第170話 選挙結果ですが何か?

 生徒会選挙投票当日。


 二年生のジョーイ・ナランデールと、三年生のギレール・アタマンの一騎打ちになったこの選挙は、体育館での全校集会で演説合戦が行われた。


 そこで優位にたったのは三年生のギレール・アタマンであった。


 流石この日の為に準備は万端で天才と言われるだけあり、その演説は堂々として理路整然と演説を展開した。


 対するジョーイ・ナランデールは緊張のあまり、途中で頭が真っ白になると言葉に詰まり、用意した原稿を見直す事態になった。


 その為、三年生のギレール・アタマンは勝利を確信した。


 全校集会が終わると生徒達は各教室に戻り、投票に移る。


 演説合戦では圧倒的にギレール・アタマン優位であったので、どのくらい票が流れるかが今回の目玉になりそうな予感であった。


 票は各学年の選挙管理委員が回収し、教師立会いの下、開票作業が行われる。


 王女の取り巻きがその作業を遠巻きに監視して、各クラスの結果が出ると教室に駆けこんで生徒に報告する。


 ──結果。


 一年生票の九割がジョーイ・ナランデール、残りの一割は無効票が半分で残りがギレール・アタマンであった。


 二年生票は、団結力を見せてほぼ全ての票がジョーイ・ナランデールに入っていて、ごく一部の数票は無効票であった。


 そして、三年生票、ここはギレール・アタマンの独壇場である。


 ……はずだった。


 なんと、ギレール・アタマンに投票したのは4割で、残りはジョーイ・ナランデールに票が流れていたのだった。


 そう、投票結果は、圧倒的な投票差でジョーイ・ナランデールの勝利であった。




「くそっ!なぜ三年生の票が六割もあちらに流れているんだ!それに一年生はマキダールに任せていたはずだぞ!何で数票分しかこちらに入ってないんだ!」


 いつもならカッとなっても我慢するギレールであったがこの時ばかりは、恥辱に顔を真っ赤にし、周囲に当たり散らすのであった。




 リュー達の特別教室では──


「王女殿下、おめでとうございます!」


「流石殿下のご威光です、見事に大勝ですね!」


「偉そうに次期生徒会長を名乗ってこの教室に来たのに、この投票差は痛快です!」


 王女の取り巻き連中は拍手をすると王女を讃えるのであった。


「リューのあれが効いたわね。あのおかげで一年生の票も完全に二年生の先輩に流れたわ」


 リーンが痛快とばかりに喜んで自分の主を讃えた。


「でも、圧勝だと禍根を残しそうだなぁ。アタマン先輩、王女殿下を恨まなきゃいいけど」


「リュー、本気でそれ言ってるのか?恨まれるとしたら、一年生の票を全て王女殿下支持に回したお前だぜ?」


 ランスが笑ってリューの肩を叩く。


「なんでさ!僕はマキダール君達の分の票を削ったくらいだから!」


「マキダールは元、エラインダー派の取り巻きだ。その影響力は流石に多少はあったんだよ。まあ、マキダール本人が思った以上に最低だったからそんなに支持を集められてなかったがアタマン先輩はそうは思ってないだろう」


 ナジンがリューの思い違いを訂正した。

 確かにギレール・アタマンはエラインダー派の影響力は大きいと踏んでいたので、一年生票は沢山流れてくると考えていた。

 それが、リューのマキダール説得で流れは完全に変わってしまったのだ。


 その上に、二年生の団結力が凄かったのも大きい。

 ジョーイ・ナランデールが言っていた通り、二年生は元々王女殿下支持派だったのでその王女殿下が支持表明したジョーイに全て票が集まったのだ。


 それらの結果、思わず同情したくなるのが、三年生票だ。


 これも王女殿下の支持表明が大きかった。


 それと、ギレールの人望の無さであろう。


 特別クラスの生徒と、その影響下にある生徒はギレールに投票しても、大半の普通生徒は天才である事を鼻にかけ、普段から身分の差を口にするこの男を快くは思っていなかったのだ。


 そこに、王女殿下が二年生の立候補生徒を支持表明した。


 これには、表向きは表情に出さないものの、みな視線を交わすと入れる相手はもう、一人しかいなかった。


 王女殿下の良い評判は最近一年生の間から聞こえてきていたから、その王女殿下が支持する二年生の方が、まだマシだと判断した者が続出したのであった。


 特別クラスの貴族は貴族至上主義であり、この学園の慣習に従い優秀な成績のギレールを選んだが、他の生徒はそうはいかなかったのだった。


「今度はギレール・アタマン先輩に!?そんな恨まれてる暇ないのになぁ……」


 リューはため息を吐く。


「リューが王女殿下の代わりに恨みを買ったのなら恩が一つ返せたと思いな」


 ランスが笑って指摘する。


 エラインダー、トーリッターの件で王女殿下がリューの為に裏で動いてくれた事を聞きつけランスが教えてくれた。


 なので、王女殿下には沢山の借りがある。


「そうだね……。そう思うとこれは恩返しが一つ出来たと思っておこう!……でも、恨まれるのは重くない?」


 切り替えるリューであったが、やはり恨みを買うというのは嫌なのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る