第156話 噂からですが何か?

 王都の裏社会では、数日の間にある噂が急速に広まり始めていた。


 それは、王都の裏社会で最も勢力を持つ『闇組織』が、同じ王都の他の勢力グループの縄張りを狙っているというものだった。


 それは特に真新しい情報ではなく常に囁かれている事であったが、その噂に加えて勢力グループの『上弦の闇』と『月下狼』のいくつかの縄張りが、正体不明の一団に襲われたのだ。


 その直後にすぐ、勢力グループ同士の抗争という噂が両グループに流れた。


 これには『上弦の闇』と『月下狼』は疑惑を抱いた。


 相手を襲撃した覚えがない上に、噂が流れるのが早すぎる。


 これは誰かが仕組んだのではないか?


 そう考えた二つの勢力は、殺伐とした雰囲気ながらも会合を開き、お互い共に襲っていない事を確認した。


 これはいよいよ、きな臭い感じがする。


 そう考えたこの二つの勢力が何度か会合を開き、今後について話し合っていたところ、三つ目の最大勢力グループ『黒炎の羊』のリーダーが直接、『上弦の闇』と『月下狼』の会合場所に現れた。


 その危険を冒して現れた理由が、『上弦の闇』と『月下狼』が同盟を組んで、『黒炎の羊』を潰す企みの為、会合を繰り返しているという情報を得たからだと言う。


『黒炎の羊』は、大勢力である『闇組織』という脅威があるのに、今、勢力グループ同士で争うのは危険だと、リーダー自ら説得しに訪れたのだった。


 これには、『上弦の闇』、『月下狼』共に、糸を引いてる者がいるのがわかった。


 この三グループが王都では数少ない『闇組織』に対抗しうる勢力だ。

 グループ同士、仲は良いとは言えず、小競り合いもよくあったが大きな揉め事は無かった。

 それを争わせ均衡を崩そうとしている者がいる。


 自分は高みの見物で、その均衡が崩れたら得する者……。


「「「『闇組織』以外にありえない……」」」


 三つのグループのリーダーがひとつの答えを思い浮かべたところに、報告があった。


「『黒炎の羊』の拠点が襲撃を受けて怪我人多数。情報では、敵は『上弦の闇』と『月下狼』の連合を名乗っていたそうです!」


「敵は、俺達が丁度、会合を開いてるとは思っていなかったようだな!」


『上弦の闇』のリーダーである大柄な男が犯人が誰であるか確信して、立ち上がった。


「小細工が裏目に出たようね!」


『月下狼』のリーダーである頬に傷がある女性が、煙草を捨てて立ち上がる。


「お前さん達がここにいて一緒に会合をしている以上、やったのは誰か明白だな…!」


『黒炎の羊』のリーダーである初老の男が静かに怒ると二人に続いてゆっくり立ち上がった。


「「「『闇組織』が、仕掛けてきやがった!」」」


 三勢力の意見が一致した瞬間だった。


「小細工を弄して俺達を争わせ、漁夫の利を得るつもりか!」


「舐められたものね、でかい組織だと思って調子に乗り過ぎたわ」


「……どうやら、意見は一致の様だな。ここに連合を組む事を提案する!」


「おうよ!俺達の力を奴らに示してやろうぜ!」


「「「おお!」」」


 こうしてその場で三勢力の連合が出来上がった。


 もちろん、『闇組織』に対抗する為のものである。


 王都の裏社会は静かに危険な様相を呈してきたのであった。




「それにしても、うちの孫は恐ろしい事を考えたもんじゃのう。ははは!」


 黒装束に身を包むリューの祖父カミーザが、その顔を覆う布を外しながら笑って言った。


「わはは!まさか裏社会の勢力同士を争わせる計略を考えるとはリューの坊ちゃんは末恐ろしいですな!」


 同じく黒装束に身を包んだランドマーク領、領兵隊長のスーゴが、楽し気に笑う。


 他にも黒装束に身を包んだ者達がいたが、それらはランドマークの領兵達であった。


 カミーザとスーゴに鍛えられた精鋭達は、リューの考えた作戦の元、任務をこなしてランドマークビルの管理人レンドが用意した王都外れの隠れ家に集まっていた。


「おじいちゃん達ご苦労様です」


 リューが、祖父達を労う為に現れた。


「死人は多分出とらんが、これでよかったのか?」


 カミーザが、リューの作戦について成功の有無を確認した。


「裏社会の住人同士が争う方向に向かえば問題ありません。あとは、『闇組織』の動向を監視して、次の策を練ります」


「なんじゃ、暴れ足りないんじゃがのう」


 カミーザはウキウキしている。


「もし、三勢力が不利になったら助けて均衡を保って下さい。それまでは、監視でお願いします」


 リューは笑うと祖父カミーザを落ち着かせるのであった。



 翌日の夜、王都にある『闇組織』の闇取引の拠点のひとつが、『黒炎の羊』、『上弦の闇』、『月下狼』の連合によって襲撃され、完全に潰された。


 死傷者も『闇組織』側に数人出た。


 連合はこうして、拠点の1つを破壊する事で『闇組織』に対して宣戦布告した形だ。


 こうして今ここに、王都の裏社会を騒がせる仁義なき大抗争が、始まったのであった。

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