第189話 今度は学校ですが何か?

 マイスタの街の表と裏のお仕事が忙しいリューであったが、リューとリーンの本分は学業である。


 父ファーザにもそこはきつく注意されていた。


 母セシルもたまにリューの『次元回廊』で王都に来ては、2人に宿題を置いていく様になった。


 もちろん、マイスタの街長としての業務が大変なのは理解しているが、2人に学業を疎かにして欲しくないという事であった。


 それにもうすぐ、期末テストもある。


 リューとリーンも、時折忙しさに学校を休む事も増えていたので流石に気合いを入れ直さなければならない。


 まあ手下達も新体制に慣れてきて、言われずとも動けるようになってきたので一段落した感じではあった。


「夏休みまであとわずかだし、学業に力を入れよう!」


 リューはリーンにそう言うのであったが、それは自分に言い聞かせているのであった。




 リューとリーンが学校に到着し、教室に向かうと生徒がざわついていた。


 中にはこちらを見てひそひそ話を始める生徒もいる。


「……? 何か僕達やったのかな?」


 心当たりがないリューは頭に疑問符を浮かべつつ、リーンと一緒に教室に入ると、先に居たランスがリューとリーンの顔を見るなり、


「二人とも大丈夫か!?」


 と、声をかけてきた。


「おはよう。どうしたのランス?」


 挨拶をしてリューが聞き返すと、


「イバルが学校に戻って来たみたいだぜ。無期限停学が解けて今、職員室に来てるらしい!」


 と、興奮気味に伝えた。


「え?」


 すっかり忘れていた名前だ。

 そして、驚く情報であった。

 どうやら、自主退学する事無く復帰するらしい。


「相当面の皮が厚いわね? あれだけ恥をかいてまた、この学園に戻って来るなんて」


 リーンが呆れた顔をして言った。


「まあまあ、イバル君は、どちらかと言うと踊らされていた側の人間だから」


 一番、絡まれた被害者であるリューがイバルを庇うという変な構図になった。


 そこへシズとナジンがやって来た。


「……リュー君大丈夫? 気を付けてね。また、絡まれるかもしれないし……」


 シズが、噂を聞いたのだろう、挨拶より先に気遣う言葉をかけて来た。


「おはよう、リュー。噂ではイバルは無期限停学の間に下級貴族の元に養子に出されたらしいから、逆恨みされている可能性は高いな」


「え? イバル君、本当に養子に出されたの!?」


 リューはナジンの言葉を聞いてある意味ショックであった。


 そういう噂はリューも何度か聞いていたが、親子の縁を切られるような事はそうそうないだろうと思っていたのだ。


 だが、実際には縁を切られてしまったらしい。


 自分が悪いとは思わないが、きっかけになったのは確かだったので複雑な気持ちになるのであった。


「廃嫡の情報は確かだったんだが、養子に関しては噂だったんだ。でも、今日、停学明けで学校に来た時の馬車が、下級貴族のものだったから、その可能性は高そうだ」


 ナジンが、朝から見かけた様で、可能性について語った。


「それが本当ならイバル君、ショックだろうな……。親に縁を切られるとか……」


 リューは自分がそうされたらどんなにショックだろうと想像すると悲しくなるのであった。


「リュー、自業自得よ。……確かにちょっとかわいそうではあるけど。……でも、その状況で学園に自主退学せずに戻って来るってかなりの図太さよ? 反省してないんじゃないかしら」


 リーンが、リューの気持ちを汲みつつ、ありそうな事を指摘した。


「だな! 俺なら恥ずかしくて他の学校に転校するぜ。よほど、リューに恨みを持って復讐心に燃えてないと戻って来るとか出来ないな。リュー憎し! って感じだな」


 ランスが、イバルの視点に立って代弁した。


「……あはは。やっぱりそうなのかな? イバル君関連では三年生のギレール・アタマン先輩からも恨み買ってそうだし、学園生活は平穏に送りたいのだけど……」


 前世ではろくに学校には通えていなかったので、リューにとっては今世での学園生活はとても楽しめていた。


 まあ、最近は休みがちにはなっていたのだが……。


「でも、どうするつもりなのかしらねイバルって子。もう、エラインダー公爵家の名を名乗れない下級貴族になったのなら、誰も従わないんじゃないの? 今のクラスだって、他の上級貴族が仕切ってるわけでしょ、イバルって子、下手したらいじめの対象になるかもよ?」


 リーンが鋭い事を指摘した。


 確かに、言われてみれば、今の隣の特別クラスはエラインダー公爵派閥であるマキダール侯爵の嫡男が仕切っているがこの子は貴族主義の典型だ。

 エラインダー公爵家から縁を切られた者を、それも下級貴族に養子に出された者に従うとは思えない。


 逆に、これまでの自分達への扱いに恨みを持って、やり返す可能性の方が高いだろう。


 自業自得と言えばそうなのだが、イバルを操っていたライバ・トーリッターにもかなりの責任があったのは確かだ。

 ライバ・トーリッターがいない今、全ての恨みを一身に受ける事になるのではないかと心配するリューであった。


 そこに、まだ、授業には時間があるが、担任のスルンジャー先生が入って来た。


「リュー・ミナトミュラー君。ちょっと職員室にいいかね?」


「え?」


 まさかの指名にリューは戸惑った。


 今、職員室にはイバル君がいるはずだ。

 その場に、揉めた当人を呼ぶというのは、どういうことだろう?


 リューは一抹の不安を覚えつつ、スルンジャー先生に伴われ、一緒に行くと言って譲らないリーンと共に職員室へ向かうのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る