第212話 花火が話題ですが何か?

 マイスタの街のお祭りの成功は、王都でも話題になった。


 特に魔法花火は、一時、大騒ぎして騎士団を出動させる程、音やその光が王都からでも確認できるものだったので、興味を持たれる事になった。


 そうなると実際にマイスタの街まで出かけて体験した者達の口コミが、威力を発揮するというもので、その情報が貴族から出たとあっては、信憑性を持って広まっていった。


 その貴族とは、もちろん、リューがお祭りに招待した同級生とその友人知人、家族達である。


 貴族は流行の発信源でもあるので、ここから出た情報は庶民にとっても重要なのだ。


 そして、魔法花火には王族からの反応も早かった。


 リューの元に、問い合わせが舞い込んできたのだ。


 式典などで魔法花火を使用したいと。


 これは、お忍びで訪れていたらしい国王が気に入ってくれたからだろう。


 これは嬉しい誤算であった。


 リューとしては、訪れた人に楽しんで貰う為に開発したもので、儲けるつもりは一切なかったのだが、この魔法花火はすぐに商業ギルドに登録して、商売にした方が良さそうだ。


 リューはランスキーにそう伝えると『魔法花火』をミナトミュラー商会名義で登録させるのであった。


 さらに、問い合わせの中には、軍部からのものもあった。


 これは、音の有無や、色の使い分け、威力について、技術的な詳細を提供しろというものであった。


 軍部側が言うには、魔法信号弾技術の向上の為、という事である。


 もちろん、リュー側はそれを教えたら、商売にならない。


 なので詳細は言えないと突っぱねた。


 相手は軍部だがリューは一歩も引かないのであった。


 そこで、リューはマイスタの街の魔石を扱う魔道具職人を集めて、魔法能力に劣る人でも、魔石を使って魔法花火を打ち上げる事が出来ないかの研究をして貰う事にした。


 これが完成すれば、どこでも気軽に魔法花火が見られる様になるし、販売する事も出来る。


 軍部はこの技術に対して、とても興味を持っているから、これが出来ればその軍部に売りつける事もできるだろう。


 信号弾向けで、音が出ない色だけのものや、色んな音有りのものなど作れれば、さらに有用性はありそうだ。


「でもいいのリュー?軍部の技術研究所関連というと、イバルの元実家のエラインダー公爵の息がかかっているところじゃない?」


 リーンが因縁深いものを感じながら指摘する。


「うーん……。でも、音と色を付けて派手にしてあるけど、威力は『0』だからね。あちらが喜ぶ様なものはひとつもないのだけど……、商売的に教えるわけにはいかないよ」


 リューは苦笑いすると、困る素振りを見せた。


 軍部ともエラインダー公爵家とも関わるつもりは、これっぽちも無いのだが、魔石を使った代用品が完成するまでは色々と揉めそうだ。


 と言っても、うちの職人達の腕はかなりいい。


 自分が前世の知識を元に提案したものを、形に出来るだけの技術力がある。


 代用品が出来るのもそう遠くはないだろう。


 完成したら、その時は高く売りつけるとしよう。


 それを想像して、リューの目がギラリと光るのであった。


「リュー、悪そうな顔してるわよ?──それより、王家からの打診はどうするの?」


 リーンが、目下の問題について聞いた。


 王家が式典なので使いたいと言っているのだ。


 そうなると、今、魔法花火を使える者は限られている。


 リュー自身やリーン、イバルなどが直接出向かねばならないケースがありそうである。


「詳しい話を聞かないとわからないけど、取り敢えず返事はすぐに出さないとマズいよね?」


 リューは、そう考えるとすぐに使いを王都に走らせるのであった。




 あちらからの返事は早かった。


 先ずは、五日後の王宮で行われる各国大使をもてなす席で、派手に打ち上げて貰いたいとの事だった。


 王宮の庭で、あの一見すると特大魔法のオンパレードの様な魔法花火が上空に何発も上がれば各国は度肝を抜かれ、王国に対する評価も、より一層上がるだろうという思惑の様だ。


 要は、ハッタリである。


 まあ、おもてなしとしては十分なインパクトだし、あの大音量で弾ける花火を見れば、王国の力が驚異的であると思わせる事も出来るかもしれない。


 まさか派手さだけで実際は威力が「0」という、娯楽の一部だとは最初見ただけではわからないだろう。


 ただし、5日後という事は、完全に国王の思い付きで、急遽依頼する事になったのは確かだろう。


 この準備に関わる官吏達は長い期間をかけて準備した催しで、予定にない魔法花火を使用する事に難色を示していても何の不思議もない。


 まして、その魔法花火はまだ12歳の騎士爵が考えたものであり、それが催しの大トリになろうとしているのだ。


 彼らにとって、催しの大トリがよくわからない魔法花火になる事はとても心配であろうし、こんな屈辱的な事はないだろう。


「失敗したら多くの人の恨みを買いそうだね……」


 リューは、王宮からの使者の説明に色々と想像を働かせると、思わずそう口に漏らすのであった。

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