第165話 職人会議ですが何か?

 ランドマークビル前でのちょっとした騒ぎがあったが、ランスキーとその部下達はミナトミュラー家が抱える職人としてその力を存分に発揮した。


『乗用馬車一号シリーズ』を始めとし、各車の生産もリューの指導の下、すぐにコツを掴んで作り始めた。


 こうして街のあちこちで鍛冶屋の鉄を打つ音が鳴り響き、活気ある声がそれに花を添えた。


 鍛冶屋だけではない。


 道の舗装で火が付いた石工職人は城壁の補修に乗り出し、ついでにと、近所の修繕が必要な家々も屋根職人達と一緒に直して回る。


 他の職人達もリューの役に立ちたい一心で、リューが学校がある日は、手間をかけさせまいとランドマークビルにランスキーと職人の代表者数名が赴き、リューの帰宅と同時に、ランドマーク家の職人達と一緒にビル事務所で会議が行われた。


 マイスタの職人達はまず、ランドマークビルの作りに感心した。


 そう、リューが設計し一晩で作った鉄筋入りのビルである。


 リューがそれを教えると職人達は驚き、「さすが若だ!」と、驚き絶賛する。


 中に鉄を入れるという発想がそもそもなかったのだ。


 そこで、ランスキーから提案があった。


「若、それならば建設関係の商会を作りませんか?若の発想のこの作りで、今までせいぜい二階建てや三階建てが主流だった王都の建設業界にも新風が巻き起こりますよ。我々がその第一歩になりましょう!」


 これにはリューも驚いた。


 そっち方面の事は全く考えていなかったのだ。


「あ、もちろん。このランドマークビルより高い建物を作る気はありません。四階建てまでにしましょう」


 これにはリューも苦笑いだったが、当分の間はこの技術を真似される事はないだろうが、念の為商業ギルドに登録しておこうとリューは考えるのだった。



 会議の間、仕立屋の代表が自分の出番がないまま会議は佳境に入ろうとしていたので焦っていた。


 一時は職人達の黒服を仕立てて面目躍如を果たしたが、親分であるリューに却下されてしまった。


 ここで、何か提案をして仕立屋代表としてアピールしたいのだが、何も思い浮かばないのであった。


 そこへリューが、


「そうだ、建設関係の商会を作るなら、制服が必要だね。あと、作業服のつなぎも欲しいなぁ」


 と、思い付きを口にした。


「「「制服に、ツナギ?」」」


 ランスキーや職人達はリューの聞き慣れぬ言葉に、「?」が頭に浮かんだ。


「そう、うちの商会の人間だと一目でわかる為の統一した服だよ。そして、作業時にはみんなが着るつなぎ、動きやすいよ」


 リューが簡単な説明をした。


「なるほど。若の立ち上げる商会をアピールする為のものですね!つなぎの方はよくわかりませんが、──おい、仕立屋代表。格好いい制服と『つなぎ』を作れるか?」


 ランスキーが、端っこで小さくなっている仕立屋に話を振った。


 出番がなかった仕立屋代表は自分の出番が来た事に表情を明るくすると、


「も、もちろんです!若、その制服と『つなぎ』について詳しく教えて下さい!」


 と、前のめりになりながら、今日一番の出番に力が入るのであった。




 こうして、マイスタの街に火が灯ったのであった。


 これには『闇組織』に所属する職人達もうずうずし始めた。


 元々ランスキーは職人達の頭的な存在であったが、非合法な薬の生産販売で力を付けた今のボスと、直属の部下であるルッチが台頭してきたので、そりが合わなくなり衝突、その折にランスキーは片目を失い、『闇組織』を抜ける代償として小指を落としたのだ。


 その時にランスキーを慕う手下である職人達も一緒に抜けたのだが、今後の生活の事を考え残った職人も少なくない。


 マイスタの街にとって、『闇組織』は絶対なのだ。

 子供の頃から、この街のシンボルとして、当然の如く所属して活動してきた者がほとんどだ。


 だが、現在、『闇組織』における職人達の扱いはそれほど良くない。

 以前の職人達は『闇組織』の創立に関わっていたので尊敬の対象であったが、『闇組織』の収入の中心が非合法の薬になってからは、それが農業ギルド長ルッチとその周囲に移ろうとしていた。


 そこに、ランスキーの脱退でいよいよ職人の立場は弱くなっていったのだ。


『闇組織』によって、守られていた職人の街が、『闇組織』によって斜陽を迎えていた。


 時代の移り変わりと言われれば仕方がなかったのだが、ここにきて街長が『闇組織』の幹部であるマルコから、地方から来た新興貴族の子供に変わった。


 これだけでも驚きなのに、死に体同然だったランスキー一派の職人達に急に活気が戻り始めた。


 いや、戻り始めたどころか、勢いに乗って商会の立ち上げまでするという。


 今や『闇組織』の仕事が本職で、職人としての仕事が仮初めの姿になりつつあった職人連中は羨望の眼差しでランスキー一派に視線を送るのであった。

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