第228話 続・夏休みもあと僅かですが何か?

 魔境の森に送り込んだ竜星組の荒くれだった若い衆は、その危険な環境下に置かれた事で、自分達の非力さを心の底から知り、そして、自分達の親分であるリューとその身内の凄さを叩き込まれていた。


 最初こそ祖父カミーザが全く使い物にならないからと、若い衆は領兵達と共に罠作りや運搬作業に従事させていたが、顔つきが変わってくるのを確認すると、ヘルボアを罠まで導く役割を与えた。


 つまり、囮役である。


 祖父カミーザに言わせると、逃げ足さえあればなんとかなる、という事で、若い衆のリーダー的な存在であったアントニオがまずは囮役として逃げ回った。


「アントニオという青年は見込みがあるのう。わはは!ここにいる間はワシが直々に鍛えてやるわい!」


 祖父カミーザはそう言うと夏休みの間中、アントニオを魔境の森で引っ張り回し、ヘルボア狩りのみならず、他の魔物狩りも手伝わせていたらしい。


 その間、長男タウロがヘルボア狩りの陣頭指揮を行い、囮役は他の若い衆達が代わり、命懸けで逃げ回って脚力を鍛えていった。


 その中で、ずっと囮役を避けていたミゲルだったが、周囲が明らかに強くなってきている事に焦り、やっと囮役を名乗り出たら罠に導く事が出来ず、失敗して別方向に逃げ、そのままヘルボアの標的になり、リュー達の居る方向に逃げて来たのだそうだ。


「……ミゲル。僕に喧嘩を売って来た時の根性はどうしたの?」


 その話をジーロから聞いて、リューは苦笑いするのであった。


「……それは、俺が馬鹿だったからです。あの時はすみませんでした!」


 ミゲルは、自分の弱さを余程痛感していたのか、自信も喪失しているようだった。


 ちょっとやり過ぎだったかな?


 リューはミゲルの姿にそう思ったが、調子に乗って早死にするよりはいいかと考え直すと、


「おじいちゃんに連れ回されているアントニオを始めとした数名の若い衆は今回連れて帰るけど、ミゲルや他の人達はまだ、ここでまだ鍛練して貰おうかな。──ジーロお兄ちゃん、それでいい?」


「僕も今日、領都に戻って学校に帰る準備しないといけないから、タウロお兄ちゃんに任せよう」


 ジーロはリューにそう答えると、タウロを呼びに森の奥地に入っていく。


「ミゲル、もし、もうこの森にいたくない。竜星組も抜けたいなら、今日帰っても良いけどどうする?」


 リューは自信喪失中のミゲルに選択権を敢えて与えた。


 これで断っても仕方がない。


「……俺、まだ残って師匠に教えを請いたいです!」


 どうやら祖父カミーザは若い衆から師匠と呼ばれているらしい。


 ちなみにタウロとジーロは、親分であるリューの兄だから、タウロの伯父貴と、ジーロの伯父貴と呼ばれているらしい。


「何か変な呼び名が広まってるけど……、一応、ランドマーク子爵家の跡取りだから勘違いされる呼び名は止めてね?」


 リューはそうミゲルを注意するのであった。


 ミゲルは素直に、「すみません……」と、謝るのであったが、呼んでる本人達も悪気が無さそうだから放っておこう。


 そこへ兄タウロが領兵と若い衆を引き連れてやってきた。


「リュー、久し振り!ミゲルを助けてくれたんだって?ありがとう!」


 夏休みに入ってからは久し振りに会うタウロであったが、こんな魔境の森にあっても屈託のない笑顔は健在だ。


 いや、以前は魔境の森に入るとシリアスモードに入る事もあったから、今は余裕がある証拠である。


 またこの兄達は腕を上げている様だ。


 そこへメイドのアーサがリューの横に来て耳打ちする。


「若様のお兄さん達凄いよ!ボクの射程範囲に気づきながら入って来てるよ!」


 リューも気配でわかっていたが、メイドのアーサはまた、強そうな相手、兄タウロ達に対して悪い癖を出した様だ。


「だから、それは止めなさい!」


 リューは手刀でアーサのおでこを容赦なく叩く。


「痛いよ若様!」


 アーサはこちらに来てずっとメイド服が汚れると不機嫌だったが、今はご機嫌になっていた。


「ははは!リューのところのメイドは、ただ者じゃないね」


 タウロは、やはりアーサの不穏な気配に気づいていたのかそう指摘すると、二人のやり取りを見て笑うのであった。




 その後、祖父カミーザとアントニオを含む七人の若い衆と合流すると一旦魔境の森を出て領都に戻る事にした。


 若い衆と領兵によって荷車が引かれているが、そこにはヘルボアを始めとした魔物の処理された皮が沢山積まれている。


「すでに領都の倉庫には沢山運び込ませているが、中身はあれでよかったのかのうリュー?」


 祖父カミーザが帰り道、リューが欲しがっていたヘルボアの皮について確認を取った。


「うん、もちろんだよおじいちゃん!お陰で、もうあれを加工して『自転車』の生産に移ってるよありがとう!」


 リューが頼れる祖父に感謝する。


「そうかそうか。ならば良かった。それと王都でまた、何かやる時には儂にも声を掛けてくれよ?あれからこちらの領兵はまた、かなり腕を上げたからのう。わはは!」


 祖父カミーザはかわいい孫のリューのやる事が毎回楽しい事ばかりなので参加したくて堪らないのだった。


「そうだ、夏休み最終日に王都の広場で『スモウ』の興行を行うから招待するよ!」


 リューは、温めていた興行に家族を招待するのであった。

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