第161話 お仕事の話ですが何か?

 学校の無い休日のとある屋敷。


 リューはいつも通りマイスタの街に街長としての仕事をする為に、訪れていた。


 もちろん、傍にはリーンが付いている。


 訪れているのは、マイスタの街の職人を独自にまとめている男の屋敷である。


 その長は、片目に眼帯をしていて左手の小指が無い男だった。


 髪型はぼさぼさの茶色に同じく茶色の瞳、背は大きく逞しい。


 一見するとカタギと言うよりは裏社会の人間に見える。


「それで、新しい街長が何の用ですかい?」


 ぶっきらぼうな言葉遣いで新たな支配者にも媚びを売る気はなさそうだ。


「単刀直入に言うと、あなたはこの街の職人達の信頼が厚いと聞きました。そこで折り入ってお話があります」


 リューは、目の前のこの男、ランスキーに用件を切り出すのであった。


「──実は、この地の新しい領主でもあり、我が寄り親であるランドマーク家は王都で事業を展開しています。ただ現在、製造拠点は自領に有る為、このマイスタの街にも製造拠点を作り、ここから王都に商品を卸したいと思っています。そこで、職人を独自にまとめているランスキーさんに職人達を紹介して欲しいんです」


「それは、この街の職人に仕事をくれるって事かい?」


「ええ、僕はミナトミュラー騎士爵である前に、ランドマーク家の人間ですので製造について一任されています。なのでちゃんと仕事を保証できる立場なのでご安心下さい」


「……あんた、街長なら自分の屋敷に俺を呼び出して、命令すればいいんじゃないのか?」


 ランスキーは美味い話に食いついて来ない。


「……それでは、あなたは首を縦に振らないでしょ。元街長であるマルコにそうした様に」


「……地方から来た貴族にしちゃ、情報通みたいだな坊ちゃん。この話はマルコの野郎から聞いたのか?」


 ランスキーはリューを見る目を鋭くすると、威圧して来た。


「そんなわけないでしょ。彼に相談したら今頃、自分の息のかかった職人のところに案内されてますよ」


 リューはランスキーの威圧をものともせず、ちらっとこの街の内部事情を披露してみせた。


「……ほう。マルコが何者か知ってるみたいな口調だな」


「ええ、あなたほどではないですが、街長代理マルコの所属してる組織とあなたが犬猿の仲だと言う事くらいは知っています」


「知っていて、うちに話を持ち込んでくるとは、頭がイカれてるなあんた」


 ランスキーは目の前の子供、リューを坊ちゃんからあんたに言い換えた。


「あなたがその組織の幹部として以前は所属していて、他の幹部と揉めて抜けた事でその目と、その指を失った事も聞いています。その為、この街でも少し生きづらい状況だとか。あなたに付いて来た職人の為にも、僕やランドマーク家の為にも契約して貰えたら助かります」


「……そこまで知っていてうちの職人達と契約を結ぼうとか正気かあんた?あんたがどうなろうが俺の知ったこっちゃないが、うちと組めば組織の連中が黙ってないぞ?」


「ははは。それはないですよ。だって、今、それどころじゃないみたいですから」


 リューはランスキーの警告を笑い飛ばした。


「驚いた……、そんな情報まで掴んでいるのか……。確かに今は組織の連中も、うちやあんたに構ってる場合じゃない。だが、組織はデカい。すぐに敵を壊滅させてさらにでかくなり、圧力をかけてくるぞ」


 ランスキーは改めて警告した。


「それはどうなるかわかりませんよ。聞けば相手の方々は善戦して互角に渡り合ってるとか。今後どうなるかはわかりませんが、職人のみなさんには手を出させない様にミナトミュラーの名にかけて守ってみせます」


 リューは、誓いを立てようとした。


「自分の身は自分で守るさ。俺達職人はそうやって生き残って来た。相手が、元身内であってもだ。俺が言いたいのはあんたとその家族だ。奴らと揉めたらタダじゃすまないぞ?」


 ランスキーはリューの申し出を断ると逆にリューを心配した。


「揉めるつもりは基本、ありませんよ。今日は”ランスキーさんの希望で面会して契約を結ぶに至った”、そういう話でお願いします」


「は?……それは別に構わんが、街長代理のマルコが黙っていないだろ?あんたの弱みを握ってあれこれ圧力掛けてくる可能性は高いぞ」


 ランスキーは目の前の子供の曲者ぶりに呆れながらも三度目の警告をする。


「それもご心配なく。うちも自分の身は自分で守ります。──そうだ!この後時間がおありでしたら、職人さん達のいる現場を案内して下さい。技術面の確認もしたいですし」


 リューもランスキーの心配をよそに仕事の話を進める。


「……別に構わんが、うちの職人達の技術は一級品だぞ?元々マイスタの街は──」


 ランスキーはこの街の由来について話し始めようとする。


 その話を耳にタコが出来る程聞いているので現場に行く事を促すリューであった。

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