第227話 夏休みもあと僅かですが何か?
夏休みの残りの時間は、予定通り宿題を片付ける事に費やされる事になった。
リューとリーン、さらにエリザベス王女の三人の宿題については、学園側が特別に用意したものが出されていたから、かなり大変であった。
なので一日のスケジュールは朝の日課であるランドマーク領への仕入れから始まり、その後はほぼ勉強に当てられていた。
そして、その勉強時間にはイバルも参加している。
イバルの宿題の内容は一般生徒と同じレベルのものだが、夏休みの大部分をリューの仕事に付き合わせていたので残り時間はイバルにも勉強を教える事でそのお詫びとしていた。
「二人とも、本当に俺のとは宿題の内容が全く違うんだな……。うん?それ、魔法省で研究中の仮説に留まっている『上位魔法を魔道具に組み込む為の魔法陣についての論文』じゃないか!」
イバルが自分の宿題をリューとリーンに教えて貰いながらほとんどを終える事が出来てから、二人の解いてる内容を見て驚いた。
「そうなの!?」
「そうだよ。エラインダー家にいた頃に、執務室で見かけた論文だから……。今でも研究中で仮説のままだからちゃんとした答えは出ないと思うよ?」
「……道理でこれ難しいと思ったよ。……リーン?この問題、僕に譲ったのは難しいと思ったからでしょ!?」
「当然じゃない!リューに解けないなら私にも解けないわ!」
リーンは二人で問題を手分けして解く事にした際、リューに渡した宿題の一部は意図的であったようで開き直るのであった。
「二人とも、この問題は俺が論文の内容は覚えているから、それを教えるよ。そうしたら全て宿題終わるでしょ?」
イバルが喧嘩になりそうな二人の仲裁に入った。
「イバル君ナイス!」
リューは、途中まで答えが出かけていた事を忘れて、イバルに聞いた通りに答えを書いていくのであった。
こうして、夏休みが終わる3日前に、リューとリーン、イバルは宿題を終えると安堵するのであった。
夏休み残り三日。
リューにはまだやる事が残されている。
それは、ランドマーク領に出張中の部下達の回収である。
元々リューへの忠誠心というより、竜星組という大看板に引き寄せられた程度の若者達という寄せ集め感が拭えない連中であったから、その再教育と自転車のベルトドライブの元となる魔物の革の回収作業に、人手が欲しい祖父カミーザと長男タウロ、夏休み中で帰省中のジーロに預けていたのだ。
普段、ランドマーク領に戻っても倉庫までの行き来だけになっていたリューは、リーンとイバル、そしてメイドのアーサを伴って魔境の森まで足を運んでいた。
「……凄いな、これが魔境の森か……。魔素が桁違いに入り混じった土地だな……」
イバルが、何か感じるものがあるのか、驚きながらリューの後ろに付いて草をかき分けていく。
「流石イバル君。この土地の異常性がすぐわかったね」
リューが先頭を進むリーンの後を歩きながら後ろのイバルを褒めた。
最後尾を歩くアーサはムスッとしている。
どうやら、リューから貰ったメイド服が汚れるのが嫌らしく、裾を気にしながら歩いている。
「リュー。カミーザおじさん達、丁度、狩りの最中みたいよ?」
リーンが索敵系能力でいち早く気配に気づくと前方を指差す。
すると丁度、大きな爆発音と煙と共に、数本の木が宙に巻き上げられるのが遠目に見えた。
「本当だ。あ、こっちに走って逃げてくるの竜星組の若い衆の一人だね。名前何だったっけ?」
リューがこちらに向かって逃げてくる若い衆の名前を思い出せずに首を傾げた。
大変な事にその若い衆の背後から巨大な猪の様な4本牙が特徴の大きな魔物、ヘルボアが猛然とその若い衆を追いかけている。
「確かリューがここに送り込む時に、喧嘩を売ってきたから殴り飛ばした奴じゃない?ミゲルだったかしら?」※207話参照
リーンが指摘する。
そのヘルボアから必死になって逃げているミゲルは、逃げている先に人がいる事に気づくと助けを求めた。
「領兵さん達!逃げる方向を間違ったんだ、助けてくれー!」
ミゲルはどうやら魔境の森にいる人影は全て、領兵と思い込んでこちらに向かってきた。
「リーン、ミゲルとヘルボアの間に土魔法で障壁を作って!」
リューが先頭のリーンにそう指示すると、リュー本人もそのタイミングに合わせて土魔法を唱える。
「岩障壁!」
「岩槍千本刺し!」
ミゲルが走り抜けたところに壁がせり上がり、ヘルボアの勢いを衝撃音と共に受け止めると同時に、その真下から幾本もの岩の槍が皮が薄いヘルボアのお腹を突き刺して息の根を止めるのであった。
「た、助かった……」
ミゲルがその場に崩れ落ちる様に座り込む。
そこへ次男ジーロが、ミゲルとヘルボアを追いかけて森の中を走って来た。
「あ、リュー!久し振りだね!」
ジーロがマイペースな雰囲気で、久し振りに会う弟に笑顔になった。
「ジーロお兄ちゃんも元気そうだね!」
「ははは。まあね。宿題が終わってからはお祖父ちゃんやタウロお兄ちゃんのお手伝いしてるよ。──ミゲル、こっちは罠がないんだから駄目だって言ったよね?リュー達が助けてくれなかったら流石に今回は危険だったよ?」
ジーロはリューに挨拶もそこそこに安心から腰が抜けて動けないミゲルを叱った。
「……若。助かりました。……ありがとうございます……!」
ミゲルはジーロの指摘で我に返ると、助けてくれたのがリューと気づき、半べそをかきながらお礼を言うのであった。
ここに送り込む前の横柄で態度が悪かったその姿は鳴りを潜め、礼儀正しいミゲルがそこには居た。
その姿を見てリューは、ここに送り込んで正解だったと思うのであった。
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