第188話 裏の業務ですが何か?
短期間で表面上のマイスタの街は、リューの手腕によって安定する事になった。
街長として雇用を生み出し、治安の改善も行う事で経済が順調に回り出している。
もちろん、それは裏の方でも同じで、竜星組が街の悪党を束ねて街中での悪さは控えさせ、『闇組織』が行っていた商売も引き継いで竜星組が仕切っている。
一つ違うのは、今、マイスタの街の裏社会は、リューの率いる竜星組が第一勢力として一部を仕切っているが、『闇組織』元幹部のノストラ率いる闇商会、同じく『闇組織』元幹部ルチーナの闇夜会も存在し、実質、三強で治めている状況だ。
ノストラの闇商会は主に情報の転売や不動産、表向きの商会取引と、裏の密輸取引、その分野からのみかじめ料(用心棒代)などで勢力を保っている。
ルチーナの闇夜会は、風俗店、飲み屋、金貸し、それらの分野のみかじめ料などに勢力を持っている。
もちろん、三勢力ともマイスタの街のみならず、王都でこそ、その力を振るっているのだが、マイスタの街ではそういう住み分けが出来ていた。
ちなみに、リューの率いる竜星組の主な仕事だが、現在は農業(中でもコヒン豆の生産を始めたばかり)、債権取り立て代行、酒の卸し、酒の製造、賭博や興行の仕切り、露天商の取りまとめ、それら関係店からのみかじめ料、そして、全体的に悪党を取りまとめ、用心棒などの人材を派遣する事などが行われている。
これらを現在、マルコが取り仕切っている状態だ。
表ではミナトミュラー商会の方でランスキーが土建業を仕切っているが、マルコの負担を下げる為、酒の卸し、酒の製造、農業の方もこちらに任せる予定だ。
但し、酒の製造はあまり大きな声でやってるとは言いづらい。
厳密には酒の製造は許可制だからだ。
なので、国からの許可の無い製造は密造に当たる。
だが、許可されている酒造商会が製造するものだけでは庶民が消費する量に追い付かない為、密造酒も大目に見られている状況なだけなのだ。
なので、お酒の製造は国に許可を求める手続きをしつつ、目立たない様に密造していくつもりでいた。
「ところでマルコ。僕はまだ、飲める年齢じゃないからわからないのだけど、うちの密造酒はおいしいの?」
リューは、街長邸の会議室でマルコの報告を聞いて疑問を口にした。
「こう言っては何ですが、王都に出回っている物でうちの密造酒は夜の世界では中々評判が良いと思います」
「主にどんなの?」
「主に、大麦、ライ麦などを原料にしたウイスキーです。これが一番庶民に飲まれています。あとは、リゴー酒などの果物酒も少々作っています」
「ウイスキーか。密造酒の定番だね。果物酒は何で少々なの?」
「こちらに関しては、国から許可を貰っている酒造商会と被る事が多いので派手にやると訴えられる可能性が高いのです。なので、『闇組織』時代は関係店で出す分を製造していました」
「していた?」
「ええ、『闇組織』解体に伴い、元幹部ルチーナの闇夜会が夜のお店関連ごと独立したので卸すところが無くなったんです」
「そういう事か……。じゃあ、ノストラとルチーナを呼んで今度代表会合を開こうか」
「あの二人とですか?」
「いくら分裂したとはいえ、現状マイスタの街の住民には変わりないし、お互い分裂して困っているところはあるでしょ?」
「ええ、まあ。担当を分けていたので、分裂でその役目がなくなり、麻痺している部門はありますから」
「そこを伝えて歩み寄れる部分がないか話し合おうと提案しておいて」
「……わかりました。断られる可能性もありますが伝えてみます」
「あ、それと、用心棒などの人材派遣だけど……」
「はい」
「あまり、評判良くないね。『闇組織』時代の感覚でいる人には、うちの看板に泥を塗らない様に再教育しないと駄目だ。向いてない人はミナトミュラー商会の土建業部門に一時的に回そうか」
「わ、わかりました。そういう方向性で手下達には徹底させます!」
マルコはリューの静かな怒りに気づいて、慌てた。
そうだ、若は「看板」に拘りがある人だった。
一人一人に誇りを持たせる事を徹底している。
表の顔であるミナトミュラー商会の手下達はその辺りが徹底されていて、若への忠誠心が揺るぎがない。
それに比べてルッチの元手下の中にはマイスタの街出身者でない者も多く、そういった誇りや忠誠心が欠ける者も多いのだ。
この辺りは自分の手腕にかかっている。
これまでは統率などはルッチに任せていたが、あの男は力で恐怖心を植え付けていただけだったのだ。
裏社会ではそれが一番でわかり易いが、それだけではすぐに裏切る者も多い。
『闇組織』が無くなり、竜星組となった今、新たな体制である事を徹底させなければならないだろう。
どうやら、最初は監視役だと思っていたが、若に助手としてシーツという男を付けられたのは、これから忙しくなるからという事だったようだ。
農業部門、密造酒部門の移動で少しは楽になると思っていたが、まだまだ忙しさは続きそうだと両手で頬を叩くと気合いを入れ直すマルコであった。
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