第194話 初陣ですが何か?

 リューはマイスタの街に対する襲撃を、執事のマーセナルの使いの報告で朝方知る事になった。


 倉庫通りでは放火による火事で大きな倉庫がひとつ全焼したが、ランスキーとマルコの部下の対応の早さのお陰で死傷者はおらず、被害を最小限に抑えられた様だ。


 そして、竜星組事務所への襲撃である。


 これは、単独でマルコが撃退してくれたらしい。


 これらの犯行を行ったのは『上弦の闇』という事もマルコの使いがやって来て報告を受けた。


「先の抗争で大打撃を受けた『上弦の闇』が何でまたうちに喧嘩を売ってきたのだろう?」


 リューが敵の不可解な言動に「?」しか思い浮かばなかった。


「これからどうするのリュー?」


 傍で報告を聞いていたリーンが、判断を促した。


「もちろん、売られた喧嘩は倍返し、この落とし前はキッチリつけさせるよ。──マルコに連絡して。先の抗争の時の情報収集で上弦の闇の拠点は全てわかっているから、今から言うところにカチコミするよって」


 リューはそう言うと、数か所の拠点をマルコの手下に伝える。


「──それと、見せしめの意味も込めて、『上弦の闇』は、この地上から消すからそのつもりで、と伝えてね」


「へ、へい!」


 マルコの手下は、リューの一見平然とだが、恐ろしい内容に、慌てて返事をすると、組事務所まで馬を走らせるのであった。




 こちらも朝方。


『上弦の闇』の本拠地にマイスタの街に放火して戻った手下が戻って来ていた。


 その表情は血相を変え、ボスを早く起こせと、他の仲間に伝える。


「おいおい、どうした?他の連中はどうしたんだよ。は?やられた?冗談も休み休み言えよ、ははは!放火組はともかく襲撃組はうちの猛者達だぞ。戻るのが遅れているだけだろ?違う?」


「違うんだ!襲撃に参加しようと倉庫に火を点けた後、合流しようと駆けつけたら襲撃組が全滅してたんだ!みんなやられてたんだよ!だから俺達は大慌てで他の放火組との合流地点に向かわずこっちに直接戻ってきたんだ」


「……まだ、朝も早い。城門は夜中通ると怪しまれるから、みんな朝になって戻るはずだ。それに襲撃組の全滅とか何かの見間違えだろ。昼前までにはみんな戻るだろうから待ってろ」


「本当なんだよ!信じてくれ!早く伝えた方が良い!きっとあそこはどこかデカいグループの縄張りだったんだ!」


 放火組のチンピラがあまりにも必死に言い募るのだったが、明け方まで飲んで、寝て間がないボスをこの時間に起こして半殺しに合うのはごめん被りたい手下は、放火組の連中を労うと昼にまた来いと追い返すのであった。


 こうして、『上弦の闇』の連中は自分達がしでかした事の重大性に気づかぬまま、ボスが起きるのを待っていたのだったが、そこへ招かざるお客が来る事になる。



 丁度、お昼であった。


 上弦の闇の本拠地の頑丈な作りの扉が、術者の土魔法の一撃で簡単に吹き飛び、四散する。


「お礼参りに来たぞコラ!」


 眼帯の厳つい大男、ランスキーが、先陣を切って『上弦の闇』の事務所に飛び込んでいく。


「何だこの野郎!どこの連中だ!?」


 上弦の闇のチンピラ連中がその大男に怯む事無く迎え撃つ。


「竜星組だ!夜のお礼参りに来たって言ってんだ!」


 そうランスキーは答えると、チンピラ連中を殴り飛ばし、頭を掴んで壁に叩きつけ、刃物を抜いて斬りかかる相手にはその刃物を奪い取り、太ももに突き刺した。


「ぎゃー!」


 ランスキーは、悲鳴を上げるチンピラは無視して部屋の奥に入って行く。


 それに続いてランスキーの部下達も上弦の闇のチンピラ達を手慣れた様子でボコボコにしていった。



「ボス!竜星組の襲撃です!」


 上弦の闇のボス、アーバン・レンボーは、もう、昼だとういうのに大きな鼾を立てて熟睡していた。


「ボス!起きて下さい!竜星組の連中が──」


 手下が再度、言う途中でその背後から手が伸び、その手下の頭を掴むと背後の壁に叩きつける。


手下はその衝撃で気を失った。


「……うちを襲撃しておいて熟睡とは、馬鹿なのか?──あ、若」


 ランスキーが中々起きない上弦の闇のボス、アーバン・レンボーに呆れているとそこにリューが入って来た。


「……この感じだと、うちと戦争する気はなかったのかな?……うーん。──ランスキー。場所を移動するよ。何でうちを襲撃したのか縛り上げて吐かせた上で、後の事は決めようか」


「へい、若。承知しました。おい、こいつを縛り上げろ」


「へい!」


 ランスキーの手下達は慣れた手つきで熟睡したままのアーバン・レンボーを瞬く間に縛り上げ、担いで外に連れ出すと、場所を移動するのであった。



 他の上弦の闇の拠点も同時刻にマルコ達が襲撃して壊滅させ、リューが宣言した通り、この日の昼間の数時間足らずで、王都で指折りの力を持っていた上弦の闇は壊滅したのであった。

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