第214話 花火の功ですが何か?

 王宮での花火の催しは、瞬く間に王都中で話題になった。


 マイスタの街でのものは、城壁越しに音が遠くに聞こえ、小さな光が見える程度であったから目撃者は少なかったのだが、今回は王宮の上空に大小様々な花火が上がったので、王都中の住民が沢山見る事が出来たのだ。


 大迫力の音と、色取り取りに夜空に輝く光の華に、王都の住民達は驚きと衝撃、歓声と感動を持ってこの魔法花火に心振るわせたのであった。


 この魔法花火の実態については、マイスタの街で先に行われた事もあり、すぐに、ランドマーク子爵の与力のミナトミュラー騎士爵が関わっているらしい事は貴族の間でもすぐ広まる事になる。


 ただし、その性能、術式などは一切極秘にする様にと王家から口止めされた。


 もちろん、その口止めが長く続くとは思えないが、少しの間だけでも他国の度肝を抜いて楽しみたい国王の悪戯心であった。




 マイスタの街、街長邸──


「国王陛下のお達しで、ミナトミュラー家の秘術としてこの魔法花火は、秘匿する様にとの事だけど……、でも、ただの花火なんだけどなぁ……」


 リューは執務室で、苦笑いするとどうしたものかと頭を捻る。


「仕方ないさ。陛下が仰るんだ。俺も口外厳禁という事で、ここでの仕事以外ではやらないよ」


 街長邸を訪れていた同級生イバル・コートナインがリューに答える。


「イバル君、うちのミナトミュラー商会で正式に雇われない?花火部門の責任者になって貰えたら助かるよ」


 リューが本気か冗談かイバルを誘った。


「ちょっと、リュー。イバルは養子とはいえ、コートナイン男爵家の長男になるのだからそれはマズいわよ」


 リーンが、止めに入る。


「いや、普通にそれは引き受けたいな。コートナイン男爵家は養子の俺なんかより、実子の弟に任せるつもりだから。そうなると学園を卒業したら平民として生きなきゃいけないし、このマイスタの街でのお祭りの花火は俺もやりがいを感じたから。それにリューには沢山の恩があるし、ここなら楽しそうだ」


 イバルは雇われる気満々であった。


「本当に!?イバル君がやる気なら大歓迎だよ!何ならこっちにイバル君用の部屋も用意するし、学生との両立も出来る様にするよ。そうなると、僕とリーンと一緒にいつも行動する事になるけど」


 リューが冗談交じりに笑いながら提案する。


「じゃあ、よろしく頼むよ。コートナイン家の義父や義母も俺の扱いについては悩んでいたと思うから、本当に助かるよ。これで仕事が決まって収入が安定すれば一人暮らしもできるかな」


「うん、わかった。じゃあ、イバル君にはこれから、ミナトミュラー商会魔法花火部門の実質的な責任者になって貰うね。技術的にも実力的にも問題ないから職人さん達も納得してくれると思う。ランスキーの下に付く事になるけど、学生の間は僕の傍についてくれると助かるよ、よろしく頼むね」


 リューはイバルと固い握手を交わすのであった。


 こうして、リューは同級生であり優秀な人材であるイバルをミナトミュラー商会に雇い入れる事になり、増々ミナトミュラー家の未来は明るくなるのであった。




「何?あの魔法、『花火』とやらの責任者がランドマーク子爵の与力、ミナトミュラー騎士爵だと?……確か妹であるエリザベスの同級生だったな……。奴はそんなに優秀な魔法使いを沢山配下にしているのか?」


 王宮の一角でオウヘ第二王子は側近からの報告に眉間にしわを寄せた。


 国王である父からは極秘事項であると、調べる事を禁止されていたが、それを守らず密かに調べさせていた。


 その結果が、第三王女であるエリザベスの同級生であるミナトミュラー騎士爵が関係しているとわかっては忌々しい限りであった。


「また、エリザベスか!……ふん、まあいい。あいつは女だから王位継承の邪魔にはなるまい。凡庸な兄や、野心的な弟達が当面のライバルだ。──よし、ミナトミュラーの寄り親であるランドマーク子爵にあいつを譲る様に命令するか。いや、ここは寛容さを見せてお金を多少出してやってもいいかもしれん。将来の国王になる我と誼を通じる事が出来るのだランドマーク子爵も無下にはできまい」


「オウヘ殿下、ミナトミュラー騎士爵は、ランドマーク子爵の実子ですのでこちらに譲る事はないかと……」


 側近のモブーノ子爵がランドマーク子爵の先日の対応や、実子関係を考えて可能性が低い事を直言した。


「将来の主君の言う事を聞かない奴がいるものか!もし、断ったら自分の首が飛ぶのだ聞かぬわけがなかろう」


「ランドマーク子爵はスゴエラ侯爵派閥に入っているそうです。一筋縄ではいかぬかと……」


 モブーノ子爵はあれから調べ上げたのかランドマーク家の派閥関係にも言及した。


「スゴエラ侯爵だと!?……くそっ!あやつは我の言う事を聞かぬ堅物だ。ランドマークはその派閥の貴族であったか……。だが、それなら他の王子達の下にも付かないかもしれないな。あの派閥は父上からの信頼も厚く、あの魔境の森に接している南東部地域を一任されているくらいで、どの王子にも媚びない姿勢を貫いている。今回は諦めるか……。だが、モブーノ。ミナトミュラー騎士爵はまだ十二歳だったな?それならば何かと世話してやればこちらになびくかもしれん。恩を売っておいてやろう」


 オウヘ王子はすでに第一印象最悪でリューからはとても嫌われているのであったが、そうとは思っていない王子に、催しでの成功を評価され、準男爵への昇爵を推薦されるのであった。

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