を思い描いて、勝利を確信するのであった。

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