第190話 再会ですが何か?

 職員室の扉が担任のスルンジャー先生によって開けられ、入る様に促される。


 リューはちょっとした緊張感を持って職員室に入るのであったが、そこには、イバルはおらず、先生達がこちらを見ている。


「……えっと?」


 リューは、リーンと共に、戸惑いながら目を見合わせる。


「ああ、奥の部屋に良いかな? そこでイバル君が、君に話があるそうだ。君達にはイバル君の話を聞いて欲しいと思ってね。本人もそれを望んでいるし良いかな?」


 スルンジャー先生が、何とも言えない表情でそうリュー達を説得した。


「……はい。わかりました」


 リューはどうやら、過激な事にはならないようだと感じるとリーンと目を合わせて確認し、了解するのであった。


 スルンジャー先生が奥の部屋にリューとリーンを先導する。


 そして、その奥の部屋の扉の前に到着するとノックした。


 確かここは、学園園長室のはずだ。


 扉の向こうから、返事がある、イバルではなく学園長の声のようだ。


 スルンジャー先生が扉を開けるとリュー達に入るように促す。


 そこには、髪を短く切ったイバルが直立不動で立っている。


 リューとリーンが学園長室に入ると、背後で扉が閉められた。


「二人とも、座りたまえ」


 学園長が、リューとリーンに着席を促した。


「失礼します」


 リューはこの緊張感漂う室内に入ると、内心気合いを入れて二人とも着席する。


「それでは、二人とも、イバル・コートナイン君の話を聞いてくれるかな? イバル君、君もずっと立ってないで座りたまえ」


 学園長が、イバルにも着席を促した。


 するとイバルは、椅子の横に一歩ずれると、そのまま床に正座した。


 そして、深々と頭を下げる。


「あの時は、君を危険な目に合せてしまい、すみませんでした」


 イバルは床に頭を付けたまま、リューとリーンに謝罪した。


「「え?」」


 二人はこの予想だにしない展開に思わず椅子から腰が浮いて動揺した。


「妄言に踊らされ、俺のつまらないプライドの為に、リュー君には本当にすまなかったと思っています。俺はそれだけは伝えないといけないと思い、停学処分が解けるまで待っていました。本当にごめんなさい」


 イバルは最後、涙声になりながら、リューに謝罪した。


 どうやら、以前のイバルとは思えない程、改心した様子であった。


 確かに、自分の愚かな行為で、未遂とはいえ一人の生徒の命を奪おうとした事で学園を騒がせ、それが元で廃嫡になり、親子の縁を切られて養子に出されるという、これまでの人生がひっくり返る経験をしたのだ。

イバルにとってそれは自分の誤りに気づき、反省を促すには十分な出来事だろう。


「頭を上げて下さい。僕は無傷でしたし、全くあの日の事は気にしていません。イバル君の事は許してるのでこれ以上は気にしないでください」


 リューはそう答えると、イバルに歩み寄り立たせて、椅子に座らせるのであった。


 イバルは感極まってボロボロと涙を流していたが、リーンにハンカチを渡されて嗚咽を上げながらも一生懸命泣くのをこらえた。


「……ありがとう。俺は許して貰えると思っていなかったから……、本当にありがとう……」


 イバルは許してもらえるか余程不安だったのだろう、そう答えるとまた、ぼろぼろと涙が溢れ始めた。


「──それではイバル・コートナイン君。君は彼に許されるまではこの学園に通い続けるつもりだと決心を伝えてくれたが、それも叶った。これからどうするかね? 元のクラスに戻るのも大変だと思うが……」


 静かにこのやり取りを見守っていた学園長が、助け舟を出すように声を発した。


 どうやらイバルが恥を忍んで学校に来たのはリューに許して貰う贖罪の一心だったようだ。


「……願いが叶ったので俺はこの学園を──」


 イバルはくしゃくしゃの顔に何かを決心した表情を浮かべて、退学願いを口にしようとした。


「──学園長、僕からお願いがあります」


 リューがイバルに最後まで言わせる事なく、遮ると学園長に向き直った。


「何かね?」


 学園長は、リューに対して次の言葉を促した。


「イバル君を僕達のクラスに移動してもらってもいいでしょうか?」


「移動……、とな?」


「はい。──正直、イバル君の居たクラスに、このまま戻るのは大変だと思います。なので僕と同じクラスにして貰い、僕が友達としてクラスメイトになる事で誰も文句は言えなくなるのではないかと思うのですが?」


「俺は、もういいんだ! これ以上君に迷惑をかけるわけには──」


 イバルがリューの提案に慌てて口を出した。


 だが今度は、学園長がその言葉を遮る。


「──そうか、そうか! 当人である君が許すと言い、そう願うのであれば、私も無下には出来ないな。そういう事ならば、早速、イバル・コートナイン君はクラス替えして王女クラスに移って貰おう、それでいいかな、イバル・コートナイン君。元々、君の学費は全額納められていたから、今後の事を気にする事も無いだろう?」


「で、ですが……!」


 まだ、言い募ろうとするイバルであったが、リューが声をかけて制止した。


「イバル君。ここで辞めるのも一つのけじめのつけ方かもしれない。でもまだ、他の生徒達や、王女殿下に対する過去の失礼な言動も許してもらわないとね。ここに残ってその償いをするのも一つの道だよ。大変かもしれないけど一緒に乗り越えよう」


 その言葉に、イバルは返す言葉がみつからず、ただ、涙を流しながら頷くのであった。

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