第155話 街長ですが何か?

 闇組織の存在を知ってから数日後。


 マイスタの街が王家から正式にランドマーク子爵に引き渡され、そこの街長にリュー・ミナトミュラー騎士爵が就く手続きも済んだ。


 元々の街長は国で雇っていた現地人だったので、本人の希望もあり、ランドマーク家で再雇用し、リュー・ミナトミュラー騎士爵の街長代理として働いて貰う。


 その説明も含めて、リューはリーンと共に、マイスタの街に就任日、初めて来た様な素振りで訪れた。

 馬車から降りてきたのがリューとリーンだったので、出迎えた男と側にいた使用人達は目を大きくして驚いているのがはっきりとわかった。


「──あ、失礼しました。私が、この街長、いえ、今回街長代理を務めさせて貰う事になったマルコと申します。──若いとは聞いていましたが、こんなに……とは思っておらず驚いてしまいました。申し訳ありません」


 二人を出迎えた男、黒髪に黒い瞳、細目で口角が常に上がっているので微笑が絶えない人物にも見えたが、その細い、少しだけ覗く瞳でリューは確信した。


 リューは前世でこのタイプを腐るほど見てきている。


 この人は同業者だ。……あ、前世の自分、という意味で。


 リューはこの街長代理が、闇組織におもねっている堅気の人物ではなく、闇組織側の人間だと判断した。


「いえ、驚かれるのも仕方がありません。僕もまだ、こんな事になって驚いてるところなので……。この街のことは全く分からないので簡単に説明して貰っていいですか?」


「はい、では早速──」


 街長代理のマルコがこの街の成り立ちや産業について簡単に説明する。


 リューはあらかじめ学習して来ているので知っている事ばかりであったが、初めて聞くかの様に感心し、頷いて見せる。


 時折少しは頭が働くんだぞというところを見せる為に説明の合間に質問を挟む。


「──という事で、税も毎年きちんと納められる程度には安定しています」


「そうですか。ご説明ありがとうございます。マルコさんがしっかりした方の様で安心しました。僕は騎士爵になったとはいえ、まだ学生なのでここには週末しか訪れる事は出来ません。勉強次第ではその週末も訪れる事ができるかどうか…。なのでマルコさんには今後も代理として大部分をお任せする機会が多いと思いますが、よろしいでしょうか?」


 リューはマルコを全く疑わずに信じている素振りをみせて聞いた。


「ええ、もちろんです。これまでも王家からこの街を任せられていましたので問題なく管理する事ができると思います。ミナトミュラー騎士爵様には学業に専念して貰い、良い成績を残して頂きたいですな」


 マルコは笑顔でそう答えるとどこかほっとしたところを見せた。


 そして、街長の邸宅にそのまま案内され、室内を見て回るとリューはその都度、説明を求め、マルコが答えるという形で時間が過ぎて行った。


「僕は学校に通う為に王都で過ごすので、こちらの邸宅は使えそうにありません。なので、マルコさんにここはお任せします。一応、週末は来るつもりなので、執務室だけは空けておいて下さい。それだけで後は十分です。今日は挨拶だけのつもりでしたが、長居してしまいました。それでは後をお願いしますね」


 リューはそう言うと、リーンを連れて早々に馬車乗り込み、街長邸を後にした。



 リューが立ち去った後の街長邸内。


「……全く!街長が若過ぎて焦ったぞ。まさか12歳の子供とは!ただの若い男なら女と酒をあてがい篭絡すればよいと思っていたのだが……。あの歳で騎士爵になるという事はそれなりに頭も良く腕も立つのだろう。実際、的を射る質問も少しあったしな。だが、ほぼ私に任せるというから良かった。これなら余計な事に気づかせる事なく、この街も今まで通り維持できるというものだ」


 部下を相手に安堵の溜息をつくとマルコは続ける。


「連れていたエルフの従者、見た目から若く見えるがあれの実年齢は45、6歳くらいだろう。きっと親であるランドマーク子爵が付けたに違いない。子供の方より、あっちに気を付けた方が良いだろうな。お前達も街長と従者がいる時は気を付けろよ」


「「はい!」」


 部下達の返事が返ってくる時には、街長代理マルコの口元の微笑はすでに消えていた。




「リーンはどう見た?」


 リューがリーンに街長の印象を聞いた。


「うーん。時間が短かったから何とも言えないわ。リューの質問もちょっと馬鹿っぽい質問ばかりだったからその返答からは判断できないし。何か引っかかるの?」


 リーンはマルコに印象について別段、悪い印象を持たなかったらしい。

 何かと役に立つ能力を持つリーンの目も誤魔化すマルコ、やはり警戒が必要だろう。


「彼は、闇組織の中でもきっと上の方にいる人間な気がする。あの目には、裏社会で経験を重ねてきた者の冷たい光が宿っていたから」


「あの細い目ではどこを見てるかもわからなかったけど……、リューがそう言うなら気を付けるわ」


 リーンは自分の目を細くして少しふざけると、リューの言葉に頷いて警戒する事を誓った。


「そうだ。そろそろ仕込んだものも王都に広がる頃かな」


 リューはそう言うと意味ありげに微笑むのだった。

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