第178話 放課後の報告ですが何か?

 王都の夕方、下校時間──


 学校の前には黒塗りの馬車が四台止められ、ミナトミュラー家のイメージカラーである青色のツナギを着た強面の男達が綺麗に整列していた。


 これはもちろん、リューの安全の為、迎えに来たランスキーの手下達である。


「……報告の人員だけで良いって言ったのに……」


 リューはリーンと顔を見合わせると苦笑いするしかなかった。


 すでに昼過ぎに一度、学校にランスキーの手下がルッチの動きを報告する為に訪れていたので、学校側に自分の家の部下だと説明したばかりだった。


 だから、見た目の青色のツナギ姿に、学校側はリュー・ミナトミュラーの部下だとすぐにわかっていたが、他の生徒が怯えるという事で、学校の警備員が敷地内でピリピリする事態に陥っていた。


 リューがトラブルになるのを恐れ、慌てて手下達の元に駆け寄る。


「「「若、姐さん、お勉強、ご苦労様です!」」」


 綺麗に整列していた手下達はリューを労うと一斉に頭を垂れる。


「若?あの前にいるの、リュー・ランドマーク君だよね?」


「今は、ミナトミュラー君よ」


「そうだった。……あの怖そうな人達誰だろう?」


「みんな頭を下げてるわね……」


 放課後の学校前はこの光景にざわつき始めた。


「ちょ、ちょっとみんな!こんなところで止めてって!ほら、さっさと馬車に乗り込んで、帰るよ!」


 リューとしては説教の一つもしたいところであったが、その時間も学校で変な噂になると判断すると急いで全員をこの場から離れさせるのであった。



 こうしてリュー達の馬車を、黒塗りの馬車が前後から守る様に挟んで、ランドマークビル組事務所まで送るという異様な光景が王都内で展開されるのであった。


「……ランスキーはどうしたの?」


 自分の馬車に一人報告をさせる為に乗り込ませた手下に聞く。


「へい、若の言う通りにマルコと交渉してルッチを『闇組織』から追い出す事で納得させているようです」


「……『闇組織』のボスの許可無しでルッチを切る事をマルコが判断したの?……幹部会の権限が予想よりも大きいのかな?ランスキーは何て言ってるの?」


「ランスキーの兄貴は、『これでルッチは孤立、捕らえてボスの人相を吐かせればこっちのもんだ。若の計画通り、幹部達は闇組織を守ろうとするあまり、ボスの正体を知るルッチの価値を見誤っている様だ』、だそうです」


「そのボスの動向は?」


「……そういやぁ。『闇組織』の幹部連中だけの判断ですね。──兄貴のところに人を走らせましょうか?」


「ちょっと待って。そもそも、ボスにとってはルッチは直系の子分のはず。それを他の幹部連中だけで追放を決定できるのがおかしな話なんだけど……。それに、自分の正体を知るルッチが捕まると不味いとボスが気づいてもおかしくないんだけどなぁ」


「本当ね。ちょっと、こっちに都合よく、事が進み過ぎてる気がするわ」


 リーンが、考えを整理しながら、リューの疑問に賛同した。


「ボスが何も言ってこない……。と言う事はボスはルッチを幹部達同様、切るつもりでいるという事……。正体がバレるかもしれないのに?いや、正体を知っているはずのルッチすらも本当はボスの正体を知らないのだとしたら?」


「え!?それじゃ、今回の作戦の意味がないじゃない!元々、ボスの正体を暴く為にそれを知っているルッチを捕らえるのが目的でしょ?それにボスが気づいても、何かアクションを起こしたらそこからボスの正体を探るって事だったじゃない」


「……うん。それにボスの伝言役でもあったルッチがいなくなって困るのはボスのはず。でも、それにも困らない……。ボスの正体って、もしかして……」


「若、ご自宅に到着したようですぜ」


 同乗している手下が、馬車の窓から外を眺めて報告した。


「うん?そうかじゃあ、ルッチの襲撃がある夜に備えてみんなには作戦通りでとお願いしといてね。ランスキーにもそう報告しといて」


「へい、わかりやした」


 リューとリーンが馬車を降りると手下達がまた、懲りずに整列してリューとリーンを迎える。


「──だからそれは止めてって!ここは寄り親でもあるランドマーク家の本部事務所ビルなんだから、ミナトミュラー一家が仰々しくしてどうするの!」


「──確かに!わかりました。次からは人数を半分に減らして──」


「だからそうじゃないって!」


 リューは間髪を入れずにツッコミを入れた。


 そしてリューは続ける。


「いいかい?君達は今やミナトミュラー一家直系の部下なんだ。本家のランドマーク家に迷惑をかける事はミナトミュラーの顔にも泥を塗る事になるんだよ?これからはこういうのは一切やっちゃ駄目」


「……わかりやした」


 シュンとなって残念がる手下達を後に、リューとリーンはランドマークビルに消えていくのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る