第162話 確保ですが何か?
リューはマイスタの街の職人を取り纏めるランスキーの案内で現場に赴き、直接職人達と話して回った。
ランスキーの仲介とリューがこの街の街長である貴族である事から、職人達は表向きだろうが快く応じてくれた。
リューは『器用貧乏』スキルで元々鍛冶師の適正があり、真似事程度なら出来たところに、ゴクドースキルの能力、『限界突破』で鍛冶師としての腕も確かなところまで高めている。
職人は職人を知る。
リューは職人達もビックリの、現場の知識と技術を披露した事で、あっという間に頑固な者が多い職人達のハートを射抜いたのだった。
こうして、早速リューはマイスタの街に製造拠点を持つ事に成功し、王都に供給する道筋を作ったのだった。
リューはランスキー達と現場で別れるとリーンと二人、街長邸に赴いた。
すでにお昼を回っているので、二人を迎えたマルコは、
「今日も朝から来られると思ってましたが、学業の方がやはり大変ですか?」
と、軽く皮肉を言ってきた。
勉強との両立が大変ならこっちにわざわざ来なくてもいいぞ、という事だ。
「今日は直接、面会と契約を取ってきたので遅くなりました」
リューはその軽いジャブの様な皮肉には反応せずに、こちらからも軽くけん制してみせた。
「……面会と契約ですか?」
マルコは不審な面持ちで聞き返す。
「ええ。職人をまとめているという方が面会を”求めて来た”ので会いに行きまして、その方と意気投合して、その勢いでランドマーク製品の製造契約を結んで来ました」
「え?──そのような話を私は聞いておりませんが?ちなみに面会相手というのはどこの誰でしょうか?」
「えっと……、リーン、名前なんて言ったっけ?」
「ランスキー代表よ。口は悪いけど、感じは悪くなかったわね」
リーンはリューがとぼけた芝居を始めてたので付き合う事にした。
「ランスキー!?奴はこの街の厄介者です!その様な奴の手下達と契約を結ぶなどミナトミュラー騎士爵の名に傷が付きますぞ!?悪い事は申しません、契約は破棄した方がよろしいかと。職人がご入用でしたら私が知っている職人達を紹介しますよ」
「会って話しましたが、良い人でしたよ?紹介して貰った職人さん達も技術は確かでしたし。彼らならランドマークの製品作りに大いに貢献して貰えると思いました。それにミナトミュラーの名は、誰も知らない名。傷など付き様はずもありません」
「……くっ!ですが、ミナトミュラー騎士爵様の寄り親、ランドマーク子爵家は今や王都でも名が知られて来ているとか……。ランドマークの名にも傷が付く事になります。それに、その様な大口との契約、ランスキーなどにやるのはこちらの損……」
マルコは、思わぬ展開に慌て、口を滑らせた。
「どちらの損なのですか?与力であるミナトミュラー騎士爵家としては寄り親のランドマーク家の利益は我が家の利益です。あなたの言う損とは誰の損なのですか?」
リューが何も知らないけど気になるー!という様な表情でマルコに言い寄る。
「あ、いや……。もちろん、街長であられるミナトミュラー家と、寄り親であるランドマーク家ですよ!……えー、そ、そう!札付きの悪であるランスキーとの契約は信用できません。愚の骨頂です!あんな奴に大口の契約を与えるなど、ルッチが何を言うか……」
「なるほど、ランスキーと契約を結んだ僕は愚の骨頂ですか」
「あ……。いやいや、それは言葉の綾というものでして……」
マルコは泥沼にハマった様にぼろが出ていく。
「それとルッチとは誰ですか?あ、聞いた覚えが……。あ、そうそう、確かこの街で農業ギルド長を務めている方ですね。仲が良いのですか?」
リューはまた、無垢な顔をして好奇心で聞いてますよ?という顔をするとマルコを問い詰める。
「いえ!あくまで同業……ではなく、仕事柄会う機会が多いだけでして……」
「でも、変ですね?農業ギルド長が畑違いの職人関係の契約に口を出すのですか?」
「違います!ランスキーと農業ギルド長ルッチは仲が悪いので文句が出るという話で……」
マルコは最早、嘘をついて誤魔化す事も出来なくなって来た。
「なるほど、マルコ殿は、ルッチ殿を贔屓にしてるからランスキー代表を悪く言ってるのですね。それは困ったなぁ。どちらかに肩入れされて仕事をされているとなると、僕もマルコさんの扱いを考えなくてはいけません」
「ち、違いますから!ランスキーはごろつきでマイスタの街の病巣なのです!ルッチ殿はこの街に多大な貢献をしているギルド長、比べようが……」
「なるほど、つまり話をまとめると、僕の見立てが間違いで、そんな僕の行為は愚の骨頂だという事ですね」
「いえ、その様な事は!」
「ははは。冗談ですよ。ですが、僕はランスキー代表という方を気に入りましたので契約は破棄しません。書類はこちらで整えますので、マルコさんは普段通りお仕事をお願いしますね」
リューはそう言うとリーンと共に、執務室に入って行く。
「……リュー、やり過ぎよ」
リーンが、小声でリューの耳元で呟く。
「ははは。ちょっとからかい過ぎたね。でも、これでマルコはこれ以上反対できないでしょ。後から色々準備して反論されるよりは今のうちに話を通しておいて良かったじゃない」
リューは小さい声でそう答えるとクスクスと笑うのであった。
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