第205話 闇商会ですが何か?

『闇商会』のボス、ノストラは雑務に追われていた。


「ノストラさん。竜星組から使いが来てますが?」


 ノストラの手下が、最近ずっと不機嫌なボスに声を掛ける。


「……竜星組?また、連絡会の話かい?うちはそれどころじゃないから相手にしなくていいさ」


 普段は飄々としているノストラは手下の方を向く事なく、充血した目で机の書類と格闘していた。


 ノストラの『闇商会』は、直系の手下達と共に、『闇組織』解体直後から独立して結成されたわけだが、『闇組織』の内部で役割分担がされてあった為、『闇商会』には専門外のものがあり、それらへ新たに一から取り組まなければならなかった。


 特に、一番の問題はお金であった。


 ノストラのところも、ルチーナの『闇夜会』のところも、『闇組織』時代はボスにお金は握られていて、上から組織運営の為の資金が毎月渡され、それで自分達の担当部署を管理していた。


 それが当時のボスであるマルコの、組織を支配する為の手段だったわけだが、そこからいざ独立したら、もちろん、下りてくる資金は「0」である。


 だから、組織の運営の為にノストラは貯め込んでいた私財を投じ、昼の顔であった商業ギルド職員を辞めて『闇商会』維持の為に、四六時中働きづめの状況になっていた。


 ルチーナの『闇夜会』も同じ様なものであった。


 ルッチの残した多額の私財と、組織の大規模な財産を握っていたマルコを部下にした竜星組は資金面に困らず上手くやっているが、『闇商会』と、『闇夜会』は、元手がほぼ無いところからだったから、そう上手く運営がいくはずがなくて当然なのだ。


 それに、『闇商会』も、『闇夜会』の規模は、ただの裏社会のチンピラグループではない。


 独立直後から、王都でも竜星組に次ぐ二番手三番手の巨大組織だからその管理も大変であった。


「それが緊急の用件だそうです」


「……緊急?」


 そこで初めて、ノストラは顔を上げると手下の顔を見た。


「……わかった、会おう。ここにその竜星組の使いを通せ」


「はい」


 手下は頷くと執務室から出て行く。


 そしてすぐに、その使いを伴って手下が戻って来た。


「はじめてお目にかかります。私は、マルコの部下のシーツと申します。この度は──」


「挨拶はいいから用件を言ってくれないかい?」


 ノストラはシーツの言葉を遮ると用件を促した。


「それでは、早速、本題に入ります。一つは定期連絡会の参加のお願いと、マイスタの街のお祭りの興行についてです」


「緊急ってそんなことかよ。……そうか。もう、そんな時期か……。──連絡会は、今、必要性を感じないし、うちは忙しくてそれどころじゃない。祭りについてだが、祭りの興行はマイスタの街の縄張りを仕切っている組織の証でもある……。うちがやりたいが今まで仕切りはマルコが担当してたからな、うちは専門外だ。」


「そうですか……。ならば提案がございます」


「……提案?」


「我が竜星組が今回の祭りを興行しますが、『闇商会』と、『闇夜会』には人手を出して頂き、こちらのやり方を学んで貰ってはどうかという提案です」


「……それは、そっちのボスの提案かい?それともマルコの独断かい?」


「一部は私が今、思いつきました。がしかし、人手を出して貰い、三者が力を合わせてマイスタの街の領民の笑顔の為に祭りを成功させたいというのが若様の希望です。やり方を学んで貰うというのは私の考えですが、多分、若様は理解を示してくれると思います」


 使いである元執事のシーツは全幅の信頼を寄せるリューの代わりに提案に修正を加えた。


「……そちらには何の得があるんだい?」


 ノストラが警戒するのも仕方がない、聞く限り自分達にしか得が無い話だ。


「?──若様は、マイスタの街の領主です。領民の喜ぶ顔がみたいからに決まっているではないですか。ご存知の通り、若様は竜星組の組長でもありますが、マイスタの領民の多くは、裏社会に関わりのある者が多い。それを考えると、どの立場であっても、領民の利益は若様が求めるところですよ」


「……それが、そちらに従わない組織であってもか?」


「それは関係ないかと。あなたもマイスタの領民の一人だと若様は領主として考えておられると思います。もちろん、あなたが街の秩序を乱すなら、マイスタ領主として、竜星組組長として対峙する事になると思いますが、ノストラ殿は、そうするおつもりはないのでしょう?我が主はノストラ殿を高く評価していますので今後、協力していけると思っておられます」


「……わかったよ。今は一人でも働き手は惜しいが、マイスタの領民の笑顔を見る為だ、人手を割こう。──この後はルチーナの『闇夜会』の本部に向かうのかい?」


「はい」


「わかった。うちからも使いを出して、口利きをしよう。今は、これぐらいしか出来ないけどな」


 ノストラは肩を竦めると、手を振ってシーツの退室を促した。


 シーツは優雅にお辞儀をするとノストラの手下に従って退室するのであった。


「……やれやれ。あの子供組長は、底が知れないなぁ。敵対する気が無いのがうちにとっては有り難い事だな……」


 ノストラはそう呟くと、また、仕事に戻るのであった。




マルコの使いである元執事のシーツは、『闇夜会』の女ボス、ルチーナのところでも最初、煙たがられたのだが、ノストラの使いを同行させている事を知ると面会に応じた。


そして、こちらもシーツの説得に頷く事になるのであった。




「リュー、マルコから報告よ。ノストラも、ルチーナも協力して人手を出すって」


リーンが、書類仕事に追われているリューに声を掛けた。


「そっか。マルコもよく二人を説得できたね。でもこれで、マイスタの街のお祭りも順調に開催できそうで良かったよ」


リューは、結果に安堵の息を漏らすと、メイドのアーサにコーヒーを入れてくれるようお願いするのであった。

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