第171話 闇の会合・2ですが何か?

『闇組織』の幹部達は、『上弦の闇』『月下狼』『黒炎の羊』による三連合の思った以上の抵抗に苦虫を潰した様な面持ちになっていた。


 予定では、最初の反撃で大ダメージを与えて降伏させ、今頃、こちら側の傘下に入れる話し合いが行われるはずだった。


 だが、その反撃が悉く失敗したのだから、その手はずを整えた中心人物のルッチは特に不機嫌であった。


 まず、敵の一角であり最大グループである『黒炎の羊』のボスの暗殺計画が実行された。

 潜んでいる場所も金をばら撒いて調べ上げ、外出時間もわかっていた。

 なので、出てきたところを冒険者崩れの腕利きに襲撃させて、仕留める手はずであった。


 だが、冒険者崩れは襲撃寸前で雲隠れした。


 そこで急遽王都のごろつき数人を代役で用意したのだが、敵は襲撃を察知して影武者を用意しており、全員見事に返り討ちに遭った。


 そして、反撃の狼煙になるはずだった『黒炎の羊』のボス暗殺未遂のまま、他のグループ襲撃も開始されたのだが、こちらもどこからか情報が漏れており、返り討ちに遭うのだった。


 散々の結果に、『闇組織』幹部会合はルッチが一人恥をかく羽目になった。


「そもそも、ノストラのところの冒険者崩れが雲隠れしたのが原因だぞ!?」


「おいおい、そりゃないなぁ。その男の負債はあんたのところが肩代わりした時点で責任者はルッチ、あんただよなぁ?こっちはもう関係ないって。逃げられたのはあんたが何かその男に言ったんじゃないか?多少の事でビビる様な奴じゃなかったよその冒険者崩れはさぁ」


 ノストラはルッチの怒りをひらりと躱すと反撃する。


「──それに襲撃が明らかに奴らに漏れていたぞ!影武者を立てるわ、兵隊を周囲に伏せているわ、完全にこちらの襲撃情報を知っていた反応だ。まさかこの中に情報を漏らした奴がいるんじゃないか!?」


 ルッチの怒りは収まらず、幹部にそれは向けられた。


「ちょっと止めるさね。アタイ達はあんたが襲撃するのは知っていたさ。でもね?細かい事なんてあんたからは何一つ聞かされてないよ?そんな状態でどうやってあっちに情報を漏らすっていうのさ。冗談も休み休みにしな!」


 女幹部ルチーナがルッチに怯む事無く怒声をはらませて言い返した。


「……ぐぬぬ。では俺の兵隊に裏切者がいるとでもいうのか!」


 ルッチはなお怒りを抑えず、ぶちまける。


「声を押さえろルッチ。いくらこの部屋が防音でも、そう魔物みたいなデカい声で吠えられたら外に聞こえちまう。それにお前のところの兵隊は、金をばら撒いて集めたごろつきが中心だろう?このマイスタの街の連中ならともかく、よそのごろつき連中なら口の軽い奴が混ざっててもおかしくないだろ」


 マルコがルッチの最近のやり方を暗に非難しながら指摘した。


 ルッチはマイスタの住人よりも、王都のごろつきの方が使い易いと重宝し始めていると噂になっているのだ。


『闇組織』はこのマイスタの連中が中心の組織だ。


 それを蔑ろにし始めているルッチにマルコは反感を持っていた。


「……くそっ!」


 ルッチは言い返せず、机を強く叩く。


 そして続けた。


「……こうなったら小細工は無しだ。大枚をはたいてごろつきを大量に集めて大々的に正面から奴らを叩き潰す!」


「止めときな。それをやると収拾がつかなくなって王都の警備兵や騎士団が駆けつけちまう。そうなったら奴らを潰すどころか『闇組織』が国から潰されちまうだろうよ」


 ノストラが止めに入った。


「そうさね。そんな事したら、一巻の終わりさ。ボスも流石にあんたを庇えなくなるよルッチ」


 ルチーナがボスの存在を出してルッチに自制を促した。


「こっちが圧倒的に体力はあるんだ。消耗戦になればこっちが必ず勝つ。今は我慢した方が良いぜ?」


 マルコが冷静に戦況を分析した。


「……うるせい!最弱は黙ってろ!──とにかく圧倒的に被害が出てるのは俺の縄張りなんだ。俺は好きにやらせて貰う……。それが嫌なら、お前らもちっとは手伝わねぇか!」


 ルッチがまた、力に任せて机を叩いて他の幹部を威嚇する。


「……はぁ。あんたが今回の抗争、仕切るって言いだしたんじゃないか。別にいいさね。うちの用心棒連中も暇してるからたまには仕事させるさ」


 女幹部ルチーナが重い腰を上げた。


「仕方ない……。うちはそんなに数は出せないがこんな時の為の処理をさせている兵隊がいるからそれを動かすよ」


 ノストラもため息交じりに兵を動かす事を約束する。


 それに対してマルコは沈黙する。


 ルッチ達の視線がマルコに集中した。


「──おいおい!街長の時ならともかく、今は街長代理だぞ俺は?さすがにその状態で領兵を動かしたら、いくら街長がガキだと言ってもすぐバレちまう!それに最近、街長はランスキーの野郎と仕事で契約を結んで親しくなってるんだ。今、目立つと厄介な事になる!」


「ランスキーだと!?」


 ルッチがランスキーの名前に強く反応した。


「何で奴の名が出てきやがる!?」


 ルッチがマルコに噛みついた。


「奴が街長に接触してきたらしい。今じゃ奴とその手下達はランドマーク子爵が経営する商会の商品の製造を任されている様だ。今はそれしか知らん」


「くそ!こんな時に!──マルコ!貴様のところは兵隊を出さなくていい。だがランスキーをどうにかしろ!奴が息を吹き返すと厄介な事になる!」


 ルッチは歯噛みしながら天敵であるランスキーの勢いが戻る事を恐れるのであった。

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