第226話 一家の会話ですが何か?

 連絡会終了後の、街長邸執務室──


 連絡会の成功は、リューにとってかなり大きなものであった。


 このマイスタの街を治める三組織の話し合いの場である。


 それはつまり、王都内の三強の集まりでもあるからとても重要な事であった。


 最初の連絡会を成功させる事で、今後、『闇商会』のノストラや、『闇夜会』のルチーナの心証を良くし、今後も積極的に連絡会に参加する気になって貰うのがリューの目的であった。


 リューとしては、同じマイスタの住人であるから、協力関係は積極的に結びたいし、王都の裏社会の安定化も大事だ。


 なので、リューは切り札として密造酒の件を両者に話し、持ち掛けたのも心証を良くする為のカードの一つであった。


「若、『雷蛮会』についての情報も渡しておきましたが、背後にエラインダー公爵がいるかもしれない事は黙っていて良かったんですか?」


 マルコが、疑問を口にした。


「それは、流石に根拠も無く、僕の想像でしかないから。それに、そこまで情報を流すと僕の個人情報も色々と話さなくちゃいけなくなるからね」


 リューは自分の正体を知られているノストラとルチーナに、わざわざこちらからそれ以上の情報を話す必要性は感じられないのであった。


「こっちも慈善事業じゃないんだ。あの二人にそこまで教えてやる義理もないだろう。わはは!──そうだ若。夏休み中に、若の提案されたお酒の開発を部下達にどんどん進めさせてます。いずれは結果を出しますよ」


 お酒の好きなランスキーが鼻息荒く今後の抱負を口にする。


「竜星組の密造酒部門も、ノストラ、ルチーナの両者がOKを出した事で、大量販売も目途がついたので、若の仰ってた案を元に品種改良と大量生産を進めます」


「あ、ランスキー。水飴生産工場も軌道に乗せないといけないから、ランドマークビルの管理を任されているレンドと話し合いを進めておいて。ランドマークブランドとして卸す事になると思うから」


「わかりました!──ところで若と姐さんは、残りの夏休みはどう過ごされるんですかい?」


 ランスキーは、リューとリーンが夏休み中働き詰めな事に気を遣って聞いて来た。


「連絡会が成功して一段落ついたから流石に夏休みの宿題に集中してリーンと二人で一気に片付けるよ。だから、ランスキーとマルコはマーセナルと三人で仕事を調整して、後はお願いね。──あ、アーサ、僕達ランドマークビルに残りの夏休み引っ込むから街長邸の管理、執事のマーセナルと一緒によろしく」


 丁度、お茶を入れる為に、リューの横に立ったメイドのアーサにお願いした。


「若様、ボクは若様の為の最強のメイドだから護衛役も含めて若様達について行きたいんだけど?」


 メイドのアーサは、リューのお茶を入れながら、そう提案した。


「うーん……。ランドマークビルにも使用人はいるからなぁ……。それにアーサはこっちの屋敷を守って貰わないと、以前みたいに僕達の留守中に放火する様な連中が現れないとも限らないでしょ?そうなるとやっぱり、アーサにはこっちに居て貰わないと困るよ」


 リューが、アーサにお願いする。


「……わかったよ。ボクがこの屋敷を守るよ。でも、何かあった時はボクを頼ってよね?いつでも、敵の首を持ってくるからさ」


 アーサは相変わらず物騒な事を言うと頼られている事に満足するのであった。


 アーサの物騒な冗談に笑うリューであったが、その場にいたランスキーとマルコに関しては、アーサの言葉が冗談ではなく本気だと受け止めていたので、冷や汗をかくのであった。


「ですが若。アーサの言う通り、若の身辺に姐さん以外にも護衛を付けた方が良いと思うんですが?」


 マルコがメイドのアーサに賛同する意見を出してきた。


「ちょっとマルコ!私一人でもリューの護衛は十分だからね?」


 それまで黙ってリューの背後に立っていたリーンが、初めて口を開いた。


「別に姐さんが力不足と言ってるわけじゃありませんって!」


 リーンの口調が強かったので、マルコが慌てて言い訳した。


「そうですぜ、姐さん。それに、若も姐さんも俺達にとっちゃ、護る対象なんです。子が親を心配するのは当然ですよ」


 ランスキーもマルコを擁護する。


「……うーん。そうだなぁ……。でも、僕は表向きは街長を任される与力の騎士爵程度だから、逆に過分な護衛は目立つと思うのだけど……」


「じゃあ、やっぱりメイドのボクが側にいるのが自然じゃない?」


 屋敷を守る事で納得していたはずのアーサがまた、首を突っ込んできた。


「……確かにアーサは一見ただのメイドだから、傍にいても自然なんだろうけど……。ぶっちゃけ物騒なんだよね、アーサは」


 リューの本音が一言漏れた。


「ちょっとなんだよ若様!ボクが物騒って心外だよ!」


 アーサが苦情を漏らす。


「だって君。たまに腕が立ちそうな人や僕に対して、殺れるか間合い計ってる事あるよね?あれ、気配が伝わって来て、こっちもドキッとするから嫌なんだよ!」


 そのリューの言葉にランスキーとマルコも流石に目を見合わせるとアーサを怒った。


「アーサ!そんな事を若に対してやってたのか!?」


「若に対してそれは失礼だぞ!」


 二人が、憤慨するとアーサも言い訳を始めた。


「……それはボクのただの癖だから!悪気は無いし、殺せても殺さないから!」


 身も蓋も無い物騒な言葉を口走るアーサであった。


「その癖だけは本当に止めて!休憩中なのに休んだ気にならないから!」


 リューは本気でアーサの癖に対して抗議するのであったが、本人が今後そんな事は絶対しないと誓うので、アーサの同行をたまに許可する事にするのであった。

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