第166話 選挙期間に入りますが何か?

 リューが私生活で忙しくしている中、王立学園では生徒会選挙の期間に入ろうとしていた。


 リュー達隅っこグループには関係がない行事の様にも思えたが、王女の特別クラスである。

 一年生の票をまとめるのに王女の取り巻きグループが中心になって動いていた為、クラス内は慌ただしくなっていた。


 うちのクラスは、二年生の四天王グループ代表であるジョーイ・ナランデール先輩を支持する事になっている。


 他の普通クラスの支持もうちの王女クラスの取り巻きグループと、王女自身がクラスを休み時間や昼休みに回って演説する事で、2年生のナランデール先輩に支持が集まりつつあった。


 あとはもう一つの特別クラスだが、このクラスは表面上、イバル・エラインダーの取り巻きであったマキダール侯爵の子息が、イバルに取って代わりリーダーに収まっている。


 だが、ちゃんとまとまっているとは言えない様で、時折このマキダールの陰口が王女クラスにも聞こえてきていた。


「マキダール君は、良くも悪くも今の貴族の典型を形にしているね」


 リューが噂から感想を漏らした。


「まあ、大人だったらあれが普通だろうけどな。貴族として持つ者の責任と、それに伴う優遇で庶民とは違うと考えているんだろう。この学校では平等を謳って改革も行われたのに、特別クラスはそのままだから、自分達が特別なのは変わらないと思っているんだよ」


 ランスが、呆れたように首を振る。


「他の生徒達は以前より開放的な雰囲気に慣れて来たのにマキダールはイバルがいなくなって違う意味で開放的になってるな」


 ナジンがシズと一緒にリュー達の元に来て指摘した。


「……最近のマキダール君はかなり偉そう」


 シズが何かあったのか小さい声で不満を漏らす。


「ああ、シズの言う通り、王女殿下に敵対する態度こそ取ってないけど、一つの勢力を作ろうとしてる感じだ。でも、うまくいってないみたいだけどな」


 ナジンがシズの言いたい事を付け足した。


「他の一年生は王女殿下の元にまとまる感じだから、あのクラスだけ浮きそうね」


 リーンが感じた事をそのまま口にした。


「あのクラスの他の生徒もいい迷惑だろうな。イバルがいなくなって雰囲気良くなると思ってただろうに、次はマキダールだからな」


 ランスが今度は他の生徒に同情して首を振る。


「イバル君は無期限停学処分から、クラスに戻ったらどうなるんだろうね」


 リューが心配する様な口調で言った。


「おいおい、イバルに同情してるのか?アイツは自業自得だぜ。まぁ、トーリッターの操り人形になってたところはあるから、そこは同情するけどさ。……確かに嫌なやつだったけど廃嫡される噂が最近、本当に広まり始めてるから大変だろうな」


 ランスは一旦イバルを批判する姿勢を見せたが、イバルの今後を考えると同情的になった。


「うちの方でも、廃嫡の話が聞こえてきてるよ。何でも派閥傘下の貴族の養子に出されるんじゃないかって話もある」


 ナジンが親から聞いたのか驚く様な情報を提供してきた。


「……!それは流石にないんじゃない?」


 リューは自分がきっかけで転落人生を歩む事になるのかもしれないイバルが心配になってきた。


「それ、俺も聞いたよ。エラインダー公爵が相当怒ってるらしい。例のアレ。出処が判明して公爵の部下の数名と、軍部の関係者数名、イバルの教育係の一人であった公爵の腹心が、内密に処刑されたってさ。それで、イバルは廃嫡だけでなく、他所に養子に出されるって聞いたぜ、本当にただの根も葉もない噂だと思ってたけどナジンの耳にも入ってるのか……」


 ランスは相変わらず情報通なところを見せた。


「未だ退学の話は出ていないから、あのイバルって子は、この学校に戻るつもりでいるのかもね」


 リーンが、驚く様な指摘をした。

 確かに、イバルの自主退学の話は未だに聞かない。

 本当なら、自主退学して噂に備えてもいいようなものだ。


「この学校で一番エラインダー公爵家の内情に詳しいのは今回の生徒会選挙に出馬するギレール・アタマン先輩だろうけど」


 ナジンが話を少し選挙関係に戻した。


「……先輩のお兄さんが、イバル君の教育係の1人なんだよね?」


「そういう事。例のアレには関わってなかったみたいで処分された中に名前は出て来てないみたいだ。それらを近くで一部始終を見て来た人間になるだろうからギレール先輩も何かしら話は聞いてるとはおもうんだけどな。イバルが廃嫡となると先輩のお兄さん、教育係の仕事はクビか」


 ナジンは話しながら神妙な面持ちでリューを見る。


「え?という事は僕のせい!?」


 イバル廃嫡のきっかけ作りになったのは確かなのでリューはナジンの視線に合点した。


「リューのせいではないけど、逆恨みされる可能性はあるかもしれないから気に留めておいた方がいいだろうな」


 ナジンが忠告した。


「だな」


 ランスも頷く。


「……気を付けてねリュー君」


 シズも同情的な表情で励ます。


「リュー、大丈夫よ。私が守るから」


 と、恨まれるのが決定したかの様に話すリーン。


 がーん


「そんな…、僕が目の敵にされるのが決定事項みたいに言わないでよ!」


 仲間の言葉にリューは慌ててツッコミを入れるのであった。

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