第174話 カチコミですが何か?

 リュー率いるミナトミュラー一家の面々は夜中、マイスタの街の西門から迂回して北の森に向かった。


 ランスキーの情報通りその森の中には、壁に囲まれた一角が存在した。


 出入り口はその壁に囲まれた南の門の一か所だけで、見張りもその出入り口に集中している。


 リーンの察知系能力によれば、人員は門内部の建物に集中している様だ。


 それを聞いたリューは、


「合図があったら、見張りが減るのを確認後、正面から襲撃して」


 と、告げるとランスキー達を南門の近くに待機させておいて、ここでも西側からリーンと二人で迂回して、見張りのいない西の壁にやって来た。


「どうするの?壁を壊したら人が集まってくると思うけど?」


 リーンは強硬策を取る気満々であった。


「壁は壊さないけど、派手に音を立てて侵入はするかな。そうでないとランスキー達の合図にもならないし」


「どうするの?」


 リーンが、リューの答えに疑問符だらけになった。


「簡単だよ、階段を作るんだ」


 リューをそう言うと、土魔法で派手に音を立てると地面が盛り上がっていき、西側の壁に上り下りできる階段を作って見せた。


 ちゃんと下りの階段も作ってある。


「何だ今の音は!?西側から聞こえたぞ!」


「誰か西側を見て来い!」


「全員を起こせ!三連合の襲撃かもしれない!」


「念の為にルッチさんに伝令を出せ!」


 この森の隠れ生産拠点の者達は慌てていろんな命令が行き交う。


 ルッチへの伝令は、森を抜けて北の街壁の傍の大岩に向かった。


 その傍に小さい小屋が建っていて、その中に隠し階段があり、街壁内に続いているのだ。


 小屋の前には見張りの者が二人いて、伝令が現れた事に驚く。


「どうした?今日はお前、畑の見張り当番だろう?」


「何者かが畑を襲撃したみたいだ。俺は今からルッチさんにその事を報告する!」


「何!?わ、わかった、早く通れ!」


 見張り二人が急いで小屋の鍵を開ける。


 そして、隠し階段に向かう鉄の板を開けようと二人がかりで持ち上げて、伝令を通過させようとした。


 伝令がその隠し階段から下りようとしたところ、ランスキーの配下達が背後から音も無く近づき見張りと伝令を殴り付け気を失わせると取り押さえた。


「よし、若の言う通りに、隠し通路も押さえられたぞ!」


 こうしてルッチが畑の襲撃を知るのは、翌日の朝、日が上がってからになるのであった。



 その間に襲撃中のリューとリーンは──


 自分で作った階段から中に侵入すると、そこに広がっていたのは規則的に並ぶ平屋の大きな建物群であった。


 どうやらその中で、薬の元である葉っぱを栽培しているらしい。


 前世で言うところのビニールハウスの代わりだろう、これなら温度管理は容易だ。


 天井はガラス張りになっている。


 リューはリーンと別れて建物内に侵入すると、見張りが到着する前に畑を土魔法で掘り返し、葉っぱが青々と生い茂った違法薬の素を地中に埋めて回っていった。


「こ、これは!?──このガキ!この畑一面でいくらすると思ってんだ!」


 駆けつけた見張りは、畑が台無しになってるのに驚き、そしてその原因がその傍にいた子供だと知って手にしていた木の棒で殴りかかった。


 リューは軽々と木の棒を躱すとその男の腕を掴みそのまま投げる。


 男は短くぎゃっと叫ぶと地面に叩きつけられて気を失った。


「このガキ、強いぞ!」


 あとから現れた見張り達がどよめく中、今度は南の出入り口付近から喊声が上がり激しい剣戟の音が響いて来た。


「な、何だ!?こっちのガキは俺が捕まえるからあっちを見て来い!」


 男が連れに命令して振り返るとそこにリューの姿はなくなっていた。


「どこに行きやがったあのガキ!?」


 男が驚いていると、


「相手から目を離すとか素人でもやっちゃ駄目」


 と、右側から声がしてそちらを見た瞬間、眼前にリューの拳が迫っていたのがその男の最後の光景だった。



 リーンとリューはランスキー達が見張り達と戦っている間に畑を全て潰して回った。


 止めに入った見張り達も倒しながらだったので多少骨は折れたが、二人を止めれらる者はほぼいなかった。


 ほぼとういうのは、リーンが最後の畑を潰そうとしているところに、用心棒と思われる男が現れリーンに斬りかかったのだ。


 そこに割って入ってリューが剣を抜き、その男の斬撃を受け止める。


「……やるな小僧。俺の斬撃を受け止めた奴は久しぶりだ」


「うちのおじいちゃんに比べれば楽勝だけど、おじさん、強い人と戦った事ないんだね」


 リューは相手に対し、素直な感想を漏らした。


「小僧、俺を挑発した事を後悔しな!」


 用心棒は一旦背後に飛ぶと、また、上段に構えてリューに斬りかかった。


「いや、本当におじいちゃんよりは遅いよ」


 リューは一歩、左側半身で踏み込むと、用心棒の上段からの斬り下ろしを紙一重で躱していた。


 それと同時にリューは左手に剣を握ったまま、渾身の右拳でカウンターを用心棒のお腹に叩き込む。


 用心棒は衝撃波と共に壁まで吹き飛ぶとその壁も壊して外に飛んでいくのだった。


「リュー、私一人でも大丈夫だったのに」


 リーンが、最後の畑を土魔法で潰すとリューにそう言った。


「一応、見せ場も大事だから」


 リューは笑ってリーンにそう答えると、気絶している用心棒を放っておいて、南の門で激戦を展開してるランスキー達の応援に向かうのであった。

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