第164話 若ですが何か?

 ランドマークビルの前には、朝早くから物々しい雰囲気の黒塗りの馬車が綺麗に4台並んで止まっていた。


 リューとリーンを学校まで送迎しようとランスキーと部下達が黒一色に統一した服を着て整列している。


 前世の極道映画である、組長の出迎えシーンの様だった。


「リュー、あれが昨日報告してくれたランスキーとその職人達か?」


 父ファーザが、五階の窓から下を眺めてリューに聞いた。


「あはは……。お父さんにもあとで紹介しておくね。うちのミナトミュラー家の家族だから」


 リューは苦笑いして答えるのであった。


 父ファーザとリュー、リーンの三人で下りて行くと、ランスキーがみんなを代表して朝の挨拶をする。


「若、リーンの姐さん、おはようございます!そして、大親分、初めまして。俺は若の下で子分になる事になりましたランスキーと申します。この命ある限り、若の下、ランドマーク家に忠義を貫く所存です!」


 完全に前世の極道映画状態だ。


 父ファーザも戸惑っていたが、リューの報告通り、信用は出来そうだと思ったのだろう、


「うちの子はしっかりしているが、まだ12歳だ。お前達が上手く盛り立ててくれよ」


 と、ランスキー達にお願いするのだった。


「もちろんです!若を盛り立て、命を賭けてお守りします!」


 ランスキーが頭下げると、部下達も揃って頭を下げる。


「……それはいいけど、ランスキー。朝からこの規模で、家の前に押しかけられるとカタギのみなさんが勘違いするから、送迎はしなくていいよ?」


 リューは、一番肝心の事を注意した。


「しかし、若!ミナトミュラー家の看板はまだ、新興なので舐められやすいかと。やはり、最初が肝心、学園の生徒にはっきりとわからせるのが重要かと……」


 ランスキーはリューの事を思っての事らしい。

 元々『闇組織』の幹部の一人だったので、そういう事に敏感なのだろう。

 自分の主が舐められる事が嫌なのだ。


「さっきも言ったけど、カタギのみなさんが勘違いするから止めなさいって。ランスキーには後でお願いするつもりだったけど、表と裏の顔はちゃんと使い分けてね」


 裏と言っている時点で何かやる気なのは確かなリューであったが、ランスキーが暴走しない様に注意するのであった。


「……わかりました。若の言葉は絶対です。……じゃあ、途中までは?」


 一旦、承諾するランスキーであったが、チラッとリューの顔色を窺ってダメ元で提案する。


「だから、駄目。みんなはランドマーク製の商品の生産に今は集中して下さい」


 リューはそうランスキーに厳命するとランスキーは残念そうにした。


「それに、その恰好はどうしたの?」


 リューは黒一色に統一された服装を指摘した。


「これはうちの仕立屋の職人に作らせました。若が目立つように俺達は地味な黒が一番良いだろうと」


 ランスキー達みんなで話し合って考えたらしい。


「……ははは。逆に目立ってるから止めてね?」


 リューの言葉に、がっかりするランスキーと部下達であった。


 そして、その部下達にランスキーは、「マイスタの街に帰るぞ」と言って馬車に乗り込む。


「じゃあみんな、週末にまたそっち行くから生産ライン、言った通りにちゃんと整えておいてね」


「「「へい!」」」


 リューの言葉にランスキーと部下達は返事して帰って行くのであった。


「……良い奴らそうだが、腕の方も大丈夫なんだな?」


 ファーザは苦笑いしてそう聞くと、続けて


「いや、この件はマイスタの街長であるリューに任せているから、私の口から言う事じゃないな、頼んだぞリュー」


 父ファーザは隣のリューの頭を撫でると、ビルに引き返していく。


 そこには従業員達が興味本位で階下のリュー達を眺めていたので、


「みんな開店時間にはまだだが、色々と支度はあるはずだぞ。大丈夫なんだろうな?」


 と、父ファーザが言うと、みんな慌てて忙しく朝の支度に戻るのであった。


「……それにしても、リーンは姐さんになってたね」


 リューは笑ってリーンをちょっとからかってみた。


「リューがオヤブンなら、その従者である私は右腕的存在だから、ゴクドー用語でのワカガシラがいいんだろうけど……。リューが若って呼ばれてるから、私は姐さんが妥当じゃない?」


 リーンはリューから聞いているゴクドー用語を持ち出して説明する。

 自分では姐さんと呼ばれる事に抵抗は無いようだ。


「それならいいんだけどね」


 リーンの柔軟に適応している事に、感心して頷くリューであった。

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