第206話 王宮での遭遇ですが何か?

 ランドマーク子爵家の当主である父ファーザ、そして、その嫡男である兄タウロ、そこにとある説明をする為に同行したリュー、そして従者であるリーンの4人が王宮の庭に訪れていた。


 それは、王家に献上する品を持参しての事であった。


 ランドマーク家一行は、当初、担当の官吏に献上の品を渡して、リューが開発者として製品の説明を行いすぐに帰る予定であったのだが、屋外で説明の途中、周囲で何やら慌ただしくなった。


 駆けつけてきた官吏の一人が父ファーザに対し、


「殿下が貴殿の献上品に興味を持たれたので会われるそうだ」


 と、だけ告げた。


 殿下?


 違う官吏に説明中であったリューは、エリザベス第三王女殿下が、自分達が来ている事に気づいたのかな?と、思ったのだが、現れたのは知らない殿下、王子であった。


 リューをはじめ、父ファーザ、兄タウロ、そしてリーンは、慌ててその場で跪いて見覚えが無い王子を迎えた。


「この珍しい馬車を献上しに来たのはお前か?」


 王子は跪いている父ファーザを一瞥すると、不躾に問いただしてきた。


「はは!私はランドマーク子爵でございます」


「名前は聞いておらん。それよりこれは父上への献上品なのか?」


「……はい。陛下と、そして、息子がお世話になっておりますエリザベス第三王女殿下へ献上する為に持参した二台の馬車と、二台の『自転車』でございます」


「は?第二王子である我へは無いのか?エリザベスに渡す予定の物を我へ寄越せ。──おい、官吏。それでいいな?」


「……ですが殿下。それではランドマーク子爵と、ミナトミュラー騎士爵の面目が立ちません。特にミナトミュラー騎士爵は、エリザベス第三王女殿下のご学友です。ご学友だからこその献上品ですからそれを殿下にお渡しするわけには……」


 官吏が、王子の無理強いに引き下がらず言い返した。


「その様な事は、我には関係ない。それに、こいつが騎士爵?まだ、子供ではないか。なんだお前、その歳でエリザベスに取り入って騎士爵の地位を得たのか?父上はエリザベスには甘いから、断れなかったのだろう、やれやれだ。──ランドマーク子爵、面目を保ちたいのであれば、後日、そちらで献上品を再度用意すればいいだろう。我は今、欲しいのだ」


 オウヘ第二王子はそう言うと、後ろに従えていた側近に「御者を務めよ」と、声を掛ける。


「殿下、その様な事をされてはランドマーク子爵、ミナトミュラー騎士爵両名と、陛下の名誉まで損なわれます」


 誰も得をしないと判断した官吏が、また食い下がる。


「官吏の分際で、我に歯向かうのか!王家は貴族の頂点だ。そして王家有っての貴族であろう。我はその第二王子である、これ以上歯向かうと、この場で斬り捨てるぞ!ランドマーク子爵も、それでよいな?」


 オウヘ第二王子は頭を下げ、跪いている父ファーザに威圧する様に聞く。


 父ファーザは眉1つ動かす事なく、一部始終を静観していたが、話を振られたので口を開いた。


「恐れながら第二王子殿下。これらの品は今回、国王陛下へ献上する為に運んで参ったものです。それを横から奪われたとあっては、陛下と私の名に傷がつきます。国王陛下は、国そのもの。私はその国に仕える貴族。陛下と自分の名誉の為にもここは、お渡しする事は出来ません。殿下へは後日、お届けしますのでお許し下さい」


 父ファーザはそうはっきり答えた。


「貴様!殿下は、譲れと仰っているのだぞ!奪うなどと、子爵如きが殿下に対して何たる無礼!殿下に変わって私が斬り捨ててやる!」


 第二王子の側近が、そう激昂すると剣を抜き、頭を下げて跪くファーザの首に剣を振り下ろそうとした。


 だが、次の瞬間、一番近くに居たリューが立ち上がると、その側近の剣を握った右腕を掴んで止めるのであった。


「王宮で剣を抜き、そればかりか陛下の臣である我が父にその剣を振るうとはどちらが無礼千万ですか。場を弁えるのはあなたでしょう?」


 リューは静かにだが、威圧する雰囲気で、握る手首に力を込めながら言った。


「くっ、は、離せこいつ!」


 大の大人である側近の男は、目の前の子供騎士爵の手を振り解く事が出来ず、ジタバタした。


 そこへ──


「これは何事ですか?」


 と、背後から聞き覚えがある声がした。


 そちらに一同の視線が向く。


 そこには、学園の制服とは違う華やかなドレスを纏ったエリザベス第三王女が側近を連れて立っていた。


「王宮内で剣を抜くとはどういう事ですか、モブーノ子爵。──あら?オウヘお兄様。──そうでした、モブーノ子爵はオウヘお兄様の側近でしたね。モブーノ子爵、王子であるお兄様の前で王家を侮辱する行為を行ったのですか?私も証人になってあなたの行為を追求する事も出来ますが、お兄様の手前、どうしましょうか?」


「……!」


 モブーノ子爵は、リューが手首を離したので急いで剣を鞘に納めた。


「エリザベスよ、これはちょっとした戯れだ。モブーノ、そうだな?」


 オウヘ第二王子は、苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべると、側近に話しを振る。


「は、はい殿下!」


 モブーノは慌てて答える。


「戯れでも、これは度が過ぎると思いますが、お兄様の側近が起こした事ですし……、今回は父上への報告は控えておきましょうか?」


 エリザベス第三王女はそう答え、父ファーザに近づいてくると、改めて口を開く。


「ランドマーク子爵、この度の献上の品、父、国王陛下に代わって感謝します」


 エリザベス第三王女が声を掛けた。


 その光景を見て、オウヘ第二王子は舌打ちするとその場を後にするのであった。


「助かりました、王女殿下」


 父ファーザが、オウヘ第二王子達がいなくなるのを確認してそう答える。


「いえ、ランドマーク子爵。我が兄がご迷惑をお掛けしました。お兄様の分の馬車に関しては、御用達商人を通じて改めて注文しますので、お気遣いなく。ミナトミュラー君と、リーンさん、近い内にまたお会いしましょう。──そちらの方は?」


 王女が、父ファーザとリュー、リーンとは別の青年が微動だにせず、跪いている事に気づいた。


「ランドマーク家の跡取りで、僕の兄、タウロです」


「ミナトミュラー君のお兄様ですか。弟のミナトミュラー君にはいつもお世話になっています」


 王女は笑顔で兄タウロの顔を上げさせ、挨拶をする。


「こちらこそ、弟のリューがお世話になっています!」


 おっとりしたマイペースの兄タウロが、珍しく緊張して答えるのであった。

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