第204話 そういう時期ですが何か?

 リューとリーンは夏休みに入った。


 と言っても、ランドマーク領には毎日、早朝から仕入れの為に『次元回廊』で帰っているので帰郷するという感じもなく、逆に、任されているマイスタの街に頻繁に通っている。


 そして、街長としての仕事をこなしながら、ミナトミュラー商会の代表として現場責任者のランスキーに指示を出し、竜星組の今後の仕事についてもマルコと話し合いを行っているのであった。




 そんな中、竜星組の屋台部門は、竜星組の中でも一躍盛り上がり、人気の部門になりつつあった。


 コワモテの厳つい大人達が、ランドマークビル前でお客の喜ぶ顔を見て、屋台での接客にやりがいを感じ始めたのだ。


 当初は、リューが食べ物の屋台も沢山出せる様に指導しようとすると、不器用だから料理なんてできないと渋っていたりと消極的であったが、先日以来、積極的に練習を始めていた。


 これも、お客の喜ぶ顔が見たいから、というのが一番の理由になっていた。


 リューはこの変化を歓迎した。


 竜星組は部門別に仕事を分けて部下達を振り分けているが、出店部門は正直人気が無い部門だったのだ。


 組員は大概、血の気の多い連中である。


 お客の顔色を窺う仕事は苦手な者が多かった。


 だからこの部門には、一線を退いた高齢な者が多くいたのだが、新馬車発表会での盛り上がりに、手伝いで裏方に回されてその状況を見ていた若い連中の一部が、自らやりたいと申し出てきたのだ。


 リューはやる気のある者は大歓迎だ。


 元からいる高齢の部下に指導を任せつつ、この新たな竜星組の花形部門の人材育成を進めるのであった。




 屋台部門があれば、もちろん、興行部門がある。


 新馬車発表会は、ランドマーク家の主催だったので、屋台部門だけの派遣であったが、通常は、興行部門が何かしら主催して、そこに屋台部門が協力するのが流れである。


 今回、屋台部門の単独での成功に興行部門はかなり嫉妬していた。


「羨ましいな、屋台部門の連中。あっちに行きたいと希望を出している若い連中もいるらしいぞ」


「本当か!?裏社会での娯楽提供といえば、俺達、興行部門の仕切りでの催しだろうに……。若にも喜んで貰える様に頑張らないと!」


「……ここは、若が提案していた『スモウ』を、早く推し進めた方が良いのではないか?」


「そうだな。この時期は王都内でも地域祭りが多く行われるから、若の提案の『スモウ』をそこにねじ込もう」


「幸い『闇組織』時代からの縄張りである各地域に今も影響力は残っているから、早めに企画書を出して地域のお祭りに食い込まないと!」


 興行部門のコワモテの大人達は狭い部屋で顔を突き合わせて真剣に話し合いを行う。


「それとこのマイスタの街の祭りも仕切りはうちのはずだが、今年はどうなるんだ?」


「どうって?」


「『闇組織』が解体されてこの街には今、我らが『竜星組』と、『闇商会』、『闇夜会』の三つ組織があるわけだろう?うちが仕切って、他と揉めないか?」


「そうだった!これまで通りでいいのか?」


「これは若に確認した方が良いな」


「そうだな。若からはホウレンソウが大事と言われてるから、相談した方が良い」


「よし、そうしよう!……ところで、ホウレンソウってなんだ?」


「「「その説明からかよ!」」」


 こうして、色々な問題がありながらも、興行部門も出店部門に刺激を受けて盛り上がりつつあるのであった。





「──という事だそうです」


 街長の執務室では、リューが書類にサインをしながら、執事のマーセナルの報告を受けていた。


 傍にはリーンが椅子に座って待機し、二人にお茶を出す為にメイドのアーサがポットを手にカップにコーヒーを注ぐ。


 リューはそのコーヒーに砂糖とミルクを入れて口にすると一言、


「確かにマイスタの街のお祭りの仕切りの事忘れてた……」


 と、漏らすのであった。


「定期連絡会の提案はあちらにしてるのよね?」


 リーンが執事のマーセナルに聞く。


「はい。竜星組の方から、マルコ殿名義で『闇商会』、『闇夜会』には連絡してあります。ですが返答がありません」


「……うーん。具体的な提案じゃないからかな……。じゃあ、準備はうちで進めつつ、マルコを介して、『マイスタのお祭りの仕切りについて話し合いたいので至急連絡を求める』って、伝えておいてくれるかな」


「了解しました若様。至急マルコ殿に伝えます」


 そう答えると執事のマーセナルは執務室を出て行く。


「今のところ目立ったトラブルは無いけど、『闇商会』と、『闇夜会』はどうしたいんだろう?」


 リューが、リーンに聞く。


「どうでしょうね?あっちにしたら、『闇組織』解体のきっかけを作った相手がうちになるわけでしょ?多少は苦々しく思ってるんじゃない?」


「でも、マルコの話だとあっちのボス二人は、そういうタイプでもないらしいんだよね」


「『闇商会』のノストラと、『闇夜会』のルチーナだったかしら?以前に一度会ったきりだけど」


「うん。あの時は連絡すれば会うと言ってたんだけど、返事が無いという事は本人達の気が変わったのか、手下が納得していないのか……、それとも他の何かか……、どうだろうね?」


「今回連絡しても返事が無かったら、揉めるかもしれないわね」


 リーンが不吉な予想をする。


「あの二人は、このマイスタの街が好きそうだから、いざこざにはならないと思うよ。ただし、次、返事が無かったら方法を変えないといけないかもしれないけど……」


 リューはリーンの言葉を否定しながら、考え込むのであった。

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