第181話 組織解体ですが何か?

『闇組織』のボスであるイル・カモネ捕縛から数日後。


 リューは、マイスタの街の街長として、一つの発表をした。


 それは、『闇組織』の幹部ルッチの逮捕と、謎の人物として名前すらも知られていなかった組織のボス、イル・カモネの「死」である。


 ルッチはすでに王都警備隊に引き渡され、すでに縛り首が決定し、即日執行された。


 そこでのボスのイル・カモネの死亡発表である。


 リューは、唯一正体を知る幹部のルッチがボスを殺して、自分がボスの代行の様に権勢を振るっていたと、結論付けた。


 そう、死人に口なしで、ルッチに全ての罪を被せるという、まさに外道の所業をリューは行ったのだった。




 こうして、ひとつ解決しても問題になるのが今後の『闇組織』の処遇だ。


 当事者である残された幹部による会合が開かれた。


「ルッチはともかく、ボスが死んでたと俺達が信じると思うのかねぇ?」


 幹部の一人ノストラが街長のリューの発表について触れた。


「ホントさね。マルコがボスからの伝言を証明する札を持って来たのは、ルッチが貴族を襲撃する前。その時点でボスは生きてる事になる。それにしてもマルコがボスに近い人物だったとは驚きさ。ボスは生きてるんだろうマルコ?あんたは、街長代理なんだ。街長の頓珍漢な発表の裏側も知っているんだろ?」


 女幹部ルチーナがマルコに問いただす。


 マルコが、ルチーナに回答を迫られていると、そこにリューとリーン、ランスキーが現れた。


「……これはどういう事だマルコ。街長やランスキーがここに現れるとは聞いてないぜ?」


 ノストラが椅子に座ったままだが、嵌められたのかと焦りの表情を浮かべて聞く。


「マルコ、あんたまさか私達を売ったんじゃないだろうね?」


 ルチーナは椅子から腰を浮かせて手に持った扇子でマルコを指さした。


「二人とも落ち着け。別に売ったわけじゃない。今回、街長がここに居るのは、『闇組織』の今後についての提案がなされたからだ」


「「提案?」」


 ノストラとルチーナは口を揃えて疑問符を頭に浮かべた。


「まず最初に、今回の件でボスが死んだのは事実だ」


「そんな馬鹿な!」


「そうよ!あんたがボスの札を持って来たじゃない。いつ死んだと言うのよ!」


 幹部二人はマルコの言葉に動揺した。


「だから落ち着け二人とも。ボスはルッチの死と共に闇に葬られた。二人は名前も知らないだろうが、ボスの名は、イル・カモネ。──俺の本名だ」


 マルコの告白にノストラも驚いて立ち上がる。


「どういうことだ?」


「あんたがボスの正体なのかい!?」


「そういう事だ。そして、ここにいる街長、ミナトミュラー騎士爵に捕らえられた事で交換条件を飲む事にした」


「「交換条件?」」


「マイスタの街の裏社会の住民の保護、つまり『闇組織』の解体と、手下達を受け入れて貰う組織の新たな創設だ」


「おいおい。なぜ組織が解体されないといけない?」


「そうよ。私達の組織は、その辺の小さなチンピラグループとはわけが違うのよ?」


「それは僕から説明します。──まず、組織を解体する事で、抗争の終結宣言をする事。そして、表向きには危険な組織が無くなった事をアピールする為です。僕はこのマイスタの街を任された立場です。なのでその住民を守るのは僕の責務です。もちろん、みなさんは裏社会で生きて来た立場、その立場も守りたいと思います。そこで組織を一旦解体した後、新たな組織を作ってあなた達を守りたいと思います」


「「新たな組織……?」」


「はい、表向きの組織は、ミナトミュラー商会。裏の組織は、竜星組です。違法な薬物についてはその組織では一切扱いませんし、扱わせません。ただ、他の事についてはこれまで同様、裏社会のルールに沿って運営する予定です。綺麗事だけで裏社会が治められると思っていませんので、みなさん幹部には今後も今の立場でやって頂いて構いません」


「それを素直に、はいそうですかと受け入れると思っているのかい?」


 普段、物腰が柔らかいノストラが、眼光鋭く街長であるリューを睨みつけた。


「裏社会では力がものを言いますよね。今、ここであなた方の骨の一、二本を折って力を示してもいいのですが、どうしますか?お二人はそんな事をしなくてもいいくらいに利口だとマルコは言っていましたが」


 ノストラの睨みも正面から受け流し、涼しい顔でリューは答えた。


「……どうやら、ただのガキじゃないらしい。だが、俺もルチーナも下から這い上がって今の地位まで登りつめた誇りがある。うちのグループはあんたの傘下に入るかどうかは今後を見て判断する。今、俺達を殺ってもうちの手下達も従わないと思うがどうするかい?」


「私もノストラと同じ意見さね。素直に従う気もないし、義理も無い。マルコの正体がボスで、それを放棄するなら『闇組織』の解散も仕方がないかもしれないが、手下の面倒を見なくちゃいけないからね。ノストラ同様、私のグループも好きにやらせて貰うよ」


 二人は素直にリューに従う気はないらしい。


 それもまた、仕方がない。


「……わかりました。ですが、あなた方もマイスタの街の住民です。今回の様に会合をたまに開いてこの街の未来の為に尽力して下さい。バラバラになって揉め事を増やすよりはいいでしょ?」


「……この街への思いは同じという事かい?──マルコ、あんたがボスの正体なのには驚いたが、組織を解散する以上、お互い対等で行こう。会合は反対する理由も無い、やる時は連絡をくれ」


 ノストラはそう答えると、リューの脇を通って部屋を出ていく。


「それじゃ、私もノストラと同意見だからいいわよね?──それじゃあねマルコ。街長代理も頑張りなさいな」


 そう答えるとルチーナも部屋を出て行った。


「良いんですかい、若?」


「今は仕方ないね。僕達もルッチのグループを吸収してまとめ直さないといけないし、やる事は沢山あるよ」


 リューはそう言って切り替えると、新たな部下マルコを含めたリーン達を引き連れて新たな一歩を踏み出すのであった。

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