第173話 カチコミの相談ですが何か?
『闇組織』にとって、非合法の薬は多額の収入源になっている。
取引相手は基本的に貴族や富裕層であるが、一般のチンピラなども大枚を叩いて購入する者はいる。
薬は高額で取り引きされていて、その作用は幻覚、興奮、神経を鋭敏にして刺激を与える反面、常習性を伴い、使い続けると神経をやられ、廃人になる者までも水面下で増えていた。
この薬はもちろん、その危険性から取り締まられなくてはいけないものであったが、贅沢な嗜好品の一つとして貴族も愛用し、時には薬を使っていう事を聞かせるのに都合が良い事から、色んな階層の人物が顧客に名を連ねており、表立って取り締まられるところまではいっていない。
『闇組織』の幹部であるルッチはその薬の元締めをしており、その原料である葉っぱの生産から薬への製造を一手に担っており、幹部の中でも多大な力を握っている。
現在のボスも、その薬による資金力で今の座に就き、この十年近くはルッチにのみ指示を出し、他の者にはその姿を伏せる事で組織の中で神格化されて、ボスに反抗する者はほとんどいない。
その下であるルッチに反抗する者は少なからずいたが、ルッチはその剛腕で反抗する者を叩き潰してきた。
リューの部下に収まったランスキーは痛み分けながらそのルッチと対立して組織を抜ける事になった稀有な例だ。
ルッチに反抗した者は、基本、行方不明になるのがほとんどだったからだ。
ランスキーは片目を失ったが、ルッチもお腹に大きな傷を残した。
噂ではランスキーの名を聞くとお腹の傷が痛むらしい。
ランスキーは、職人として大事な自分の小指を切り落として正式に組織を脱退したが、度々命を狙われる事があった。
だが、ランスキーを慕う職人達に守られ、時には自分でその刺客を返り討ちにしてきた経緯がある。
「自分は組織を抜けた身、組織には関わらない様に生きてきましたが、若がその組織にちょっかいを出しているのには驚きました」
ランスキーは自分が若と呼んで従っている、リューの大胆さに驚かされていた。
「裏社会には裏社会のルールがあるから口出す気はなかったんだけどね。薬だけは手を出したらいけない。それが僕の信条なんだ。ましてその薬でカタギのみなさんを食い物にしてるとなったら、それは最早、外道。そんな奴が僕の預かっている街でのさばっているのを見過ごすわけにはいかないよ」
リューはランドマークビルの管理事務所でランスキーにそう答えた。
「……若。自分も奴らのやり方が嫌で抜けたんです。必ず、奴らの薬の大元を叩いて打撃を与え、壊滅に追いやりましょう!」
ランスキーはリューの考え方に納得すると気合いを入れるのであった。
「──敵の拠点襲撃は僕達ミナトミュラー一家だけで行います。つまり、僕とリーン、ランスキーとその手下の中で土魔法が使えるメンバーです」
リューがビルの管理事務所でランスキーと職人代表の数人、そして、管理者のレンドがその場にいた。
「リュー坊ちゃん。そこはカミーザの旦那達にも手伝って貰った方がよくないですか?」
レンドが心配して指摘した。
「おじいちゃん達は今、『闇組織』の攻勢で不利な三連合の支援で忙しいからね。それに北の森は僕が任されたマイスタの街の領地内、ミナトミュラーのシマだから。自分ちの庭先で違法な『葉っぱ』を作られてる事だけでも恥なのに、潰すのを人任せにしたとあってはミナトミュラー一家の沽券に関わるよ。ここは僕やランスキーの顔を立てて貰わないと」
リューは自分のところの部下達の体面を口にした。
「……ははは。坊ちゃんが、裏社会の人間に見えてきましたよ。まあ、ランスキー達にしたら地元の事は地元の人間でけりをつけたいというのはわかる話です。確かに坊ちゃんもランドマーク家を離れて与力とはいえ、ミナトミュラー家の当主ですからね、部下達の名誉もあるのはわかりました。報告は俺がしておきますよ」
レンドはリューの言い分を聞き入れると、父ファーザや、祖父カミーザへの報告を代わりにしてくれる事になるのだった。
「ありがとう。それじゃ、さっきの続きだけど、土魔法を使えるメンバーを選んでね」
「若、それなら葉っぱを焼き払うのには火魔法の方が良いと思うんですが?」
ランスキーがリューの人選に疑問を持った。
「焼くと有害な物質が周辺に漏れるからね。だから畑の葉っぱはそのまま地中深くに埋めてしまうよ。それに、土地は無傷で残さないとマイスタの街の損失になるから。その後の活用法も考えてるし」
リューがランスキーの疑問について明確に答えた。
「活用法……、ですか?」
「うん、そもそも『葉っぱ』は育成が困難なのにそれをやってのけている技術は大したものだよ。今は悪い方向に使われているけど良い方に使えれば、マイスタの住民も僕やランドマーク家にとっても喜ばしい事だと思うんだ」
リューは笑顔で答える。
「若……、そこまで考えて頂けてるとは……。わかりました。早速、土魔法を使える奴らと腕っぷしに自信のある奴ら、揃えます!」
ランスキーは職人代表の手下達と一緒に、名前を出し合って確認をし始めた。
「これで『闇組織』に大ダメージを与えられれば、こっちのものね」
活気づく事務所内でリューの背後で大人しくしていたリーンも気分が高まるのであった。
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