第167話 出馬ですが何か?
王立学園の次期生徒会選挙がついに始まろうとしていた。
二年生のジョーイ・ナランデールが正式に生徒会長候補として出馬が決定。
それと同時に、王女殿下が一年生を代表して支持を表明した。
これには、学園中がどよめいた。
もう、選挙とは関係なく就職活動が活発化する四年生もこの情報には驚いた。
「おいおい、慣例では三年生の特別クラスの成績優秀者が次期生徒会長のはずじゃないのか?」
「別に絶対ではないみたいだぜ?」
「これで負けたら、出馬する三年は大恥だな」
「流石にそれはないだろ。恒例の当て馬が同じ三年からじゃなく二年生から出るだけだろ?」
「馬鹿、何聞いてたんだよ。一年生の王女殿下がその当て馬を支持するって事は、全体票の約三分の二が二年生の立候補者に流れるかもしれないって事だぞ!」
最早、他人事である四年生でもこの騒ぎである。
そうなれば、特に三年生は、騒がずにはいられない。
みんな同級生の成績トップである特別クラスのエリート、ギレール・アタマンが選挙期間に入る前から選挙の出馬を早々に表明していたので、慣例通り、ギレールが生徒会長に内定していると思っていたのだ。
だからあとは、毎年恒例の誰を当て馬に出馬させるかで盛り上がっていた。
二年生が出馬する噂はあったが、みな、今年の当て馬は二年生の生徒か、というくらいにしか思っていなかったのだから、一年生の王女殿下がそのどこの誰だかわからない二年生の支持を表明した事に、驚かずにはいられなかった。
そして、当の次期生徒会長の予定であったギレール・アタマンは顔を真っ赤にして怒っていた。
「王女殿下を生徒会役員に指名するつもりでいたのに、この仕打ちはなんなのだ!本当に二年生のどこの誰だかわからない奴を支持してるのか!?」
ギレールは、特別クラスで、取り巻きに確認した。
「さっき先生からも確認しました。『エリザベス第三王女殿下は二年生のジョーイ・ナランデールを支持すると声明があった』だそうです。二年生の大部分は王女殿下の声明発表に伴い、これを支持してるそうです」
「なっ……!くそっ!──大部分という事は俺の支持に回った一年生もいるのか?」
ギレールは瞬間的にカッとなり物にあたりそうになったものの、踏み止まり落ち着いて聞いた。
「王女殿下の特別クラスとは別の元イバル・エラインダークラスは、ギレールさんを支持するそうです」
「……そうか。元エラインダークラスはこっちか!今のそのクラスをまとめているのは?」
「マキダール侯爵の子息だそうです」
「それならばよく知っている。エラインダー公爵派閥の一人で、うちの親とも親しい間柄だ。そのマキダールに一年生の普通クラスの票を切り崩す様に言っておけ。普通クラスの連中はエラインダー公爵の影響力が大きいのがわかっている者は多いだろう。イバル様があんな不幸な出来事に巻き込まれたのも王女クラスの生徒のせいだし……。その辺りを強調して王女殿下の支持には疑問があると噂を流すんだ!」
ギレールの中では、イバル・エラインダーの無期限停学は不当なものだと思っていた。
そして、そこまで追い詰められる事になったのは、新興貴族の三男坊の悪知恵に落とし入れられたのだと思っていた。
イバルの教育係をしている兄からは、イバルが聡明で、才能に溢れた嫡男であると聞いてる。
それだけに、無期限の停学処分になったイバルが一番の被害者であると思っていたから、一年生は王女殿下の権威の前にそれが言えず大人しくしているのだと勘違いをしていた。
リュー・ランドマークにしても、成績優秀者ではあるが、下級貴族である以上、公爵家の嫡男を無期限停学処分に陥れた罪は大きい。
余程、悪辣な人物に違いないのだ!
もちろん、ギレールの分析は元からずれていた。
それは尊敬する兄の言葉を信じているからで、そんな兄が褒めるイバル・エラインダーを貶めた事になっているリュー・ランドマークが、ただの巻き込まれただけの被害者であり、そのリューがまさか一年生の間ではすでにちょっとしたヒーロー扱いをされているとは夢にも思わないのであった。
「……寒気がするのだけど」
リューは何か感じたのか教室の隅っこでみんなと話している最中に身震いした。
「それ、以前もイバルに絡まれる前に言ってなかった?」
リーンが前回を思い出して言う。
「止めてよ、リーン。不吉な事言わないで……。流石にもう、僕に絡んでくる人はいないから、……いないよね?」
リューは苦笑いすると否定するのであったが、イバル絡みで恨みを買われている可能性を思い出し、それを口にはしないが否定してみるのであった。
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