第183話 活気づきますが何か?

 マイスタの街はランドマーク家の臣下の領地として、ランドマークビルで扱う商品の製造、開発で活気づき、そして、ランドマーク家の与力であり、下請けになるミナトミュラー騎士爵とその商会による建設工事により、貧困層にも日雇いの職が生まれ、街の生活水準が上がりつつあった。


「みんな、おはようございます。早速だけど、日雇いの人でも見込みのある人は、ツバ付けておいてね。土魔法を使える人、その素質がある人は、うちの土建業向きだから。それ以外でも働き手は必要だから、何か才があると感じたら報告して下さい」


 リューは、ミナトミュラー商会の朝礼で、みんなに挨拶するとそう伝えた。


 リューの話は続く。


「それと、これからは従業員全員に読み書き、簡単な計算を覚えて貰います。学校も作る予定です。みなさんはしっかり勉強し、商会の従業員としてみんなの手本となって下さい」


 従業員達がざわめいた。


「そ、その勉強にはどのくらいお金がかかるんでしょうか?」


 従業員の中でも比較的若い男が、質問した。


「もちろんタダですよ。経費は全て代表である僕が負担します。みなさんはお金の心配はせず勉強に励んで下さい」


「「「おお!」」」


「まさか、勉強ができる日が来るとは……!」


「俺、頭悪いから大丈夫かな……」


「タダで学べるんだぞ? 少しでも吸収して若の力になるんだよ!」


 従業員達は歓声を上げると一人一人勉強できる思いを口にする。


「読み書き、計算がこちらで定めた基準に達した人は、その分の手当も付けるので頑張って下さい」


 リューがそこに、学ぶ為の目標を与えるべく飴を提示してみせた。


「勉強させて貰える上に、手当までも!? ──みんな、若の為にも自分達の為にも頑張るぞ!」


「「「「おおー!」」」」


 朝から、マイスタの街の一角にあるミナトミュラー商会のビルで近所迷惑なくらいの喊声が響き渡るのであった。


「あ……、教師陣はどうするんですかい若」


 ランスキーが、学校建設の場所は決定しているが、教師がいない事に気づいた。


「ランドマーク領の学校の責任者であるシキョウさんに話は通してあるから、学校が出来るまでには、教師陣はこちらに連れて来るよ」


 リューはマイスタの街の街長になる時点で色々と考えていたのだ。


 そして、ランドマーク領という成功例があるので準備は簡単だった。


「ランドマーク本領と変わらない識字率にしたいわね」


 リーンが、目標を語った。


「そうだね。学校が出来たら本格的に、子供を中心に沢山勉強できる環境作りを用意していきたいね」


 リューが頷くと、そこに街長代理であるマルコがやってきた。


「若、商会も大事ですが、街長としての仕事もお願いします。私は今、畑の管理と裏の方で手一杯ですので」


 マルコはそう言うとリューとリーンを馬車に乗る様に促した。


「マルコはすっかり、変わったわね」


 リーンが馬車に乗り込むとマルコの変化を口にした。


「本人が言うには、ボスの座は自分には向いていなかったんだってさ。おかげで憑き物が落ちたように変わったからね。これからはミナトミュラー家の一員として頑張る、という事らしいよ」


 リューは笑うとそうリーンに説明した。


「大所帯になったし、ミナトミュラー家を管理する執事も欲しいところよね」


 リーンがもっともな事を言う。


「確かにそうだね……。執事のセバスチャンのところのシーマはランドマーク家でタウロお兄ちゃんの専属だから、うちには貰えないよね……。うちも考えないといけないけど……、あ、そうだ! スーゴの部下のギンが仕事が早くて表と裏にも精通してそうでいいかも!」


 リューは思い出した様に一人の名前を出した。


「ギンって、『二輪車貸出店』の管理業務を担当してるカタギとは思えない強面の人よね?」

 ※160話参照


 リーンが誰だかすぐに思い出して言った。


「そう。あの人だよ。スーゴの部下だから、荒事もいけるし、何より管理業務もしっかりこなしてたから、うちの様な鼻息の荒い連中相手にも十分イケると思うんだよ」


「それはいいけど、寄り親である主家から優秀な人材を引き抜くのは感心しないわよ?」


 リーンが、鋭い事を指摘した。


「それを言われちゃうとな……。──仕方ない。こっちで執事向きな人を探すかな」


 リューはため息を漏らす。


「マルコの街長時代には執事いなかったの?」


「正体がばれたくないから、執事は敢えて置かなかったみたい。マルコを執事にしても良いのだけど、それだと竜星組の実務を任せる人がいなくなるからなぁ」


「ルッチの元手下は、荒事が得意な力自慢ばかりだものね。マルコの手下は比較的にバランス良いけど執事を任せられる程ではないし……、ランスキーの手下は、職人が大半だからどうなんでしょうね?──やだ、本当だわ。案外いないものね……」


 こんなに大所帯になったのに以外に候補がいないのでリーンもリューと一緒に悩むのであった。

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