第187話 執事決定ですが何か?
執事採用面接が行われて数日後。
リューはランドマークビルの居間でリーンと共に執事の候補について、書類による最終選考を行っていた。
「やはり、執事の第一候補はマーセナルかな?」
「そうね、簡単な身元調査でも、マーセナルの言う通りみたいだし、いいんじゃないかしら?」
「でも、元冒険者や、元執事の彼も良かったんだよね……」
「まだ、そこで悩んでたの?マーセナルの実績が優ってるじゃない」
「いや、執事はマーセナルで良いと思うんだよ。でも、元冒険者と元執事も優秀そうだから採用したいなと」
「そういう事?じゃあ、雇えばいいじゃない。ミナトミュラー騎士爵家は人材不足なんだから。──そう言えば、仕立屋の彼女は雇うの決定してるんでしょ?どういう仕事をさせるつもりなの?」
「アーサは、どうするべきか迷ってるんだよね……。他所にいかせるのは危険だから呼び止めたものの……」
「本人はうちが雇うなら副業を再開させてもいいような事言ってたでしょ。と言う事は、リューの予想が合ってるなら、ミナトミュラー家の殺し屋になるつもりじゃないの?」
「──ヒットマンかー。そんな物騒に見えるのかな。うちって……うーん……」
リューが、腕を組んで唸る。
「実際、裏で竜星組も結成してるんだから、綺麗事では済まされないって言ってたのリューでしょ?」
「そうなんだけど。彼女、一度、足を洗ってたわけじゃない。もし、生活の為にヒットマンに戻ると言うなら、それも嫌だなと思ったんだよね」
前世でも足を洗って社会復帰しても、普通の生活が出来ず、出戻りした悲しいケースは沢山見て来ていた。
それだけにリューは、アーサの姿にそれを重ねたのだ。
アーサの身元はマルコから聞いたのだが、やはり、アーサのヒッター家は、『闇組織』結成当時からのお抱えのヒットマンだったらしい。
そんな筋金入りのヒッター家を、若くして亡くなった親に代わり、アーサは引継いだが、ある日突然、引退宣言し、仕立屋稼業に専念していたという事だ。
マルコ曰く、
「アーサは数いた殺し屋の中でも最強の天才」
だったという。
マルコがボスに座った八年前に、丁度、アーサは引退宣言したので直接的な関わりはないが、先代のボスの時代の数年間はこのアーサを恐れて当時のボスに歯向かう者は皆無だったそうだ。
だが、そのボスが急死して、アーサも引退宣言、マルコがボスになる際、復帰する様交渉したが相手にされなかったらしい。
そのアーサが自ら戻ってきたのでマルコは驚いていたのだが……。
「現在、アーサは二十七歳。脂が乗っている年齢だよね。八年間現役を退いていたけど、面接の感じだと現役バリバリの雰囲気だったから、腕は磨き続けていたんだろうね」
リューは、ため息を吐くと、また、考え込む。
「職業病って事かしら?引退したのに腕を磨き続けるって矛盾してるもの」
「そうかもね。……よし、決めた!アーサ・ヒッターは純粋にうち専属の仕立屋、兼、メイドとして雇う」
リューは突拍子もない事を言い出した。
「仕立屋はわかるけど、メイドはどうなの?」
リーンがツッコミを入れる。
「本人が裏家業のヒットマンを望むなら仕方ないけど、生活に困ってならちゃんと仕事を与えたいじゃない?仕立屋業も続けていたわけだし、その意思はあると思うんだよね。メイドの方は僕の目の届くところに置いて無茶しないかを見る為だよ」
「なるほどね。……わかったわ。あとはアーサがそれを受け入れるかだけど、連絡しておくわね」
リーンはリューの優しさに頷くと採用する面々に通知を送るのであった。
一週間後のマイスタの街、街長邸の広間──
「それでは今日から、働いてくれる4人をみんなに紹介します」
リューは、邸宅で働く使用人達が一堂に会する場で自己紹介をさせる事にした。
「では、マーセナルから」
「はい。──執事を仰せつかりましたマーセナルと言います。今日から若様に誠心誠意お仕えさせて貰う所存です」
短く簡潔に答えると、全員から拍手が起きる。
「じゃあ、次」
「俺は、元冒険者だったタンクだ。執事のマーセナルさんの助手になるぜ、よろしくな!」
まだ、二十八歳で元気が有り余ってる雰囲気を漂わせて茶髪の頭を下げて、こちらも、簡潔に自己紹介をした。
「私は、元執事でしたシーツと言います。こちらでは、街長代理であるマルコ様の助手を務めさせて貰います。よくここには顔を出す機会が多いと思いますのでよろしくお願い致します」
三十代過ぎの男が深々と黒髪の頭を下げた。
彼は竜星組の実務を担当するマルコの助手だから、街長邸と竜星組本部を行き来する事になる。
そして、四人目は……、
「ボクは、アーサ・ヒッターだよ。ボスである若様がどういうわけか仕立屋兼メイドとして雇ってくれたからよろしくね」
そう、アーサ・ヒッターは当初、かなり驚いていたが、面白いと思ったのかリューの提案を快諾したのだ。
「それでは、みんな今日からこの四人もミナトミュラー家の家族だからよろしく」
リューの言葉に全員が返事をする。
「「「はい!」」」
こうして、ミナトミュラー家の体制が一応整うのであった。
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