第207話 一石二鳥ですが何か?
ランドマーク印の新たな商品になるであろう『自転車』が完成した。
なので王家に新型の馬車と共に献上したのだが、あくまでも完成しただけであった。
というのも、『自転車』に使われている部品が貴重な素材と技術の粋を集めたものになっており、その中でも駆動部分にチェーンドライブの代わりにベルトドライブ機構を用いた為、耐久性を重視し、魔物の革の中でも高価で、とても丈夫な物を用意して完成させた。
その為、コストが跳ね上がってしまったのだ。
だから、完成はしたが、商品化となるとまだ、道は遠い。
だが、目途は多少ついていた。
そう、この丈夫で貴重な革の原材料であるヘルボアの皮は魔境の森の奥地でなら討伐して入手が可能なのだ。
その為、祖父カミーザと兄タウロには領兵の訓練も兼ねて、魔境の森奥地に分け入って狩りをして貰っている。
流石にそれだけでは人手が足りないので、ミナトミュラー家からも、竜星組の血の気の多い若い衆を『次元回廊』を使ってランドマーク領に送り込む事になっている。
こちらは、まだ、血の気ばかりで腕の方はまだまだなので、ランドマークの人々のお手伝いレベルなのだが、未来のミナトミュラー家の屋台骨になって貰うのも目的の一つである。
マイスタの街、竜星組本部前広場では、若い衆の中でも血の気が多く、マイスタの街の外の人間、外様勢が集められていた。
「竜星組を代表して行ってきますよ若!」
その若い衆の代表であるアントニオが出発当日、組長であるリューにここぞとばかりにアピールした。
もちろん、竜星組内での出世の足掛かりにアントニオは参加を希望した有望な若者だったが、他はほとんど竜星組内部でも、あまり言う事を聞かない若い連中だったので、魔境の森で自分達の実力を理解させ、祖父カミーザに性根から叩き直して貰い、更生させるのもリューの計算の中に入っている。
何しろ王都から遠く離れたランドマーク領のそれも魔境の森の奥地に行かされるのだ、逃げようもない。
逃げるくらいならみんなといる方が生存確率が高い状況に置かれる。
そうなれば、周囲のランドマーク家の実力者である祖父カミーザを始めとした長男タウロ、次男ジーロ、領兵達の実力を嫌でも目の当たりにする事になる。
そこで自分を見つめ直す事に繋がるだろう。
これはもう、ランドマーク式更生施設である。
非人道的?
いやいや、異世界ではそんな甘い事言ってられないからね?
リューにとっては、革の原材料が入手出来て、竜星組の未来の人材が育成出来て、一石二鳥である。
夏休みの間、彼らには頑張って貰おう。
もちろん、命懸けなので、若い衆には一筆したためて貰う。
「若、何すかこれ?」
態度が悪い一人が、誓約書について聞いて来た。
「ミゲルてめぇー!若に対してなんて口の利き方しやがる!」
アントニオがその態度の悪い若い奴、ミゲルの胸倉を掴む。
「まあまあ、アントニオ。字が読めないんだよね?自分の名前は書けるように練習してきたと思うけど、それはこれにサインをして貰う為なんだ。中身は、『上の命令を聞かずに怪我をしても文句は言いません。死んでも以下同文。また、途中で逃げない事を誓います。』という様な内容のものだよ」
「はっ?何すかそれ!?俺は竜星組内でも出世できるチャンスだって聞いたから参加したんすよ!」
ミゲルは、やはり、態度が悪い。
「そうだよ。チャンスはチャンスだよ。その更生施設で──じゃない、素材回収作業のお手伝いを夏の間やって貰って、そこで腕を磨いて帰って来られたら、それなりに強くなっていると思うよ。そうしたら竜星組での出世にも影響するかもしれないって話だね」
「そもそも、上の連中があんたに付き従ってるから俺らも従ってるが、俺より強いのかよあんたは?」
いよいよミゲルはリューに対する態度がよりあからさまに悪くなった。
どうやら、ここで竜星組のトップであるリューに喧嘩を売って倒したら簡単に上に行けると計算したのだろう。
「ミゲル、てめぇー、俺にも勝てない分際で若に喧──」
アントニオが、ミゲルを殴ろうと腕を振り上げた。
「アントニオ、ちょっと待った。──説明するのも面倒だからまずは覚えて貰おう」
リューはそう言うと、一瞬でその場から消えた。
いや、ミゲルの傍に踏み込んで接近していた。
次の瞬間、ミゲルは吹き飛んでいた。
リューが殴り飛ばしたのだ。
「体に……ね?」
リューは、白目を剥いて気を失っているミゲルにそう一言告げるのであった。
そして、他の若い衆全員に対して宣告する。
「今回ミゲルには手加減したけど、本来、君達が同じ態度をとったら、この場で失踪して貰う事になります。僕は竜星組の頭であり、親である以上、その下にいるみんなの為にも舐められたら千倍返ししないといけない立場だからね。──それでは説明します。今回君達が行くところは僕やここにいるリーンが通っていた場所になります。みんなもそこで頑張って下さい」
「「「は、はい!」」」
血の気の多い若い衆の中でもミゲルは、人格は別にして強い部類だったのだろう。
他の連中はそのミゲルをリューが一撃で倒した事に恐れ戦き、自分達のボスの簡単な説明に即答するのであった。
「それでは、みんなサインしたら早速、更生施──じゃない、ランドマーク領の魔境の森へ案内するよ♪」
リューは笑顔でそう言うと、アントニオを始めとした若い衆に誓約書にサインをさせて行くのであった。
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