第180話 ボスの正体ですが何か?

 襲撃前に取り押さえられたルッチとその手下達は、かなりの数の犯罪に関わっている容疑で指名手配がなされており、リューは王都の警備兵に引き渡す事にした。


 もちろん、リューがルッチを脅し、その命と引き換えに、ボスの情報を洗いざらい吐かせた後でである。


 ルッチは解放される条件で話したのだが、リューはその約束を守る義理は無い。

 ルッチは約束を守れと罵詈雑言をリューに吐き続けたが、ランスキーに殴り倒されて気を失うと、その間に警備兵に引き渡されたのであった。


「──やはり、情報を精査するとルッチもボスの正体はわかっていなかった、という事だと思う」


 リューはランスキーにそう漏らした。


「確かにルッチの言うボス像は、辻褄が合わないですね……。──すると、若が言っていた通り、ボスの正体は……」


 ランスキーがボスの名を口にしようとした時、襲撃の際からリューの傍にいなかったリーンが、どこかに出掛けていたのか戻って来た。


「ただいま。リューの言う通り、尾行したら逃げる支度を始めたから捕まえて連れて来たわよ。案の定、私から逃げようとした時、幻惑魔法を使ったわ。私には通じないのに。ふふふ」


 リーンがそう言うと、その後ろからリーンに付けてあったランスキーの手下が、縛り上げられたマルコを連れて来た。


「やあ、マルコ。いや、『闇組織』のボス、イル・カモネ。もしかしたらイルという名前も嘘なのかな?」


 リューが、縛り上げられたマルコを見下ろして質問した。


「…くっ。──いつから俺の正体に気づいていた?」


 マルコ、いや、イル・カモネは観念したのかリューの質問に答える事無く聞き返した。


「それは、イルという名前が本当だと認めるのかな?じゃあ、イルの質問に答えるね。……普通に考えて街長までしている男が、幹部の中でも最弱扱いされている事に疑問があるし、それでいて、幹部会合がその最弱扱いされている幹部がいる街長邸で行われるのも変と言えば変だよね。そして、決定的なのが、今回のルッチを切り捨てる判断が簡単に行われた事だよ。貴族襲撃をボスの許可なくやる様な愚か者を切り捨てるのは、決断としては正しいと思うけど、流石に決定が早すぎたよ。誰かがボスの判断を証明する証しをぶら下げて、幹部を説得した事になる。それはもちろん、提案者のマルコ以外いない。マルコが隠れたボスの直系の部下か、ボス本人である以外には有り得ないよね。だから、リーンに君を尾行させて尻尾を掴ませたんだよ。案の定、君は逃げる際に幻惑魔法を使用してぼろを出した。リーンには幻惑魔法は通じないから、失敗したね。適当に理由を付けて言い訳した方がまだ良かったよ」


「……くそっ!」


 イル・カモネは、リューの説明に自分の判断ミスを後悔したのだった。


 こうして、長い間、その正体もまことしやかに語られてきたイル・カモネは、その存在を白日の下に晒す事になったのであった。


「どんな時代にも爪弾き者の受け皿になる組織は存在してきたものだし、それを否定するつもりはないんだ。ごにょごにょ(前世の自分もその一員だったし……)。それに、『闇組織』の出来た経緯も知っているから、それ全体を否定するつもりもない。否定する事は、マイスタの住民を否定する事にも繋がるしね。そして、僕が街長になるまで、君がマルコとして街長を務め、それなりに善政を行ってきた事は評価する。その反面、ルッチを使って違法な薬で儲けていた事は許されるものではないけど。但し、組織を運営するのに綺麗事では済まないのも知っている。そこで、イル・カモネ。君にチャンスを上げても良いよ。『闇組織』を解体し、マルコとして僕の傘下に入り忠誠を誓うなら歓迎するよ」


 リューはとんでもない提案をした。


 リーンとランスキーもまさかの提案に驚いてリューを凝視すると、


「リュー!こいつ、裏社会の大ボスなのよ!?そんな奴が簡単に下に付くはずがないじゃない!」


 と、リーンが、リューの言葉に反論した。


「そうですぜ若!姐さんの言う通り、こいつは正体すら謎だった『闇組織』のボスです。その辺の下っ端とはわけが違います!」


 ランスキーもリーンの言葉に賛同する。


「正体すらバレていないから選ぶチャンスがあるんだよ。イル・カモネ。マルコとして生きる事を選び僕の傘下に入って、今後もマイスタの街の為に、そこに生きる住民の為に尽くせ。そして、『闇組織』のボスの君はここで死ぬんだ」


 リューはこのイル・カモネをただの悪党とは思っていなかった。

 さっきも言った通り、この男はマルコとしてマイスタの街の街長としてそれなりに善政を敷いていたのだ。

 裏で『闇組織』のボスとして暗躍していたのも、マイスタの街の住民達を代表しての思いもあったとリューは見ていた。


 もちろん、ルッチという存在は褒められたものではない。

『闇組織』の暗部そのものがルッチという存在だろう。

 だが、そのルッチのような存在も受け入れ使うのが裏社会の組織というものだ。

 違法な薬にしても、資金源として選択肢の1つでしかなかったかもしれない。

 何度も言うが、綺麗事で治められるほど裏社会の組織は甘くないのだ。


 とは言え、ルッチに関しては、マイスタの街の住民をも軽くみていたクズなので、文字通り切り捨て対象であった。


「……『闇組織』の人間はマイスタの街の住民が多い。裏社会でしか生きられない者もいる。そいつらはどうなる?」


 イル・カモネは自分の生死の選択ではなく、手下の心配をした。


 その質問にリューは、


 やはり、この人は生かした方がマイスタの街の為になる。


 と判断するのであった。

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