第177話 暴走ですが何か?
『闇組織』の大きな資金源を潰されたルッチは自宅にマルコを呼び出すと、大いに八つ当たりをした。
街長であるリュー・ミナトミュラー騎士爵の監視はマルコの担当であったから全く無責任というわけではないのでそれも仕方がない部分はある。
「……こちらにも責任があるのは認めるが、相手はただの騎士爵とはいえ貴族だ。寄り親はランドマーク子爵。実の親子でもある。それを考えると力ずくで潰すのは反対だ。それに相手は、この街を直々に国王から与えられているのだ。そんな相手に対して正攻法はまずい。となれば俺達は裏社会の人間、俺達には俺達のやり方があるだろう?」
マルコがルッチを落ち着かせると、意味ありげに言った。
「……弱みを握るのか?」
ルッチが聞き返す。
「ランドマーク子爵は遠い地方から最近王都に商売で進出して来たばかりの成金貴族だ。領地から離れたこの王都で商売するには仕入れ先があるはずだろう?うちはその仕入れ先を潰すなり、追い込むなりすればいいのさ」
「今度はこっちが奴らの資金源を叩き潰すわけだな?」
「そういうことだ」
マルコの言葉に、険悪なムードが一転、ルッチは機嫌が良くなった。
「じゃあ、その役はお前に任せる。俺は汚名返上する為にも三連合を潰さないといけないからな。ミスるなよ?それが成功したらボスにも良い報告してやるぞ」
こうしてルッチとマルコは仲直りするとお互いの仕事に戻るのであった。
が、しかし。
マルコの予想は元から間違っていた。
そう、ランドマークビルの商品の納入は、リューが『次元回廊』で、ランドマーク本領から直接やっている。
つまり、マルコの言う仕入れ元を潰すやり方は不可能なのだ。
そうとは知らず、マルコは必死になってランドマークの仕入れ元を部下を使って一週間調べるのであったが、もちろん出てくるのは、マイスタの街での製造を任されているランスキー一派の名前だけであった。
もちろん、ランスキー一派は、マルコの脅しに屈する様なその辺のカタギの商売人ではない。
それどころか、マルコが寄越した部下のケツを蹴り飛ばして追い返す連中である。
マルコは全く結果が出せないまま、ルッチに報告せざるを得なくなるのであった。
「何ー!?この一週間何も出来なかったのか!この役立たずが!」
ルッチはマルコの報告に怒りを露わにした。
「ランドマークの仕入れ先がこの王都やその周辺に全くないんだ、仕方がないだろう!唯一あったのはこの街のランスキー一派の職人達相手だけだ」
「くそっ!また、ランスキーか!こうなったら、ランスキー達を潰すしか『闇組織』のメンツは保たれない!奴らを叩き潰す!」
「おい、待て。ランスキー一派は、この街の住人だ。いくら反目してるとはいえ、潰すとなると『闇組織』内部も分裂する可能性がある。そいつは駄目だ!」
「そもそも、貴様が使えないのが問題なんだぞ!?もうお前に任せていられるか!俺が力づくでランドマークとミナトミュラーを潰してやる!」
ルッチは目を血走らせて憤る。
こうなると狂黒鬼と呼ばれる程、キレると危険なのがこのルッチである。
マルコに止められるものではない。
だが、貴族に直接手を出して『闇組織』が無事でいられるはずもない。
マルコはその場で知恵を絞り出すしかなかった。
「ルッチ、薬の取引相手には貴族もいるのだろう?そっちを動かせな──」
「黙れマルコ。もう、そういう遠回しの手を使う段階は過ぎたんだ!裏社会の人間なら最後は力にものを言わせるのが俺達の世界だろう!」
ルッチはそう言い放つと、部屋を出ていく。
「兵隊を集めろ!王都のランドマークビルを今晩、襲撃する!」
ルッチの怒号が屋敷内に響いた。
マルコが頭を抱え込む中、ルッチの部下達は兵隊を集める為に慌てて駆け出すのであった。
マルコは、ルッチの屋敷を後にすると、部下に言う。
「他の幹部のノストラ、ルチーナに急いで連絡だ。ルッチを『闇組織』から追放する提案をすると。今、追放して単独の犯行にしないと暴走したルッチのせいで『闇組織』が崩壊してしまうとな」
マルコはそう言うと職場である街長邸に向かうのであった。
マルコが街長邸に到着すると、そこにはランスキーが待っていた。
「何でお前がここに居やがる!ガキに取り入って街長の部下気取りか!?」
マルコがランスキーの姿を見て悪態を吐いた。
実際ランスキーはリューの部下なのだが、その辺りはまだマルコは知らない様だ。
「お前に見張りを付けていたからな。おかげで何もかも筒抜けさ。若の寄り親であるランドマーク子爵の建物に殴り込みを掛けるとなると街長代理であるお前も終わりだな」
「……何が言いたい?」
マルコは何か察したのか、怒りを抑えると質問する。
「ルッチを捕らえるのに協力しろ。若はこうなる事を予想してすでに対抗策を打っている」
「ルッチを裏切れと?」
「ルッチを切り捨てるつもりだろう?お前達のボスが何と言うかは知らんがな」
「そこまで筒抜けか……。ルッチ単独の責任にしてくれるのか?」
マルコは早々にルッチを見離すと自己保身の為の交渉に移るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます