第193話 街への襲撃ですが何か?

 マルコはリューの街長代理として普段は街を治めていたが、リューが雇った執事のマーセナルが来てからは表の仕事のほとんどを引き継いでいた。


 そして、自分はリューを頭とする竜星組の実務をこなす事に集中していた。


 その中で、農業関連のミナトミュラー商会への引継ぎは順調に行われているが、お酒の卸し、製造に関しては難航していた。


 リューから助手に付けて貰ったシーツが手続きの為に奔走してくれているのだが、中々許可が下りそうにないらしい。


 お酒の製造について現在、許可を得ているのは、貴族の商会ばかりだ。

 独占市場と言っていいだろう。


 自分が仕えるミナトミュラー家ももちろん、騎士爵家。

 同じ貴族だが、要は格の問題らしい。


 新参の下級貴族に許可は出せないと現在の酒造ギルドが反対しているそうだ。


 これでは、若に良い報告が出来ないではないか!


 マルコはこのままでは若の信頼を裏切る事になると歯噛みしたい思いであった。



 そんな事を思いながら仕事をこなしていた夜。

 そこに、街長邸のマーセナルから報告があった。


 邸宅に火をかけようとした賊をメイドが捕らえたらしい。


「何!?若が留守の間にどこのどいつだ?」


 マルコが、憤っていると、今度は、ミナトミュラー商会のランスキーから報告が飛び込んできた。


 今度は商会に火を点けようとしたチンピラを捕らえたという。


「どうなっている?立て続けに二件は偶然とは思えんぞ?」


 マルコが冷静になって頭を働かせる。


 この時期に竜星組に仕掛けてくる馬鹿がいるだろうか?

 出来たばかりとはいえ、王都やその周辺も含めて裏社会では一番大きな組織だ。

 ノストラの闇商会や、ルチーナの闇夜会も単独では仕掛けてこないだろう。

 いや、もしかしたら、二人が組んでこちらに仕掛けて来た?

 だがしかし、あっちも今は独立したばかりで足場固めも出来ていないはずだ。

 こちらを攻める余裕は無いはずだ。

 となると街の外の連中か……。


 マルコが色々と可能性について頭を巡らせていると、捕らえられた七名もの賊達が、竜星組事務所に連行されてきた。


 賊を連行しているのはランスキーのところの部下と、なぜかメイド姿の女だった。


「……メイド? って、もしかしてアーサ・ヒッターか!」


 マルコはリューからメイドに雇ったと報告を受けている伝説の殺し屋一家の三代目である娘の名を口にした。


「……誰? ──ああ、そうなの? あなたがマルコさん? マーセナルさんから言伝だよ。『若様の留守だから良かったが、若様がもし居る時だったら大惨事になるところだったので、この賊に情けをかける必要性はないと思いますが、その点を考慮して処罰をお願いします』だそうよ」


 メイドの女、アーサは過去に自分を勧誘していたマルコとは初対面らしく用件だけを告げると賊を引き渡し帰って行った。


「元殺し屋がメイドか……。若から聞いていたが、本当にメイドをしているんだな……」


 マルコは呆れるのだったが、執事のマーセナルの言伝にも呆れた。


「……マーセナルの奴、昔の仕えていた主人の息子に若を重ねているのか、若絡みだと過保護で判断が冷酷だな……。──よし、地下にそいつらを連れて行け。誰からの指示か吐かせろ。加減はしなくていいらしい」


「へい!」


 その一時間後、すぐにどこの指示かが判明した。


「何? 『上弦の闇』だと? ──馬鹿なのかあそこは?」


 拷問を行った手下からの報告を聞いていると、外が騒がしいのでマルコは外に出ると夜の空を赤く照らす町の一角がある。


「あっちは、倉庫通りです。もしかしたら、捕まえた奴らの仲間かもしれないですね」


 手下の一人が、目を細めて眺めると場所を特定した。


「お前ら、人を連れて消火にあたれ。ランスキーのところも動いてるはずだ、協力して被害を抑えろ!」


「へい!」


 手下は人数を集めると火事が起きている倉庫通りに急いで走って行くのであった。


 マルコはそれを見送ると、


「……やれやれ。ここも襲撃する予定箇所だったのか」


 マルコが、その細く鋭い目を暗闇に向けると、その暗闇から十数人の男達が思い思いに武器を持って湧いて出て来た。


「へっへっへっ。どうやら人も出払っているみたいだが、この田舎街のチンピラ共の溜まり場か?それにしては結構立派だが関係ねぇ。お前らやっちまえ!」


「お前ら、『上弦の闇』の連中だろ?もう、ネタは上がってるんだよ!うちの事務所を狙った時点でもう死んだぞ、きっちり落とし前つけさせて貰うぞ!」


 マルコが珍しく吠えると、その姿が闇に溶け込んで消えていく。


「な! 消えたぞ!?」


 上弦の闇の連中が、マルコが消えるのに驚いていると、その傍から仲間達が血飛沫を上げて悲鳴も上げる。


「ぎゃー!」


「何かに斬られた!」


「ぐはっ!」


「何が起きている!?」


 上弦の闇の連中は、見えないマルコに斬られて次々に戦闘不能に陥って行く。


 マルコは幻惑の魔法で、闇に溶け込んでいるのだ。


 為す術も無く斬られていく上弦の闇の連中は残った者は手にしている武器を放り投げると、「助けてくれ!」と、逃げの姿勢に移った。


 だが、消えたマルコは容赦がない。


 追いすがって背中から斬りつけると、ひとりで全滅させるのであった。

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