第203話 屋台ですが何か?
ランドマークビルにおける新馬車発表会は大盛況であった。
その発表会を盛り上げる形でいくつか屋台が出されていたのだが、それが大盛況の理由の一つであり、それが竜星組の屋台部門であった。
従来の屋台は、物を売る台に屋根を付けたもので、その場で串焼きを焼いたり、作って持ち込んだ物を売るのが通常である。
単純なものであるが、それがお祭りなので登場すると魅力的に映り、値段が割り増しでも買ってしまうのだが、それだけに収入源としては馬鹿に出来ない。
リューは前世の屋台を参考にこの発表会を盛り上げる為に色々な屋台を準備していた。
こちらの世界では、遊べる屋台と言えば、的に当てるボール投げや、蹄鉄投げがあるが、リューはそれに加えて沢山のくじから当たりを引くオーソドックスなくじに、ヒモの先に商品を括り付けてそれを引っ張って当てるヒモくじ、水鉄砲を使って薄い紙で出来た的を当てる水鉄砲的当て、リューが前世で知っているキャラをパク……オマージュして作った木のお面に(大人の事情で具体的なデザインは言えない)、点数の付いた木の棒に向かって投げ込む輪投げなども加えてバリエーションを増やした。
ゲーム性のある屋台は全て、1等賞から、参加賞まで商品をちゃんと用意してあり、ランドマークビルで人気になっている木工店の品々や、マイスタの街の職人達が、リューの提案で作った木の玩具から、巧みな技術で作られた財布用革袋やベルト、キーホルダーなどの革製品もあった。
子供が喜びそうなものが中心であったが、大人向けの商品を用意したゲームも催された。
それが、ビンゴである。
まず、一等賞の商品が、最近王都で若者が仕事で乗り回している『二輪車』であった、これを三台、つまり三ゲーム分用意した。
これだけでも興行主側の元が取れるのかと心配になる様な高級な品だが、一定数以上の参加人数を決め、参加費ももちろん頂く。
ただし、ランドマークビルで一定額の買い物をしたお客には無料でビンゴ用紙を渡して、参加を促した。
参加者は用意された椅子に座ると、初めて行うゲームのルール説明を、ざわつく中聞く事になった。
司会者は、ルールを話しながら実際にやって見せ、手順を説明する。
参加者達はそれを聞きながら復唱して確認する。
「なるほど。あの八角形の木製の回転する大きな箱の下から、飛び出す番号が書かれたボールの順に、ランダムに数字が書かれたこの用紙の番号をくり抜くのか」
「ズルする奴がいるのではないか?」
「それは無理だろう。ほら、番号を書き出してるから、番号以外をくり抜いたらすぐにバレるさ」
「それに列があと一つまで揃ったら『リーチ』と叫んで知らせないといけないらしいから、それもズル防止かもしれない」
「そういう事か。そして、列が全部揃ったら『ビンゴ』と、叫んで揃った事をアピールするのだな」
「そういう事だな。一番早く揃ったら、あの『二輪車』が当たるのか……。ずっと気になっていたから、当たったら他の貴族にも自慢出来そうだ」
「あれは、私が頂くさ。新しく買った馬車の後ろに積んで、行く先々で乗って自慢するとしよう」
貴族達もこれから起きる未知のゲーム、ビンゴのルール説明を何度も確認した。
何しろ『二輪車』はランドマーク商会が現状、貸し出しはしているものの販売はしておらず、文字通り幻の逸品である。
一人の参加費レベルで入手できるなら安いと思わせる目玉商品である。
二番目以降の景品もランドマークビルで扱う商品を用意して、お客の目を引いた。
ランドマークビルで扱う商品はどれも人気のものばかりで品薄である。
それを安くで入手できる可能性があるのだ。
ハズレても参加賞は貰えるらしい。
それは流石に子供騙しの木の玩具だが、今をときめくランドマーク製だから親戚の子供にでも上げれば喜ばれるだろう。
あっという間にビンゴの参加者は定員いっぱいになり、ビンゴはスタートした。
「ではまず、真ん中のフリーを、くり抜いてから始めます」
司会者がそう言って、手にしたビンゴ用紙の真ん中に穴を開ける。
参加者達もそれに習う。
「それでは、回します……。──まずは、十二番!十二番が用紙にありましたら、そこに穴を開けて下さい!」
「あった!」
「くっ、無いではないか!」
「十二番か!十一番ならあるのに!」
ランドマークビルの前の通りに面する野外会場は参加者達が早くもヒートアップしていく。
「それでは、続けます……。──四十五番!」
司会者が、丁寧に番号確認をしつつ、次々にガラガラと福引機を回してゲームを進行していく。
そしてついに……、
「り、リーチ!」
一人の貴族と思われる男性が顔を上気させて、叫んだ。
おお!
観客もリーチのお客に「やるな!」とか、「先を越されたか……」とか、「いや、まだだ!まだ終わらんよ!」と、赤い彗星の人が言いそうな台詞を言ったりして盛り上がる。
司会者が、リーチの男性を指さして、
「最初のリーチの人が現れました!──ですが、最後までどうなるかわかりません。みなさんもまだチャンスはありますよ?それでは、続けます!」
と、他のお客さんも煽る。
その後も、リーチと叫ぶ者が現れ、ヒートアップする中、ついに……、
「び、ビ、ビンゴだー!」
と、列が揃った事を知らせる男性が現れた。
それは、新しい馬車を購入した金持ち風の男性だった。
隣でその妻が、興奮して立ち上がり、拍手をしている。
「おめでとうございます!一番にビンゴされたあなたには、この二輪車が贈呈されます!」
一時、ビンゴは中断され、景品の受け渡しが始まる。
その光景に、悔しがる者、拍手を送る者、喝采する者、いろんな人が現れたが、その後も大盛り上がりでビンゴ大会は大成功を収めた。
こうして結果を出した竜星組の屋台部門は、父ファーザから感謝され、評価がグンと上がった事は言うまでもない。
もちろん、組長であるリューからも褒められ、屋台部門のコワモテの部下達は有頂天になるのであった。
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