第213話 本番当日ですが何か?
ミナトミュラー商会に急遽出来た、花火部門に所属する魔法が得意な職人達は流石に経験した事がない緊張感に包まれていた。
「わ、若。今更ですが俺達ここに居ていいんでしょうか?」
職人の一人が代表して、若と慕うリューに質問する。
「みんな、緊張するのはわかるけど、自信を持って。やる事は前回と同じだよ。僕が合図を出すから打ち合わせ通りに上空に魔法を放つ。それで大丈夫だから。みんなをびっくりさせよう!」
リューは緊張でガチガチの職人達に気合いを入れるのであった。
そう、ここは王宮内の庭園の一つで、その一角を借りて魔法花火を打ち上げる事になっていた。
王宮内では、諸外国の大使達を迎えてパーティーが開かれている。
リュー達がいる場所では、最小限の明かりで花火を上げる合図をひっそりと待っているのだが、職人達は平民である。
王宮に上がるだけでも大変な事なのに、王家が開くパーティーの大トリを任せられているのだ。
緊張するなというのが無理な話であろう。
その為に、リューの言葉もみんなの緊張を解きほぐすまでには至らなかった。
「みんな聞いて。──この打ち上げ花火の成否はリューの名誉に関わるわ。私達がリューの顔に泥を塗っては駄目。失敗せずにやりきるわよ!」
リーンが一見すると、逆効果と思われる励まし方を職人達にした。
「失敗すると若の顔に泥を……!?確かに……そりゃあいけねぇ……!野郎ども、俺達が柄にもなく緊張してどうする?若の一世一代の見せ場なんだ、姐さんの言う通り、若を男にするぞ!」
「「「おう!」」」
職人達はリーンの言葉に奮起すると一致団結するのであった。
日は沈み、パーティーも佳境に入っていた。
そこに王宮の方から合図の光がこちらに送られてきた。
それを確認した王宮の使用人がリューに伝える。
「みんな準備して。──ミナトミュラー商会の見せ場だ……!」
リューが職人達に改めて気合いを入れさせる。
「「「おう!」」」
全員で息を合わせると、次の合図を待つ。
「陛下が、テラスへ出ました。もうすぐ、みなさんに合図を出します……。──3・2・1……どうぞ!」
使用人がリューに秒読みすると合図を送った。
そのタイミングでリューが一発目の大きな魔法花火を上空に打ち上げる。
ひゅるるるる……
どーん!
「「「な、何事だ!?」」」
王宮の方からどよめきが聞こえて来た。
それらには気を留めず、リューの合図で職人達も魔法花火を上空に打ち上げる。
小さい花火が無数に夜空に上がり、リーンがそこに大きな花火でアクセントを付ける。
リューもそこに追い討ちで数発大きいのを立て続けに打ち上げる。
この大小無数の魔法花火に、王宮側から聞こえたどよめきは驚きに変わり、そして、歓声になった。
少し前の王宮側──
「それでは、集まってくれたみなに、ちょっとしたサプライズを用意した」
国王はそう言うと、部下達が一斉に招待客を外へと案内し、国王も二階のテラスへと移動する。
そして招待客が、外に出たのを部下の合図で確認すると暗闇に向けて手を上げ、上空を指さした。
招待客は、その国王の指先を追って夜空を見上げると、ひゅるるる……と、甲高い音が響いてくる。
「「「?」」」
疑問符が頭に浮かんだのも一瞬であった。
次の瞬間には上空に大きな火魔法と思われる金色の光が花開き、轟音と共に輝いた。
「「「な、何事だ!?」」」
各国の招待客の護衛達は敵襲だと思ったのか自分の主を守ろうと歩み寄る。
だが、次々に大小様々な魔法が上空に上がり大きな音を立てて光が消えていく様をみて、国王の演出だと気づいて落ち着くのであった。
「……これは驚いた。これほどの魔法を立て続けに夜空に打ち上げるなど、どれだけの上級魔術師を抱え込んでいるのだ……」
「……むむ。あの大きなものなど、音の大きさから察するに伝説の極大魔法なのでは!?」
「これが、この国の力、というわけか……。これほどの数々の魔法を我々を楽しませる為に用いるとは……」
「凄まじいな……。そして、美しい。体に響いてその凄さも伝わってくる……」
各国の大使を始めとした招待客一行は、この演出に王国の底力を感じて、震撼するのであった。
「最後の演出を我は聞いてないぞ?あれは誰が担当している?」
オウヘ第二王子が側近のモブーノ子爵に聞く。
「私も聞いておりません。もしかするとこれは陛下自ら、密かに用意されたものかと……」
「父上が?──そうか、ではあとでこの演出の責任者を召し抱えよ。我の部下にして兄上や、他の兄妹達と差を付けるのだ。みんな同じ事を考えるはずだからな」
オウヘ第二王子はニヤリと笑うと王位継承権争いをする兄弟達との差を開くべく動くのであった。
そんな事が裏で行われようとしているとは思わないリュー達、ミナトミュラー商会花火部門一同は、最後の大トリである
その夜空から地上に点滅しながら散り落ちていく輝きに最後の大きな歓声が沸き起こる。
王宮からのその反応にリュー達は満足した。
「みんなご苦労様。じゃあ、僕達はすぐ帰るよ。招待客には僕達の存在は極秘だからね。馬車に乗り込んで」
「「「へい!」」」
職人達は一斉に用意されているランドマーク製の馬車に乗り込むと、招待客が余韻に浸る中、早々に王宮を後にするのであった。
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