第199話 一家の報告会ですが何か?

 リューとリーンは好成績で期末テストも終えた事で、マイスタの街長として、ミナトミュラー商会の代表として、そして、竜星組の組長として仕事に集中する事にした。


 街長としては、竜星組のおかげで、治安がかなり向上した。


 たまに、同じマイスタの街を拠点とする『闇商会』と、『闇夜会』のチンピラと揉める事はあるが、そこはリューが街長として領兵を出す事で抑えていた。


 それに、『闇商会』と『闇夜会』とは、定期的に連絡会を行う事で同意している。


 双方とも自分の組織が大事だが、それと同時にこのマイスタの街が大切なのだ。


 その共通認識の下、下っ端同士のいざこざはあっても、大きく揉める事無くやっていけそうな感じであった。


 それに、こう言ってはなんだが、リューは街長である。


 領兵に、竜星組の兵隊、商会の部下達を動員すれば、大きな被害を覚悟すれば、双方とも潰す事は不可能ではないのだ。


 あちら側もそれくらいはわかっているので、大きなトラブルは避けているのだった。




 街長邸で今後の方針と報告について部下達と話し合う事になった。


 リュー以下、リーン、執事のマーセナル、マルコ、ランスキー他、その部下であり各部門の代表者である者達も参加している。


「ミナトミュラー商会は、土木、建設は今、かなり順調に伸びています。製造の方も、ランドマーク商会の下請けとして大きく伸びていますし、若が力を入れている『自転車』なるものの動力につきましても、職人達の研究で解決出来そうな雰囲気です。竜星組から引き継いだばかりの農業に関しては、ランドマーク領から、コヒンの木を大量に引き継いで、畑に植えたので今年は流石に無理ですが、来年には早速収穫が見込めるかと思います。加工に関しては、すでに工場を作って生産ラインに乗せていますので、こちらはもう、大丈夫です」


 ランスキーが商会を代表して、報告する。


「え?チェーン問題解決しそうなの?」


 リューが、初耳とばかりに聞き返す。


「さっき報告を受けたんですが、若の言うチェーンを魔物の革を加工して代用できるのではないかと革職人連中が今、試作品を作り始めたらしいです」


 ランスキーが部下にその情報を耳打ちして貰って、改めて報告する。


「そうか!その手があったね!」


「俺も詳しくは聞いてませんが、ベルト状の革を重ねて若の提案した歯車が歯飛びしない様に出来そうだとの事。耐久性も魔物の種類によっては十分丈夫な物を作れそうだという報告が上がってます」


「じゃあ、それで進めておいて。あとは馬車で培った技術もどんどん利用していこう。自転車が出来れば、逆に馬車の開発にも転用が利くしね。チェーンの開発も続けておいて。損はないと思うから」


「わかりました」


 ランスキーは頷いた。


 その後も、ランスキーの商会の仕事内容についての報告がひとしきり続いた後、休憩を入れた。


「あ、アーサ、みんなにお茶を頼める?」


「わかったよ、じゃない、わかりました若様」


 メイド姿の元超一流の殺し屋アーサ・ヒッターは、リューの背後で、静かに立っていたが、リューの一言でテキパキとお茶を入れ出した。


 この姿に、メイドの前職を知っているマルコは、内心驚くのであったが、アーサはそれに気づいているのか気づかないのか会合参加者全員にお茶を出すのであった。


 ランスキーも、アーサの事は組織に入らない孤高の仕立屋としてもよく知っていたので、メイドの姿には驚いていた。

 殺し屋を辞めてからは、頑なに仕立屋一本でずっとやっていたので心配であったが、仕事を見る限り、ちゃんとやれている様だ。


 二人の幹部の心配を余所にアーサはお茶を出し終えると、自分の分も入れて飲み始めた。


 この辺はやはり、マイペースのアーサらしい。


 執事のマーセナルに、注意されて飲むのを止めるアーサであったが、そこにリューが、


「身内の会合だから別にいいよ」


 と、声をかけるのであった。



 そんなひと時の休憩が終わるとまた、報告が始まる。


「それでは竜星組からの報告ですが、止めていた密造酒の生産の件について、『闇夜会』側が、仕入れたいと打診がありましたので若の言いつけ通り、生産を開始しました。興行に関しては、地元のマイスタの祭り、王都の地域のイベントなど、地元民との話し合いで、いくつか決まりそうです。また、若の提案された『スモウ』の興行についてですが、賞金を出す素人参加型の形で行えないかと思うのですが……」


 マルコが、竜星組を代表して、報告を始めた。


「うーん……。スモウは怪我が絶えないから一部、ルールを変更しようかな。竜星組で力が有り余っている連中に技術的な事を教えて参加させるから、それで勝ち負けは調整して盛り上がる様にして下さい。強い素人さんは、スカウトも考えているのでその辺もよろしくね」


「わかりました。次にこれも、若の提案されてた屋台の出し物ですが──」


 こうして、ミナトミュラー家の報告会は順調に進み、今後の方針についても語られる事になるのであった。

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