第202話 新馬車発表会ですが何か?

 夏休みに入る前日。


 ランドマークビルの前で、新しい馬車の発表が行われた。


 貴族やお金持ちに圧倒的人気がある従来の煌びやかな外装とカスタマイズが可能で乗り心地が良い『乗用馬車一号シリーズ』の性能と品質を向上させた改良版、『乗用馬車1号シリーズ・タイプグレードL』と、性能と安全性、軽量化で無駄な物を一切省いた近未来型のシャープな形が売りの『乗用馬車二号シリーズ・タイプS』が、公開されたのだった。


 この日の為に、ランドマーク領の職人達と、マイスタの街の職人達が力を合わせ、新たな技術を投入した自信作である。


 リューとリーンが普段、通学に使っている『乗用馬車二号改A(安心)A(安全)L(ランドマーク)(仮)』の商品化された物が『乗用馬車二号シリーズ・タイプS』である。


 リューがAAL(仮)と名付けていたが、それは商品化の際に却下された。


 ダサいというのが全員の却下の理由であった。



「おお!一号シリーズ・タイプグレードLは、一層見た目が素晴らしいな!」


「おほほ、あなた。早速、予約しましょう?」


「先ずは商品説明を聞いてからにしようではないか。そこの君、従来のものと何が違うんだい?」


 ランドマーク製乗用馬車のファンと思われるお金持ち風の男性が店員に声を掛ける。


「外装は、これが基本タイプですが、もちろん、カスタム化は可能です。今回大幅に変更されたのは、性能と乗り心地の大幅な上昇、そして、室内をご覧下さい」


「お、内装も良いな!──うん?やけに広く感じるな?」


「お客様はお目が高い!その通りです。長距離移動での閉塞感を少しでも解消する為に室内を広く取ってあります」


「あなた、以前のものより揺れも少ないし、座席も革張りで素敵よ。乗り心地も良さそう」


 お金持ち風男性の奥さんと思われる女性が中に乗り込むと、車内で跳ねて見せた。


「こらこら、はしゃぎ過ぎだぞお前。だが、確かに以前よりも揺れが少ないようだ。性能はどのくらい優れているのだ?」


 男の方は性能も気になる様だ。


「各部位を強力な魔物の骨で強化加工、軽量化しています。さらには軸受けに商会独自の技術を使って滑らかな回転を実現し、速度も従来よりかなり向上しております。安全性も商会独自の技術でブレーキの向上を図るなど従来の物とは比べ物にならないかと……、お値段もその分、高くなりますが、それに見合う商品だと思います」


「確かに……。これは、素晴らしいとしか言えまい。よし、購入しよう。妻よ、外装と内装について店員と話し合うとするか」


「ええ、そうね!私、内装はピンクにしたいのだけど?」


 そう言いながら店員に一階の展示場内の個室に案内されていく。


 よし、あれは契約成立だろう!


 その光景をお店の脇で見届けていたリューは小さくガッツポーズをする。


 だが、それより気になるのはリュー肝煎りの『乗用馬車二号シリーズ・タイプS』だ。


 こちらは、とにかく、前世のスポーツカーをイメージして無駄な物を省き、ひたすら性能重視に特化した。


 速度も乗り心地も通学で利用しているから保証済みだ。


 二頭引きで十二分に早く、従来の馬車と比べたら、文字通り段違いだ。


 これには、最初、見た目の近未来的なフォルムもあり、遠巻きにする人々が多かった。


 だが、店員が、従来の馬車との性能差を説明しだすと、同じ金持ちでも商人や、高位の役人と思われる層が、その鑑定眼を持って見極めようと寄って来た。


 仕事人にとって、無駄な物を省いて性能だけを追求した姿に、自分を投影している者もいる様で、


「なんという理想形……」


「男のロマンがここに詰まっているな……」


「移動時間の短縮は、働く者にとって最大のメリット……。私のイメージするものがここに……!」


 と思い思いに目の前の馬車に、うっとりとするのであった。


「試乗は出来るのかね?」


「そうだ、乗って見ないとな」


「よし、早速、乗せたまえ!」


 仕事人らしくせっかちな者が多かったが、数人ずつ周囲を軽く試乗して貰い、その試乗後は一様に、褒めちぎった。


 そして、せっかちさんらしく、


「店員、すぐに契約だ!」


「こちらも、契約するぞ!」


「私もだ!いつ納品できる?」


 と、次々に契約が始まるのであった。



「おお!想像してたより売り上げが伸びそう!」


 リューは、お客の上々の反応に喜びもひとしおであった。


 何しろ、マイスタの街の職人の技術も今回、かなり導入されているのだ。


 ランドマーク領の職人の技術はもちろんだが、ミナトミュラー家の職人達の腕も認められた様なものなので、職人達に良い報告が出来そうで嬉しかった。


「みんなに良い報告が出来るわね」


 そんな嬉しそうな表情をするリューの心情を察すると、リーンがポンと肩を叩く。


「……うん!次は、アレの商品化が出来れば、ランドマーク家の発展はもう一段階進みそうだ!」


 リューは次の目標の達成に向けて気合いを入れるのであった。

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