第184話 執事を探していますが何か?
マイスタの街と表と裏の業務の為、学校を休んでいたリューとリーンだったが、数日ぶりに通学する事にした。
学校には、休む事は一応届け出はしていたので、許可は貰えていた。
「お!リュー、リーン、久し振り。仕事で学校これなかったんだってな?二人とも大変だな。ははは!」
ランスが、リューとリーンを普段通りに教室で出迎えた。
そこに、ナジンとシズが同じ様にそこに加わる。
「二人とも大丈夫か?流石に成績トップとはいえ、騎士爵として一つの街を統治するって大変じゃないか?」
ナジンが、この数日の休みは忙しさに忙殺されての事だろうと想像して心配してくれた。
「……二人とも、無理はしないでね?」
シズもリュー達を気遣って声をかけてくれる。
「街の統治も忙しいけど、商会を作っちゃったから、そっちが大変かな」
それに加えて、裏社会を治める為に竜星組を組織してそれも大変とは流石に言えず、
嘘は言ってないから大丈夫だよね?
と、リーンと無言の視線で相槌を打ち、確認するリューであった。
「商会?ランドマーク商会があるのにか?」
ランスは意図が分からず聞き返した。
「うーん、その下請けをする為の商会を作ったんだ。名前もミナトミュラー商会なんだけどね。ランドマークビルで扱う商品の製造と商品開発をする職人さん達を従業員にしたんだ。後は、土建業、裁縫業、宝石業など色んな職人さん達もいて大所帯で大変だから、軌道に乗せる為に色々とやってる最中なんだ」
「驚いた……。それ、大手の総合商会の様な手広さじゃないか。資金は大丈夫なのかい?」
ナジンが、想像を超える規模の大きさに呆れながら心配した。
「資金は、臨時収入(闇組織の多額の隠し財産)があったから、それで何とかね。当分は大丈夫だと思うし、マイスタの街の需要にも繋がって来ているから今は投資の時期かな」
「……おいおい。寄り親であるランドマーク家より、稼ぐなよ?家臣の方が稼ぎ出すと後々揉めるぞ」
ランスも、リューの才覚に呆れながら将来を心配した。
「……大丈夫だよ。リュー君が、自分のお父さんやお兄さんを困らせるわけが無いもの」
シズが、すぐにフォローした。
「ははは。ミナトミュラー商会の親はランドマーク家だからその辺は問題ないよ。将来は、独立して良いとは言われているけど、僕はいつまでもランドマーク家の三男だから、今後も主家の発展に努めるよ」
リューの家族優先は筋金入りの様だ。
「そうは言っても、リューもミナトミュラー家の主なんだから、付いて来てくれる部下の為にもそれなりに名を売って貰わないと困るわよ?」
リーンが、リューの第一の従者として、商会と、竜星組のナンバー2を意識して、釘を刺した。
「ははは……。それはもちろんだよ」
リューは苦笑いすると言葉少なに答えた。
「……でも、そうなるとリュー君達、学校に通いながらだと大変だね?」
シズが、リュー達の悩みの種の一端を指摘した。
「そうなんだよね……。今は学校を優先する様にお父さんにも注意されてるし。どこかに優秀な執事はいないかな?」
「執事?──そっか、騎士爵家として、執事がまだいないのか。前に言ってた街長代理をしているとかいう人は?」
ランスが、一番適当そうな人物を上げた。
「マルコは他の仕事が忙しくて、今は執事どころじゃないんだよね……優秀だし第1候補ではあるんだけど」
「ふむ……。──リューが治めるマイスタの街で応募をかけてみてはどうだ?やはり、地元を知っている者が向いていると思うんだが?」
ナジンが、少し考えると提案した。
「……応募か。確かに、今の部下の中から選ぶというのも限界があるから困ってたけど……、応募でそれ以外から選ぶのも手だね!」
リューは目から鱗とばかりに、納得するのであった。
数日後──
マイスタの街に執事募集の立札が広場に立てられた。
住民達がその看板に集まって来る。
「何て書いているんだ?」
「何々……、ふむふむ、なるほど。──街長であるミナトミュラー騎士爵家の執事を募集しているんだとさ」
「執事?執事って何をすればいいんだ?」
「今の街長はまだ子供だから、大変じゃないかい?」
「おいおい、あんた何も知らないな?街長であるミナトミュラー騎士爵様は、商会まで作って職の無い者にも道の整備や、城門の設置の仕事を与えてくれて、真面目な者は正式な従業員として雇ってくれたりしている立派なお方だぞ。子供と侮るのはいけないな」
「そうだぜ。それに街長は表向きの顔で、今や、この街の『闇組織』に代わる裏社会の三大組織『闇商会』『闇夜会』を上回る最大勢力『竜星組』の──」
一人の男が事情通なのか、関係者なのかリューの裏の顔を言おうとすると、他の関係者と思われる長髪の若い男に口を塞がれた。
「こんな明るいところで、下手な事を言っちゃいけないよ旦那。そういう事はお天道様の見てる間は口にするもんじゃない。マイスタの住民ならその辺は心得てないといけないよ」
耳元でそう囁いて警告すると、口を塞がれた男は慌てて頷いた。
「わかればいいさ」
そう言うと長髪の若い男性は口を塞いでいた手を離した。
余計な事をしゃべりそうになった男は振り返ると、
「なんだ、仕立屋のアーサじゃないか。低い声で言うから男かと思ったぜ、ビビらせんなよ」
と、知った顔だったらしくその男性と思われた長髪の本当は女性の名前を口にした。
「おっちゃん、口は災いの元さ。周囲がマイスタの住人だからって安心し過ぎさ」
そう注意するとその長身で仕立屋らしい格好の男装した女性は笑ってその場を立ち去る。
「……執事か。丁度いいかな」
アーサと呼ばれた仕立屋はそう独り言を口にすると自分のお店に戻って行くのであった。
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