第192話 逆恨みですが何か?
王立学園三年を代表する天才、ギレール・アタマンは憤っていた。
まず、生徒会長になれなかった事、これは、立ちはだかった王女と二年生、そして、王女が二年生を支持する様に仕向けたと噂されるリュー・ミナトミュラーに対して恨みを持っていた。
そして、もう一つは、自分の兄がイバル・エラインダーの教育係の一人だったのだが、イバルが廃嫡、養子に出され、その職を失った事だ。
これも、廃嫡の原因を作ったのがミナトミュラーである事は有名だ。
イバルが公爵家を順当に継いでいれば、兄はその右腕として権勢をほしいままにした事だろう。
その弟である自分も学園を卒業後、その事を背景に就職先は引く手数多だったはずだ。
兄は今、エラインダー公爵家の伝手で魔法省に就職出来たが、兄の実力からすれば十分な地位とは言い難い。
全てはあのリュー・ミナトミュラーという、元々、地方貴族の三男のガキのせいだとギレールは恨みを募らせていた。
そして、公爵家を追放された時点で、今では関係無いが、イバルが学園に復帰したらしい。
それは別に構わない。
だが、復帰後すぐに王女とミナトミュラーに取り入って仲良くなったらしい。
貴様が廃嫡されたせいで兄は出世街道から逸れたのに、何食わぬ顔で廃嫡の原因である相手に媚びるとは!
そうした意味で、ギレールはイバルにもかなりの怒りを感じていた。
だが全てはリュー・ミナトミュラーだ。
我が、アタマン侯爵家の未来を挫いたあのガキは許すわけにはいかない。
うちの現当主である父も、自分達兄弟にがっかりしているのは知っている。
兄は、出世街道を外れ、弟は生徒会長最有力であったのに惨敗したのだ。
アタマン家の名に泥を塗ったのだから、がっかりされるのも仕方がない事だ。
それもこれも全てはリュー・ミナトミュラーだ。
若干十二歳で騎士爵に叙勲されたとはいえ所詮は騎士爵。
聞けば、実家であるランドマーク家の与力として早くも一つの街を治めているらしい。
これは、アタマン侯爵家の力を使って圧力をかける事もできる。
アタマン侯爵家は、表だけでなく、裏社会にも力を持っているのだ。
王都で裏社会の有力な組織を動かし、ミナトミュラーの治める街に嫌がらせをしてやろう。
ギレールはそう算段すると、早速、父親の名を使い、裏社会の有名なボスと接触するのであった。
「──で、アタマン侯爵家の坊ちゃんとやらがうちに何の様ですかい?」
ギレールを迎えた男は大きな体躯が特徴であった。
「お前が、『上弦の闇』のボスか?」
「ああ、そうだぜ。用件は何ですかい?うちは今、見ての通り忙しいんですよ。ちっとばっかしトラブルで被害を被ったんで金策に駆けずり回っているんだ。お金になる話以外はアタマン侯爵様本人が来てもそうそう相手は出来ませんぜ?」
「報酬はもちろん弾もう。簡単な仕事だ。とある騎士爵の街を荒らして周るだけでいい。報酬はこれだ」
ギレールはそう言うと、金貨が入った袋をポンとボスの前に投げて寄越した。
「……ほう。結構入ってるな。──で?その不幸な騎士爵様の街とはどこの事だい?」
『上弦の闇』のボスは、革の袋の中身を確認しながら答える。
どうやら、仕事内容的に楽そうだと判断した様だ。
「確か……、マイスタの街と言ったはずだ」
「マイスタの街……?どこかで聞いた気がするが……。──おい、お前、マイスタの街ってどんなところだ?」
『上弦の闇』のボスは、手下の1人に質問した。
「へい。マイスタの街は確か王都の北にある辺鄙な街だったと思います。昔、王様が職人の街として作ったっていう話以外は何も特徴が無い所ですね」
「……そうか。じゃあ、わかりやした。この仕事お引き受けしますよ。後はその騎士爵様の不幸に歪む表情を見て結果を確認してくだせい。うちが動いたらその街は、再起不能なくらいの被害受けますからご安心を」
『上弦の闇』のボスはニヤリと笑うと新しい金蔓になりそうな坊ちゃんに保証するのであった。
「──これで、あのガキに恨みを少しは晴らせるというものだ!」
ギレールは『上弦の闇』のボスの言葉に満足すると、事務所を後にするのであった。
「一応、後を付けて本当にアタマン侯爵の息子か確認しとけ。違ったらこの金は没収だからな。がはは!」
「へい!わかりやした!チンピラに後を付けさせます。──ところでボス。そのマイスタの街はどんな手筈でやりますか?」
手下が、策を聞く。
「うちの得意なのは放火に恐喝、喧嘩に殺しだろ?とりあえず、そのマイスタの街の街長邸と街で一番大きそうな商会、あとは大きな施設辺りに火を点けて燃やしてしまえ。他には、適当にその地元のチンピラグループの拠点を潰して、王都の裏社会を牛耳る組織がどれだけ怖いか見せつけてやれ。──うちが抗争で被害を受けて勢いが無くなったと思ってる連中もいるからな。派手にやって、『上弦の闇』が健在だって事を示してこい!」
「了解しやした!早速、人を集めます!」
こうして、抗争で大損害を受けて焦っていた『上弦の闇』は、この時期に突かなくてもいい藪を突いて大変な目に合う事になるのであった。
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