第163話 親ですが何か?

 職人をまとめるランスキーと手を結んで数日後、リューの元に国からある許可が下りた。


 それは、マイスタの街から王都までの道の整備許可である。


 国側はこの時期に予算は割けないと渋っていたのだが、こちら側で負担するので道の整備許可だけを願い出ていたのだ。


 王都までの道である。


 途中までは自領なので道は引けるが(というか途中まではすでにリューとリーンが道を引いている)王都と周辺は王家直轄地、許可を取らない事には勝手に道を整備するわけにもいかなかったのだ。


 マイスタの街までの道は正直放置されて長い間整備されていないので、不便極まりないくらいに荒れていた。


 リューとしてはせっかく近いのだから便を良くしておくに越した事はない。


 許可が下りて、早速リューとリーンは、ランスキーと職人達にもお願いして道の整備にあたるのであった。




「これは驚いた。うちの街長は、鍛冶に詳しいからただの子供じゃないと思っていたが、魔法にも造詣が深いらしい。あっという間に街道顔負けの道が出来て行きやがる!」


 ランスキーが感嘆する中、リューが一度、土魔法を唱えると、ドミノが倒れる様に地面が波打ちながら石畳の道が出来て行くのだ。


 文字通り魔法の力であっという間であった。


 そして、リューの従者として付いているリーンも反対側から同じ様に土魔法で道を作り、職人達の度肝を抜く。


「これでは職人を名乗る俺達の名が廃る。土魔法が得意な奴ら、エルフの嬢ちゃんに負けない様に石畳を作るんだ!細かいところは他の職人が整えるから、スピードを重視しろ!」


「「「おう!」」」


 職人達はリューとリーン程ではないにしろ、職人のプライドをかけて、王都までの道を急ピッチで作って行くのであった。


 いくら、王都からマイスタの街までが馬車で1時間ほどの道のりとはいえその距離は何キロにもわたる。


 通常なら何日もかけて作るところだが、あらかじめマイスタ領内の道はすでにリューとリーンが作っていた事、そして、王都までの間をそのリューとリーン、そして今回は石工職人達も参加していた事でわずか半日足らずで整備し終えたのであった。


「……まさか半日でやっちまうとは……な」


 ランスキーは魔力回復ポーションを飲んで魔力の回復を行っているリューとリーンを傍らで見ながら、


 こいつは本当にマイスタの街の救世主かもしれない。


 と、期待に心を躍らせるのであった。


「今回は短かったから楽勝だったね」


「そうね、それに、職人さん達も中々良い働きしてたわよ」


 リューとリーンの会話を聞いていたランスキーは


 え?これが楽勝な作業なのか!?


 と、度肝を抜かれるのであった。


 そして、次の瞬間、


「ミナトミュラー騎士爵殿!俺をあなたの部下に取り立てて下さい!」


 と、自然にその言葉がランスキーの口から洩れていた。


 そう自分で言ってびっくりするランスキーであったが、それと同時にこの人になら付いていける、命を預けられると納得する自分もいたのだった。


「急にどうしたんですか!?もう、ランスキーさんとは契約結んでますよ?」


 リューは突然のランスキーの言葉に意味を飲み込めず、聞き返した。


「そういう事じゃないんです。俺は騎士爵殿になら仕えてもいいと思いました。いや、仕えさせて欲しいんです。あなたがマイスタの街を変えてくれるかもしれないと思えたから、自分の勘に従いたい」


 ランスキーは自然に正座をすると頭を下げていた。


「……ランスキーさん。頭を上げて下さい。僕としてもマイスタの街を変えたいと思っています。そして、その為には信用できる部下が沢山欲しい。ランスキーさんはその信用できる部下になってくれますか?」


 リューはランスキーの真剣な眼差しに真面目に答える事にした。


「もちろんです。身命をかけてお仕えさせて頂きます!」


 ランスキーはまっすぐにリューを見つめて誓うのであった。

 そのランスキーの姿に職人達は呆気にとられていたが、誰と言わず、みなが次々とランスキーに習い、地面に正座してリューに頭を下げた。


「……わかりました。みなさん僕が面倒をみます。これからはみなさん、ミナトミュラー騎士爵家の家族です。僕が親であり、みなさんは僕の子供です。僕の父親はみなさんの大親分になります。これからはそう思って付いて来て下さい」


「「「へい!」」」


 夕陽を背に、ランスキーと職人達はリューへの忠誠を誓うのであった。

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