第179話 襲撃させませんが何か?
『闇組織』の「元」幹部ルッチは兵隊を集めて王都入りし、夜になるまで各自隠し拠点に待機させていた。
ランドマークビルは、王都の一等地に建つ。
それだけに襲撃直前まではギリギリ分散させておかないとすぐに目立つのだ。
王都は眠らない都と言われているから、夜になっても人通りは多い、貴族の建物を襲うのだから怒りに暴走するルッチでもその辺は心得ていた。
そろそろ、襲撃の為に他の隠し拠点の兵隊に集合命令を出そうとしていると、手下の一人が慌ててルッチのいる隠し拠点に駆け込んできた。
「お頭、大変です!他の隠し拠点が、三連合に襲撃されてます!」
手下は息も絶え絶えに、そう告げる。
「何ー!?こんな時に奴ら邪魔しやがって!──今から集められる兵隊は?」
ルッチは、ランドマークビルの襲撃を止めるつもりは無い様だ。
「襲撃された仲間を助けるのに手一杯です。他の幹部に頼るしかないんですが……、実は自分が救援要請に人を出したところ、その手下も門前払いされて戻ってきました」
「門前払いだと?どこの幹部だ!?ノストラか?ルチーナか!?」
ルッチは激怒すると報告する手下の胸倉を掴んで吊り上げる。
「うぐっ!は、離して下さいお頭!──ど、どちらともです!」
手下はルッチの馬鹿力に苦しみながら何とか返答した。
「くそっ!どいつもこいつも俺の足を引っ張りやがって!」
ルッチは吊り上げていた手下を壁に投げつけると怒り狂って机を蹴り上げる。
そこに、また、別の手下が報告の為に室内に入って来た。
「お頭、マルコさんが兵隊を連れて駆けつけました!」
「何?マルコの野郎だと?」
ルッチは一番有り得ないと思っていた幹部の救援に驚くあまり、豆鉄砲でも食らった様に怒りも吹き飛んでいた。
「中に入れるな。俺が外で会おう」
ルッチは自分が怒りに任せて荒らした部屋を、今、見られて皮肉を言われたくなかったのでマルコを外で待たせる事にした。
ルッチが外に出ると、マルコが顔を布で隠した手下を30人ほども引き連れて待機していた。
「……何でお前がここに居やがる」
ルッチは、マルコの真意がわからず、問いただした。
ルッチは、この瞬間も幹部連中が自分を『闇組織』から追放した事を知らない。
「何って、襲撃するって言ったのお前だろルッチ。──ところでお前の手下から聞いたが、三連合にまた、拠点が襲撃されているらしいじゃないか。見たところここの兵隊は十五人くらいしかいないが大丈夫か?何なら俺の手下共を貸してもいいぞ」
マルコの申し出にルッチは素直に頷くわけにはいかなかったが、襲撃を取り止めるつもりはない。
マルコの手下だからどのくらい使えるかわからないが、三十人もいるのだ、数は欲しかった。
「あ、もちろん、俺は荒事は苦手だから加わらないぞ?手下共は用が済んだらすぐ戻る様に言っとくがそれでいいな?」
マルコは、ルッチが承諾したと解釈して話を進める。
「お、おう。これから、襲撃に向かうところだ。その間、借りるぞ」
ルッチは内心かなり助かったと安堵したがおくびにも出さず、マルコの兵隊を引き連れてランドマークビル襲撃に向かうのであった。
「この、角を曲がってまっすぐ行くとランドマークビルが見えてきます」
手下の一人の先導で深夜の夜の人通りに異様な雰囲気を漂わせながら集団が進んで行く。
すると深夜の住人達はこの殺気を漂わせた異様な雰囲気の集団に道を空けた、その時だった。
ルッチは、視界が回転し、体に衝撃があると思って気づいたら、地面に押し付けられていた。
「油断したなルッチ。お前はもう、終わりだぜ」
聞き覚えのある声が頭上からする。
「き、貴様、ランスキーか!いつの間に俺の背後に現れやがった!」
状況が飲み込めないルッチは、腕を固められ身動きできない状態で怒声を上げる。
「最初からいたさ。お前の隠し拠点からずっとな。お前は売られたんだよ。問題が多いからな」
ランスキーが疑問に答えると、やっとルッチは自分がマルコの裏切りにあったのだという事に気づいたのだった。
「……くそっ!マルコの野郎ただじゃ済まさねぇぞ!」
「おいおい……。まだ、理解が不十分みたいだな。お?──若、夜分遅くにご苦労様です。ルッチとその手下を捕らえました」
ランスキーが、ルッチの頭上で、他の人物に挨拶をしている。
「若?はっ!ミナトミュラーのガキか!『闇組織』に喧嘩を売ってタダで済むと思ってるのか!組織が全力を挙げて貴様とその家族、関係者をどこまでも追い詰めるからな!」
ランスキーに地面に抑え付けられていながらもルッチの勢いは衰えない。
「何か誤解をしている様なので、先に言っておきますね。ルッチさん、あなたはすでに『闇組織』から追放されています。資金源を失い、貴族襲撃を試みようとしたので、組織はあなたを切り捨てました。──残念ながら今のあなたには何一つ力はありません。僕の命令1つであなたはこの世から消える場合もあるのでお気を付けてください。僕の家族を襲撃しようとした時点で、あなたの命はとても軽くなってますよ」
まだ十二歳の子供とは思えないリューの冷酷な宣言を、頭上から聞いたルッチは視界に入る地面を見ながら、顔を青ざめさせるのであった。
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